一体なぜ!?相次ぐジュゴンの“餓死” 地球温暖化でタイの海に異変が…
「人魚のモデル」とも言われ、絶滅危惧種に指定されているジュゴン。東南アジアのタイでいま、餓死したとみられるジュゴンが相次いで見つかっている。地球温暖化の影響で、エサとなる海草が広範囲で失われているという。タイの海の異変を追った。
■ジュゴンの死 10年前に比べ3倍以上に
2024年10月27日、タイメディアが「ジュゴンの将来を危惧」と報じた。南部のプーケットなどが面するアンダマン海で10月に入り、合わせて8頭のジュゴンが死んでいるのが見つかったという。
1頭は体にロープの痕があったことから、漁網に絡まったとみられている。ほかの4頭は腐敗が進み、死因を特定できなかった。問題は残る3頭だ。消化管に食べ物がほとんど残っておらず、餓死したとみられている。
その後も、アンダマン海で11月末までにさらに7頭。12月に入ると、わずか4日間で6頭のジュゴンが死んでいるのが見つかった。24年にタイ沿岸で死んだジュゴンは合わせて40頭を超えていて、10年前と比べ3倍以上に増えている。
■タイ最大のジュゴン生息域 リボン島の危機
タイ南部トラン県にあるリボン島は、タイ最大のジュゴン生息域と言われてきた。しかし、アンダマン海の海洋沿岸資源研究センターによると、2021年ごろに約200頭いたジュゴンは、今では10頭ほどに急減している。
原因は、エサとなる海草の消失だ。
ジュゴンは、海に生息するほ乳類としては珍しい草食動物で、海草を主食としている。ジュゴン1頭が生きていくためには、一日あたり約30キロの海草が必要だと言われている。
しかし、地元メディアによると、アンダマン海では、約38平方キロメートル(東京ドーム約810個分)の広さの海草床が枯れつつある。このためリボン島のジュゴンは、ほかの海域にエサを求め移動したのだという。
■なぜ海草が急減しているのか?
タイの海洋環境学者トーン・タムロンナワサワット氏は、地球温暖化の影響を指摘する。
頻発する大雨による洪水で土砂などが海に流れ込み、海草の生育や繁殖を妨げているほか、海水温の上昇も悪影響を与えているという。
タイ当局も温暖化が大きな要因だとして危機感を強め、対策に乗り出した。
■新たなエサ場に“海中菜園”!?
タイの海洋沿岸資源局などは、アンダマン海沿岸の複数の水域で“ジュゴンのための新たなエサ場”を作る取り組みを始めた。もともと海草が生えていた場所の近くに、海藻やケール、空心菜や白菜などを沈めて、代わりのエサにしようというのだ。様々な種類を設置するのには、ジュゴンが好むものを調べる意図もある。プーケットの実験区では、ジュゴンが海藻や白菜などを食べたとの報告も上がっている。
ただ、海洋沿岸資源局は「こうした取り組みはエサを補うかもしれないが、主な食料源としての海草に取って代わることはできない」とも述べている。それでも、有効な打開策がない中、ジュゴンの行動やエサの好みに関する多くのデータを集め、今後の保護戦略に役立てる考えだ。
■6年以内にジュゴンは半減か
タイの天然資源環境相は24年11月、気候変動対策を話し合う国際会議「COP29」で演説し、「タイは気候変動に対して最もぜい弱な国の1つだ」とした上で、「記録的な猛暑、大雨による洪水や地滑りなどに見舞われ、経済と暮らしに取り返しのつかない被害が出ている」と訴えた。
さらに、「被害には海草などの生物多様性の損失も含まれており、このままでは6年以内にジュゴンの個体数が半減する」と、ジュゴンを例えにあげて危機感を示した。
ジュゴンと海草の減少は、これまでタイが経験したことがない速さで進んでいる。アンダマン海にかつて数百頭いたジュゴンはいま、100頭ほどしか残っていないとみられている。ジュゴン絶滅の危機は、現実のものとして迫っている。