侵攻1年 ウクライナから伝えたいこと……「明日は来ないことも」「当たり前の今は突然失われる」 離散の家族と公共放送のいま
有働由美子キャスターは去年8月、日本に母娘が避難して離ればなれになったウクライナ人の家族と、戦争を伝え続けている現地の公共放送を取材しました。侵攻から1年。現在の様子や、平和への思いを聞きました。日本で暮らす私たちへのメッセージとは?
有働キャスターが21日、都内で暮らすウクライナ人のミラーナさん(17)と母親のマリナさん(40)を訪ねました。2人は「お久しぶりです」と日本語で迎えてくれました。
侵攻から2か月がたった去年4月、戦火を逃れ、日本に避難してきました。
去年8月の有働キャスターのインタビューで、「いま1つ、何でも願い事がかなうとしたら?」と聞かれたミラーナさんは「世界中の全ての戦争が終わってほしいです」と話していました。
慣れない異国での生活も、もうすぐ1年になります。
ミラーナさんは都内の高校に通いながら、日本での大学進学を目指しています。自分の部屋では、押し入れの部分を勉強机として使っています。将来の夢は、研究者になること。日本での生活を楽しみながらも、ふるさとの状況を心配しているといいます。
一方で、母親のマリナさんは「とても複雑な心境です。娘が幸せなら私も幸せですが、夫や戦争が始まる前の生活が恋しいです」と言います。
ミラーナさんの父親のドミトロさんは、今も首都キーウ近郊の自宅に残っています。
去年8月、有働キャスターはドミトロさんが暮らす町を訪ねました。ドミトロさんは、ミラーナさんの部屋を案内してくれました。「ここに入ると、彼女がいるようです。心が引き裂かれそうです」と思いを吐露していました。
家族の日常は突然奪われました。
21日、ビデオ通話で家族3人が顔を合わせました。
ミラーナさんが「1人でさびしいの?」と聞くと、ドミトロさんは「本当にさびしいよ」と返しました。
マリナさんは「『平和のために武器を』。それは本当に恐ろしいことです」。するとドミトロさんは「私が戦場に行った時に、銃1つで戦車と戦えるのか?」と応じました。
これを受けて、有働キャスターは「2人とも平和を願っているのにその意見が違うというのは、すごく…響きます。本当に、何で戦争をしてるんだって思いますよね」。
会えなくなって1年。有働キャスターの「日本の人たちに伝えたいことはありますか?」という問いかけに、ドミトロさんは言いました。
「幸福と平和を望んでいます。今を大切にしてほしいです。当たり前だと思っている今は、突然失われることがありますから」
有働キャスターは去年8月、ウクライナの公共放送「ススピーリネ」も取材しました。
「戦争になって公正中立に伝えられますか?」という質問に、キャスターのアフティンさんは「そのように(公正中立に)伝えることに誇りをもっています」と話していました。
去年、テレビ塔も相次いでロシア軍の標的になりました。今も変わらず、最前線の戦場の様子を伝え続けています。
23日、オンラインで取材に応じたアフティンさんは「私たちの仕事は素早く、ゆがみのない真実を提供することです。公正中立に伝えなければなりません」と語りました。
その一方、「もう1年がたったので、人々は精神的にとても疲弊しています。『大丈夫、いつか勝つ』という希望になる情報も必要です」と強調しました。
戦火の中、スタッフたちは使命を果たし続けています。
ただ、アフティンさんは「残念ながら私たちの会社でも犠牲者が出ました。少なくとも(スタッフ)3人が亡くなっています。一緒に働いていた編集者は、義勇兵として前線に行って行方不明になりました」と明かしました。
侵攻開始1年に合わせ、大規模攻撃が行われるのではとの懸念もあります。アフティンさんは「もしかしたら最新のミサイルを発射されるかもしれません。あらゆることを覚悟しています。今年こそ戦争が終わってほしいです」と訴えました。
インタビューの最後に、日本の人に伝えたいことを尋ねました。
「平和を大切にしてください。愛している人がいれば愛し、やりたいことがあればぜひ挑戦してください。『明日』は来ないことがあります」。日本語で「ありがとう」と添えてくれました。
有働キャスター
「今回、皆さんお1人お1人に、日本の人に伝えたいことは何かと伺いました」
「ウクライナへの支援ではなく、今生きていることを大切にしてほしいと口をそろえておっしゃっていました。それほど、いつ命が奪われてもおかしくないということを毎日毎分、感じていらっしゃるんだなと思いました」
廣瀬俊朗・元ラグビー日本代表キャプテン(「news zero」パートナー)
「戦いをしたくない中で、自分や国を守るために武器が必要(という話がありました)。大きな葛藤の中で毎日過ごされていることに対して胸が痛くなりました」
「僕自身も、いろんなことを当たり前と思うのではなく、今をもっと大切にして、その瞬間を生きていく大事さを痛感しました」
有働キャスター
「この1年、私たちは戦争が始まってしまえば止めることがこんなにも難しいのだと、目の当たりにしています」
「ウクライナに心を寄せることはもちろんですが、自分ごととして、もし戦争になったらどうなるのか、そうならないために今何ができるのかを考えるのが大事だと思いました」
(2月23日『news zero』より)