【解説】“新トランプ”? 90分にわたる大演説 「“銃撃事件”のウラ側」「たっぷりの余裕」 バイデン大統領は…
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鈴江奈々キャスター
「トランプ氏が“銃撃事件”後、初めて共和党大会で演説を行いましたが、その大統領候補としてはこれまでで最も長い1時間半あまりにわたる演説となりました。その内容について3つのポイントで見ていきます」
■“銃撃事件” 初めて語るウラ側
■余裕たっぷり “新トランプ”
■バイデン大統領 撤退間近か?
まずこの演説の中で当時の銃撃事件の状況、心境について語りましたね。
近野宏明・日本テレビ解説委員
「そうですね。トランプ氏は、事件については『つらい出来事なので二度と話すことはない』と前置きした上で、事件を振り返りました。『風をきる音がして、硬いものが右耳にぶつかった』『攻撃を受けているとわかってすぐに地面に伏せた』などと当時の状況を詳細に説明しました。その上で『素晴らしい人々(シークレットサービスやまわりにいた人々)が大きなリスクを負って守ってくれた』と賛辞を送りました。そして『神は私の味方だと感じた』というふうに述べると、そのくだりでは会場にいた多くの支持者の目に涙が浮かんでいるのもはっきりと見て取れました。そして事件で巻き添えになって死亡した元消防士の制服をステージに上げ、歩み寄りキスをしました」
鈴江キャスター
「演説の中でも亡くなった人のご家族やケガをしたご家族に会いに行ったという話もしていました。人として心を寄せる姿というのも印象的でしたが、政策についても演説の中ではたっぷり語っていましたね」
近野解説委員
「時間はいっぱい割いたんですけれども、政策的な内容としてはこれまでのトランプ政権の政策を踏襲していて、いわば『ザ・トランプ』の世界でした。具体的には第一の基本理念『アメリカ第一主義』。再び偉大な国にしよう。自動車などの製造業や経済を再興させようということ。それから国境の管理を徹底して不法移民対策。これを徹底していくということ。それから対中国“強硬姿勢”です。相変わらずです。これは経済であってもコロナであってもということですね」
「それから、自分の政権の時には安全保障面で、例えばウクライナ侵攻だとか、イスラエルの攻撃といったものは起きなかったということを豪語しまして、『私なら電話1本で戦争を止めることができる』とまで言いました。『この地球は今、第3次世界大戦の瀬戸際にあるんだ』と危機感を強調した上で…」
鈴江キャスター
「この言葉はどきっとしますよね」
近野解説委員
「その一方で、北朝鮮政策などについては、一期目の実績を引き合いに出しながら、『自分だったらうまくやるんだ』。自分がこれまでやってきた実績・方向性は間違いないんだという自信を内政でも外交でも強調しました」
鈴江キャスター
「政策の面ではそれほど大きな変化はなかったんですが、2つ目のポイント『余裕たっぷり “新トランプ”』。近野さんの目には何が“新”と映ったんでしょうか?」
近野解説委員
「その口ぶりと表現ぶり、振る舞いというのが、見ていた人は感じたと思いますが、かなり違いましたね」
鈴江キャスター
「たしかに印象が変わった感じがしました」
近野解説委員
「具体的には演説の前半、特に銃撃事件の状況を振り返ったくだりは特にそうでしたが、努めて冷静に、落ち着いて、ゆっくりと話す。今までありがちな、大声でがなり立てるということもあまりありませんでしたし、とにかく間をちゃんとちょっとずつ、しっかりと取って話をしていました。党大会最終日の演説まで初日から一貫して、今回のトランプ氏は“新トランプ”という姿を印象づけたと思います」
「特に自分が起訴されている4つの事件・裁判について、19日の演説の中では『民主党による魔女狩りなんだ』と批判した部分もあったんですが、そこでも声のトーンとしては抑制的にしゃべっていた。それから現政権、バイデン政権の各政策については、かなり時間を割いて批判はしていましたが、『バイデン大統領という名前は、19日は一度しか言わない』というふうに演説でもわざわざ断りを入れて、名指しで繰り返しバイデン大統領をののしることは抑制しました。過激な言葉というのは全体的に鳴りを潜めていた印象です」
