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2021年3月6日 6:12

バイデン大統領は「普通の子」?

バイデン大統領は「普通の子」?

アメリカ・バイデン政権誕生からひと月余り、バイデン大統領とアメリカの現状について双日総研チーフエコノミストの吉崎達彦さんに聞いた。

■「良い子・悪い子・普通の子」

――吉崎氏は、バイデン大統領を昔の人気番組になぞらえて、こう評する。
「いろいろな人が『トランプさんはパンドラの箱を開けた』と言いますが、やはりトランプさんは突然、現れたわけではなくて、トランプ以前の8年間…つまりオバマさんの8年間の『反動』が出たと私は思います。オバマさんは8年間、わりときれい事を言ったわけです。じつは、そんなオバマさんのきれい事に息苦しさを覚えていた人たちがいて、それをトランプさんという天才が嗅ぎつけて、全部、自分の票に結びつけちゃった。ところがトランプさんが4年間、大統領をやったら、それはそれで収拾がつかなくなってしまって、『とにかく元に戻さないといけない』ということになったわけです」

「昔、(萩本)欽ちゃんのテレビで『良い子・悪い子・普通の子』ってあったでしょ。それにたとえれば、まず『良い子』のオバマさんが8年間やって、その後『悪い子』のトランプさんが出てきた。そして、いよいよどうしようもないから、今度は『普通の子』のバイデンさんが必要になった…そういう流れだと考えるといいのかなと思います」

「まあ、バイデンさんを『普通』と言うかどうかは別にして、バイデンさんという人は、あまり政策的なこだわりのない人だと思うんです。『実現しなかったら意味がない』と思っている現実主義者なので、結構、柔軟に対応すると思います。日本でいえば、いわゆる『国対族』というんでしょうか…与党よりも野党と話をする、つまり、反対側の共和党の人と仲良くして、とにかく法案を通すという、そういうタイプの方なんですよ。もちろん、やらなきゃいけないことはやるんだろうけど、何が何でもこれだけはやりたいということがない、そういうタイプの政治家だと思います。だから、『普通の子』としてのバイデンさんの役割は、オバマさんのように理想的なことを並べ立てるのではなく、『そんなことより、ちゃんと実務でやろう』という、それが今度の政権の役割かなと思います」

■アメリカの若者が抱える“学生ローン”

――今回の大統領選挙では、黒人や女性、マイノリティ系の支持を得て当選したバイデン氏だが、若者の多くも彼を支持した。その背景に、アメリカの深刻な問題があると吉崎氏は指摘する。
「バイデン大統領は就任早々、いくつもの大統領令に署名しましたけれど、その中に『学生ローンの返済を一時、猶予する』というものがありました」

「アメリカの学生ローンって今、大変なことになっていて、残高が1兆6000億ドルくらいになっている。ちなみに20年前は2000億ドルぐらいなんです。クレジットとか自動車ローンとか、普通のローンは全部、リーマンショックの時にガタ落ちになったんですが、学生ローンだけは20年間で8倍、一貫して残高が増え続けているんです」

「原因は、学費の値上がりもありますが、学生が良い職に就こうと思ったら、とにかく教育に投資するしかないんです。いい大学を出て、いい職に就く、と。今、私立大学では、1年間の学費だけで平均3万5000ドル(約370万円)と言われてます。ほかに大学の寮費など生活費もかかるわけで…中には年間1000万円になる学校もでてきて、これではなかなか普通の人は入ってこれなくなった。これは大問題なんですよね。結局、就職しても学生ローンを支払うために働いているみたいな人たちが結構いるんです。本当にどうにかしてくれと…。そういう気持ちが今回、民主党を支持した若い人たち、特にサンダース氏を支持した人たちの中にはあったんじゃないかと思います」

■普通の人がおかしいと思うことは、やはりどこかおかしい

――一方で、このコロナ禍における株高、理屈はわかるけど、「気持ち悪い」と吉崎氏は言う。
「実体経済でいうと、コロナ禍における動きとして、今よく『K字型回復』という言い方をするんです。景気の良い業態と悪い業態が2極化していて、その状況をKの字の右側の部分になぞらえているんです。じつは今、日本の国内を見ると製造業などは、わりと業績がいいんですよ。Kの上に向いている方です。一方で非製造業、特に対面のサービス業は、Kの下側に向いている方になるわけです」

「だから今の景気をどう見るかって、すごく難しくて、内閣府の月例経済報告も6か月ぐらい連続して判断を据え置きにしているんです。今、我々の実感では、どちらかというと明らかに景気は下を向いているはずなんですが、実際は、生産とか輸出とか見ると好調だから、景況を判断するのは、すごく悩ましいところなんだと思うんです」

「一方で、株高には別の理由があって、コロナ対策とかで財政支出が増えている一方、以前から続く金融緩和はこの先も続く見込みなわけ?で、そんな状況だったら『今、ここで手を引くやつはバカだよ』って感じで、どんどん買いに突き進んでいるわけです。株を売っても代わりに買うものがないという、とんでもない状況になっちゃっているわけだし。確かに私もこの株高は気持ち悪いですけど、これに関して売り進む人が出てこないというのも、まあそりゃそうだろうなと思います」

「とは言っても、いつか調整局面は来ると思っています。ただ、これまでマーケット番組とかに出ているような人たちも、陰では『何がきっかけで崩れるのだろう』と調整に入るきっかけが全く予想できないと言っていて、表向きには強気な予想をしているアナリストらも『不思議だ』と思っているぐらいです。だから、やっぱりそういう意味では、不思議だと思っても変ではないわけです。普通の人がおかしいと思うことは、やっぱりどこかおかしいんじゃないかなと思うんです」


【吉崎達彦/双日総合研究所チーフエコノミスト】
日商岩井入社。アメリカ・ブルッキングス研究所客員研究員や、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て2004年から現職。「かんべえ」の名前で運営するブログ「溜池通信」は、アメリカや国際政治ウォッチャー、株式ストラテジストなども注目する人気サイト。