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米中会談舞台裏…険悪ムード一転 何が?

2021年3月20日 20:14

アメリカと中国の外交トップ同士が初の対面形式で臨んだアラスカ会談。大国のメンツをかけ、冒頭から激しい非難の応酬になったが、終了後、両者から聞かれた言葉は「率直な意見交換ができた」。いったい何があったのか。2日間計8時間に及んだ会談の舞台裏を探る。
(ワシントン支局長・矢岡亮一郎 中国総局長・富田徹)


「あなた方は、少なくとも基本的な外交礼儀は守るだろうと思っていた」中国の外交トップ、楊潔チ政治局員は顔を赤らめ、ぶ然と言い放った。

アメリカのブリンケン国務長官の日韓歴訪の帰路、給油地で中間地点となるアラスカ州に、北京から楊潔チ政治局員と王毅外相が出向く形で開かれた会談。

複数の米政府関係筋によれば、日韓への訪問が決まった後、中国側がアメリカに働きかけたのだという。

最大都市アンカレジのホテルのボールルームで向き合った2大大国の外交トップ。

まず最初の発言者、ブリンケン長官が「ウイグル、香港、台湾、サイバー攻撃など、中国の行動への深い懸念についても話したい」と口火を切った。

すると中国の楊潔チ政治局員は返す刀で「中国の内政に干渉することに断固反対する」と反論。「アメリカには、多くの人権問題がある」と黒人差別の問題まで持ち出している。独演会さながらの冒頭発言は異例の20分近くに及んだ。

その後も、いったん退室したカメラを呼び戻すなどして繰り広げられた“公開の非難合戦”は1時間あまり続く。メディアは一斉に「異例の応酬」などと報じ、注目の会談は一気に視界不良に陥った。

■カメラ退室直後和らいだ「緊張」

しかし、米有力紙ニューヨークタイムズによれば、メディアが退室した直後から「緊張が和らいだ」のだという。

同席したある米政府高官は「ブリンケン長官が場を和ませる発言をした」と明らかにしている。

今回の会談は、アラスカ時間昼過ぎから3時間、夕食休憩を挟んで夜2時間半、そして翌朝も同じく2時間半、2日間で計8時間に及んだ。

同席した米政府高官によれば、2日目朝に始めた少人数会合で「良いやりとり」があったのだという。当初、短時間の予定だったが「とても建設的な議論ができた」ため、残りの時間すべてこの少人数形式で続けたという。

アラスカ時間正午前、会場をあとにし、それぞれ個別に取材に応じた米中外交トップが口にしたのは、くしくも同じ言葉だった。

■米中双方が口にした「率直な意見交換」

ブリンケン長官は「非常に率直な意見交換を長時間、幅広い議題で行うことができた」と8時間の会談を振り返った。

「イランや北朝鮮、アフガン、気候変動の問題で利害が交わる部分があった」と明らかにし、今後の協力分野としての期待感も語っている。

一方で「ウイグルや香港、チベット、台湾の問題などでは根本的な相違がある」として平行線をたどったことも強調した。

ブリンケン長官が「中国側の立場を守る反応に、驚きはない」と余裕の笑みを浮かべながら語った姿が印象的だ。

一方の楊潔チ政治局員も「今回の会談は率直で、建設的で、有益なものだった」と語っている。

■矛を収めた?中国の狙いは…

会談後、中国国営メディアは“会談の中身”を長文で報じた。しかし、その中には、会談冒頭で中国側が持ち出したいくつかの要素が消えている。

一つ目は「アメリカには多くの人権問題がある」などとアメリカの人権や民主主義の問題点を批判した点だ。しかし、会談後には「中国はアメリカの政治制度に干渉する意思はない」との発言が紹介されている。

もう一つは、ブリンケン長官が日本などと対中連携を確認したことなどを念頭に、「一部の国をけしかけて、中国を攻撃するよう仕向けている」と批判した点だ。

会談後の報道には、アメリカと同盟国との関係に言及した部分は見当たらない。つまり、アメリカの国情そのものやバイデン政権が最近打ち出した政策への批判が無くなっているのだ。

狙いはどこにあるのか。

中国国内では会談冒頭の発言が報じられると、SNS上には「英雄外交官」とか「勇ましい!」などと愛国心とあおるような投稿が相次いだ。

しかし、国内でバイデン政権への反感が高まりすぎれば、今後の対米外交の選択肢をかえって狭めることになる。当の中国外務省も直後から火消しに動いている。

外務省の報道官は会見で冒頭のやりとりについて、「中国側は意図していなかった」とした上で、「冒頭の挨拶はただの前菜で、その後のメインディッシュが大事だ」と軌道修正をはかっている。

もともと習近平指導部にとって今回の会談は、バイデン政権の発足を契機に関係修復の糸口を探るのが目的だった。

国営メディアはトランプ前政権の対中政策は批判する一方、バイデン政権には政策の転換を求めたことも紹介している。

冒頭の激しいやりとりとは裏腹に、カメラが消えた後は中国側も取り繕う姿勢を見せたとみられる。

■カメラ前でこだわった米中「国内向けメッセージ」

では、なぜ米中は会談冒頭でお互いを非難し合ったのか。ワシントンの外交筋は「米中双方が国内向けに強いメッセージを出す必要があった」とみる。

バイデン政権側には「中国に弱腰」との一部イメージを払拭(ふっしょく)する狙いがあり、中国側も国内世論を意識すれば「言われっぱなし」では終われない事情があった。

カメラの前では双方一歩も退けず、あの非難の応酬になったとの見方だ。

■米高官「戦術的計画のコースから外れなかった」

同席した米政府高官は会談終了後、「われわれは戦術的に計画を立て、そのコースから外れることはなかった」と振り返り、「シナリオ通り」であったことを強調してみせた。

別のバイデン政権関係筋によれば、会談に同席したキャンベル・インド太平洋調整官がこのシナリオを描いたという。

キャンベル氏は、会談開催地の選定も主導し、バイデン政権が掲げる「強い立場からの外交」の方針に沿うよう、当初中国側が打診した北京ではなく、アメリカ国内に「呼びつけた」形にできるアラスカを選んだのだという。

■米中「率直な意見交換」今後は?

今後の米中協議はどうなるのか。ブリンケン長官の隣で協議に出席したサリバン大統領補佐官は、「ワシントンに戻り、同盟国と協議していく」と述べるにとどめた。

一方で、同席した米政府高官はこんな軽口をたたいている。「次の会談の約束はしていない」「ただ私は寒いアラスカよりハワイが好きだ」と。