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“人間をしのぐAI開発”がすでに進行中? 「チャットGPT」開発会社CEO解任劇の裏に…謎のプロジェクト“Q*”

2023年12月29日 11:00
“人間をしのぐAI開発”がすでに進行中? 「チャットGPT」開発会社CEO解任劇の裏に…謎のプロジェクト“Q*”
チャットGPT

IT各社が競ってAI(=人工知能)をリリースする“AI元年”となった2023年。利便性が注目された一方、誤情報の拡散や、AIに仕事を奪われるなどのリスクも指摘される。「チャットGPT」の開発会社で進行中とされる、人間をしのぐAI開発に向けた謎のプロジェクト“Q*”とは。

■“AI元年”に歴史的ストライキも…「AIが仕事を奪う」

2022年11月のオープンAIの「チャットGPT」公開を皮切りに、グーグルの「Bard(バード)」、イーロン・マスク氏が率いるxAIの「Grok(グロック)」など、IT各社が競って生成AIを発表した。世界全体の市場規模は2023年、約489億ドル(=約6兆4000億円)と推計され、2030年には2070億ドル(=30兆円近く)に達すると見込まれている(スタティスタによる)。

2023年は、ロックバンド「ザ・ビートルズ」がAIを使って、故ジョン・レノンさんが40年以上前に楽曲制作の過程で録音した音源をもとに“最後の新曲”となる「ナウ・アンド・ゼン」を完成させるなど、AIはその有効性を示した。

一方で、ハリウッドの俳優や脚本家らは「AIに仕事を奪われる」として使用の規制を求め、ストライキに突入。2つの団体の同時ストは63年ぶりとなった。AIに原則、脚本作りをさせないなど、利用基準を設けることで決着したが、AIをめぐっては今後、さまざまな業界でルール策定が必要になってくることを強く印象づけた。

■謎のプロジェクト“Q*” 「チャットGPT」開発会社CEO解任劇の裏で…

「チャットGPT」を開発するオープンAIの取締役会は2023年11月17日、「サム・アルトマンCEOが退任する」と明らかにした。突然の解任劇に従業員の大半が抗議し、アルトマン氏はわずか4日後に復帰した。オープンAIは11月29日、取締役を刷新する新体制を発表。アルトマン氏は声明で「AGI(汎用人工知能)を安全に作っていくチームにとって最も重要なことは、不確実な状況に対処し、最初から最後まで的確な判断力を維持することだ」などと述べた。

※AGI(汎用人工知能)=Artificial General Intelligenceの略。従来の「将棋を指す」や「人に代わって車を運転する」など特定分野に特化したものではなく、自ら学び、課題を解決できるAI。人間と同じレベルで判断し、タスクをこなせる知能を指す。

AIのリスクを研究するサンノゼ州立大学のアフマド・バナファ教授は「アルトマン氏の解任劇は、AIの開発に慎重なかつての取締役たちが、アルトマン氏の開発主義を戒めるものだったのでは」と分析し、次のように話した。

「人間より賢いAIの開発段階に入っているとみている。あの解任劇は、アルトマン氏が研究プロジェクト“Q*(キュースター)”を取締役たちに極秘裏に進めていたことが発端だったのだから」

ロイター通信によると、“Q*”は小学生レベルの数学を理解するAIで、AGIの実現に向けたプロジェクトだという。AGIは、人が担っている作業を取って代わることができ、大きな生産性の向上が見込まれる一方、人間をはるかにしのぐ知能を持ったAIへと進化し、人間と対立するのではという懸念もある。

バナファ教授は、アルトマン氏の復帰で「オープンAIのAGI開発は加速する」との見方を示し、それがAIの暴走につながる可能性もあると警鐘を鳴らす。

「最悪のシナリオは、戦場で人に判断を仰ぐことなく攻撃する無人機や、工場で私たちが想定していないものを勝手に作り出すAIロボットなどが現れることだ」

■あふれる“ニセ動画”…過度な開発、どう規制? 2024年にはアメリカ大統領選も

2024年11月にはアメリカ大統領選挙を控えているが、野党・共和党の候補者選びで、トランプ氏のライバルとなるデサンティス・フロリダ州知事の支持団体は、生成AIで作成したとされるトランプ氏のニセの動画をSNSに投稿。トランプ氏側もAIで作ったとみられるデサンティス氏のニセ画像を投稿するなど、印象操作につながりかねないニセの画像や動画がSNS上にあふれている。

動画投稿サイトのYouTube、インスタグラムやフェイスブックを運営する「メタ」社は、生成AIで作られた動画に“AIで作ったこと”などを明示するラベルの添付を制作者に義務付けた。

バイデン大統領は2023年10月30日、高度なAIの安全性を確保するための大統領令に署名。AIの開発に際し、安全性評価の提出を開発企業に義務付けた。技術革新を促しながら、リスクを回避したいとしている。

バナファ教授は「AIの一般利用は始まったばかりだ」とした上で、「2024年は対話型のAIだけでなく、もっとさまざまなアプリが生まれる。そして利用者が増えれば増えるほど、リスクも増えていく」と指摘した。

AIによるリスクをコントロールしながら開発を進められるのか、人類の英知をかけた挑戦となる。