鈴江キャスター
「全体で柔和な印象も受けましたけれども、そこには何か狙いがあったんでしょうか?」
近野解説委員
「推測されるのは、この“新トランプ”の定着と、“巧みな役割分担”がこれから起きるのではないかと。つまり、副大統領候補の若いバンス氏にこれまでの自分のような激しい口調だったり主張だったり、打ち出しというのは彼に任せる。自分自身は、これまでとは少し趣が異なる『包容力』だとか『落ち着き』だとか『余裕』だとか、こういうものをきちんと示して役割分担をしていくのではないかと。“ほえるトランプ”といういつものあのモードではなく、むしろ今回はとにかく堂々と、ゆったり見えることを心がけたように見えました」
鈴江キャスター
「見えました」
近野解説委員
「演説の中身でもトランプ氏は、『私を支持していない人も支持してくれると思う。アメリカンドリームという言葉もしばらく聞かないが取り戻したい。私は皆さんに未来についてわくわくしてもらいたいんだ』。できるだけポジティブな言葉遣いの発信を心がけていたようです。その上で、ここも重要なのですが、『アメリカの半分ではなくて、アメリカ全土、すべてのアメリカのための大統領になるため自分は立候補している』と社会全体の団結を訴えた。これらが4年間の実際の実績を踏まえた『風格』、これを感じさせていくことになれば、従来のトランプ支持層以外に中間層や無党派層にも訴求していく可能性があるわけです」
鈴江キャスター
「分断をこれまであおるような存在というイメージがありましたが、むしろ取り込んで、みんなを1つに団結させていこうとを打ち出したわけですね」
近野解説委員
「統率していこうと」
鈴江キャスター
「そして第3のポイント『バイデン大統領 撤退間近?』ということで、バイデン大統領には今、逆風がかなり吹いているという状況ですね」
近野解説委員
「さまざまなアメリカメディアの情報が事実だとすると、例えばオバマ元大統領、それからペロシ元下院議長、彼らはバイデン氏に最も近しい『盟友』と言える存在です。彼らが直接『やめろ』とは言っていないにしても、相当に踏み込んだ忠告を陰に日なたにやっている可能性が出ている。かなりわかりやすく状況を見ると、外堀を埋め始めているということがうかがえます。でも、バイデン大統領が実際に決断をするにあたってもう1人、影響力の大きい人。誰だと思いますか?」
鈴江キャスター
「ジル夫人ですか?」
近野解説委員
「そう、ジル夫人です。半世紀以上にわたって夫の政治生活を献身的に支えてきた。それから長男を病気で亡くしているんですね、若くして。最愛の息子を亡くした喪失感などを一緒に乗り越えてきた伴侶ですから、ジル夫人が『もうそろそろ潮時じゃない?』という形で促すことがもしあれば、その時こそ、バイデン大統領が決断するのではないかとみられています」
鈴江キャスター
「なるほど」
近野解説委員
「バイデン氏、共和党大会の閉幕後すぐに自分自身の決断について重大な発表を行う見込みだという、政治専門メディアの報道もありますので、本当に目が離せない状況です」
鈴江キャスター
「そうすると、今後の日程が気になるので整理したいと思います。19日に共和党大会が終わりました。そして8月(19日~22日)に民主党大会が迫っているわけですけれども、この間にその決断があるのではないかという話になってくるのでしょうか?」
近野解説委員
「そうですね。もし撤退するのであれば、それはなるべく早いほうがいい。なぜならこの時点(8月19日~22日の民主党大会)では次の人をしっかりと、これが民主党の候補なんですという打ち出しを全力でやる必要がありますから、一致団結してトランプ陣営と対峙(たいじ)したいところ。しかし、先ほど述べたように撤退圧力が再燃したこともありますので、この行く末によってはこの日程(8月19日~22日の民主党大会)とか内容も揺らぐ可能性も出てくる恐れもあります。民主党にはとっては本当に厳しい状況になってきています」
鈴江キャスター
「この過程(民主党大会や9月のテレビ討論会)が揺らぐかもしれませんがここ(大統領選投開票日)は変わりませんね?」
近野解説委員
「ここ(大統領選投開票日)は変わらない」
鈴江キャスター
「11月5日の大統領選投開票日に向けて、今まさに佳境を迎えている状況です」