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バイデン大統領の米国(1)良い立て直し

2021年2月10日 20:41
バイデン大統領の米国(1)良い立て直し

第46代アメリカ大統領ジョー・バイデン氏は、分断のアメリカをどこへ導くのか? アメリカに詳しい識者4人に新政権を理解するヒントを聞いた第1弾。

バイデン大統領が公約に掲げたキャッチフレーズ、実はトランプ氏のそれとそっくり? その意味とは。


■4人の識者
 藤崎一郎氏(中曽根康弘世界平和研究所理事長、元駐米大使)
  ※崎は右上が立のサキ
 前嶋和弘氏(上智大学教授)
 宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)
 渡部恒雄氏(笹川平和財団 上席研究員)

この記事は、4人の識者に個別にインタビューしたものを再構成したものです。


■「ビルド・バック・ベター」=より良い形で立て直す

――上智大学の前嶋和弘教授は、バイデン氏の公約からトランプ政権との継続性を指摘する。
(前嶋教授)
「国内政策に関しては、バイデンさんが公約のキャッチフレーズとしてきた『ビルド・バック・ベター(Build Back Better=より良い形で立て直す)』、まずこれが大きなポイントになると思います。国内政策として掲げた『ビルド・バック・ベター』には4つの柱があって、1つが『新型コロナウイルス対策』、2つ目が『製造業の立て直し』、3つ目が『人種平等』、4つ目が『クリーンエネルギー』です」

「そもそも『ビルド・バック・ベター』という言葉…つまり『より良い形で立て直す』というのは、例のトランプ前大統領が掲げたキャッチフレーズ『メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(Make America Great Again=偉大なアメリカを取り戻す)』とそっくり。これの民主党版ですね」

「この『ビルド・バック・ベター』の核となるのが、『製造業の育成』と『製造業の支援』です。これ、実はトランプ政権との継続性が見えるところで、トランプ支持者の一部に手を差し伸べる――具体的には、いわゆるラストベルトの製造業の人たちにも手を差し伸べていこうということ。『バイ・アメリカン(Buy American=アメリカ製品を買おう)』、そして『アメリカに工場を戻す』『企業に対しては税制の優遇をしていこう』というところが、トランプ政権が掲げたことと非常に似ているわけです。この製造業育成のところは、共和党と民主党の和合。両者をうまくもう一度、結びつけていく政策になると思います」


――それぞれの政策課題に対しては、閣僚の顔ぶれからも力の入れ様が分かると元駐米大使の藤崎一郎氏は言う。
(藤崎氏)
「まず『人種平等』については、すでに今回の内閣を見ると、アフリカ系の方とヒスパニック系の方が半分以上、入閣している。これは今までの歴史上ないことです。それから女性も多いということ。いわばマイノリティーに重点を置いた政権になっている。そういう意思を示していると思います」

「そして気候変動問題の担当については、大物ですね、元国務長官のジョン・ケリーさんを大統領特使に持ってきた。さらに税制や経済については、FRB(連邦準備制度理事会)の前議長のジャネット・イエレンさんという、これまた大物を財務長官に据えました。非常に経験豊かな人たちを持ってきて、それぞれの政策課題に対処していこうとしているなと思います」

――さらに藤崎氏は、今回のバイデン政権の特徴をこう指摘する。
(藤崎氏)
「バイデン氏は今回ホワイトハウスを、上院時代からのスタッフであり、副大統領時代のスタッフだった人たちで固めています。大統領首席補佐官となったロン・クレイン氏、国務長官のアントニー・ブリンケン氏、それから国家安全保障問題担当大統領補佐官になったジェイク・サリバン氏――これらの人たちは皆、バイデン氏の分身、いわば“バイデン・スクール”の人たちなんです」

「だから私は、『バイデン政権のキーパーソンは誰ですか』と問われれば、『それはバイデンです』と言っているんです。『みんな、バイデンなんですよ』と」


■国内の課題と外交政策が一体化

――キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦氏は、バイデン政権は、内政と外交を一体に考えていると言う。
(宮家氏)
「バイデン政権の主要な外交担当者というのは、もう何年も何か月も前から、内政と外交はおそらく一体で考えていると思うんです。どういう意味かというと、例えば『たしかに中国は問題である。しかし、中国と競争するためには、まずアメリカの経済を立て直さなければ競争なんかできないんだ』と。非常に現実的な正しい考え方だと思うんです」

「それからもう1つは、民主党ですから当然、労働者の味方じゃなきゃいけないし、それをある意味でトランプ氏に取られちゃった部分がありますから、その部分を前面に押し出してくると思います。どういう言い方をしているかというと、『アメリカの外交というのは、アメリカの中産階級の信頼を得なければ駄目なんだ』と、こういう言い方をしているんです」

――その点は、笹川平和財団の渡部恒雄氏も、こう指摘する。
(渡部氏)
「実はバイデン政権の政策課題を見てみると、外交とリンクするような課題がいっぱいあって、もはや国内だけというのはないというのが実情なんです。そして、おそらくバイデン政権は、最初の半年ぐらいは、外交に力を割けないと思うんですよ、内政が大変だから」

「とはいえ、外交をやらないわけにはいかないので、内政と外交がリンクするような課題を意図的に出してくる。たとえば『コロナ対策』『気候変動』もそうですが、バイデン氏が「結束」にむけて掲げる基本的な理念である『デモクラシー(民主主義)』においてもそうなんです」

「つまり『民主主義が大事だよ』という、国内融和へのアピールでもあるけれど、同時に外に向かってのものでもあるんです。例えば中国が香港の民主化運動を弾圧するような動きをしていると、これに対してやはりノーと言ったり、あるいはロシアに対して毅然とした態度をとったりという形で、実は『民主主義』が出てくるんですよ」


バイデン政権の政策課題は「コロナ対策」も「経済政策」も、ともに外交政策と密接にかかわってくるという。とすると、バイデン政権の外交姿勢が気にかかる…その点について、次回に続く。