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【専門家解説】ガザ地区「攻撃強化」へ 地上侵攻の行方は?3つのポイント【バンキシャ!】

2023年10月23日 11:48
【専門家解説】ガザ地区「攻撃強化」へ 地上侵攻の行方は?3つのポイント【バンキシャ!】

イスラエル軍は、「戦争の次の段階に備え、パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を強化する」と発表しました。地上侵攻への緊迫感が一段と増しています。その戦況を左右するといわれるのが、イスラム組織「ハマス」がガザ地区に張り巡らせた地下トンネル。内部には、ハマスの戦闘員、そして大量の武器が──。防衛研究所で中東地域を専門に研究する西野正巳主任研究官に話を聞きました。(真相報道バンキシャ!)

パレスチナ自治区ガザ地区では、21日にエジプトとの境界にあるラファ検問所が開通し、支援物資を積んだトラック20台がガザ地区に入りました。人道支援が行われる一方で、同じ日、イスラエル軍は「戦争の次の段階に備えるため」として、ガザ地区への攻撃強化を発表しています。

──この状況を受けて、①「地上侵攻」の時期、②「人質」どう救出、③「事態収束」の見通し。この3つのポイントを軸にお聞きします。まず、地上侵攻のタイミングはどうお考えでしょうか。

西野正巳主任研究官
「いつ始まってもおかしくないと考えています。なぜならイスラエル軍は予備役を36万人招集して、その動員はほぼ完了しています。イスラエル軍の陸軍の半分以上予備役ですが、陸軍の大規模な戦車部隊もガザ地区とイスラエルの境界線上に集結しています。さらに外交的にも、先日アメリカのバイデン大統領もイスラエルに来て、イスラエル側と会談して、アメリカとしてイスラエルを全面的に支援することも約束しています。なので、外交的な環境としても整っていますし、部隊もいつでも動ける状態になっていると見受けられますので、私はいつでも始まり得ると思っています」

──検問所が開通して支援物資が搬入されましたが、地上侵攻開始のタイミングに影響することはあるのでしょうか?

西野正巳主任研究官
「私は支援物資の搬入と地上侵攻開始のタイミングは関係ないと考えています。10月7日のハマスの大規模テロの後に、イスラエルはハマスに物資がいってはいけないという意図で、ガザ地区を完全封鎖して物が入らないようにしました。しかし、ガザ地区には約220万人の住民がいますので、住民が生きていくには食べ物等が必要です。なので、食料等まで入れないということはいつまでもできるわけではないことです。だから、住民が生きていくために食料等の物資は入ってくることは当然起きることです。一方で、イスラエルにはガザ地区のハマスを打倒するという軍事目標がありますので、それはそれで行います。だからこそ、物資の搬入と作戦開始のタイミングはとくに関係がないと考えます」

──もし地上侵攻が始まった場合は、具体的にどういった侵攻の形になるのでしょうか。

西野正巳主任研究官
「今回の作戦、地上部隊の投入で、ハマスの目的が大きく3つあると私は考えています。一つ目はハマスは2007年以降ガザ地区を実効支配している、事実上政権を運営しています。このハマスの政権を打倒する、この場合やることはガザ地区におけるハマスの政治指導者たちを無力化することです。次に、10月7日の大規模テロをやったのはハマスの軍事部門・カスタム部隊です。このカスタム部隊について、二度とあのような大規模テロができないように徹底的に倒す。具体的にやることは、この軍事部門の幹部である司令官たちを無力化する。軍事部門については、戦闘員たちを無力化するのが二つ目の目的です。三つ目は、約200人の人質が取られています。この人質の救出・奪還、これが三つ目の目的です」

──地上侵攻でポイントになるのが、VTRにもあったハマスの地下トンネルの存在です。ガザ地区内に地下トンネルが張り巡らされていますが、この状況で特に「無力化・せん滅」という部分は実現可能だとイスラエル軍は考えているのでしょうか。

西野正巳主任研究官
「今回、まさにそれを実現するために地上部隊を入れるということになります。なぜならこの地下トンネルの少なくとも一部は、病院や学校やモスクや住居の下にあります。それら(地下トンネル)を空爆や砲撃で壊すというのは、非現実的です。つまり民間人が多く住んでいる施設ですから。そういったところの地下にあるトンネルを確実に壊すには、まさに地上部隊を入れる必要があります。なので、今回は地上部隊を入れてそれを徹底的にやるということになると思われます」

イスラム組織「ハマス」にとらえられている「人質」の救出について、イスラエル軍によると、イスラム組織「ハマス」は212人の人質を取っているということです。こうした中、イスラム組織「ハマス」は21日、アメリカ人の人質2人を解放した際の映像を公開しました。カタールの仲介で「人道的な理由」から2人を解放したとしています。

──仲介したカタールの動きをどう解釈すればいいでしょうか。

西野正巳主任研究官
「カタールにはハマスの最高指導者が住んでいます。そして、ハマスなどのイスラム組織を支援している国でもある。カタールはさまざまなイスラム組織とパイプがあることを自国のメリットとしている国です。今回、アメリカ人の人質がとられているので、アメリカがカタールに人質の解放を働きかけて、カタールはそれに応じて、ハマスに働きかける。それでハマスがアメリカ人の人質を実際解放する。この場合、ハマスはカタールに保護してもらってるので、ある意味カタールに恩を売れる。カタールは大国アメリカの要望に応じて、実際に人質を解放できたということで、アメリカに恩を売ることができ、アメリカとの関係をよりよいものにできます。ハマスにとっても、カタールにとってもメリットがあるということで、今回の人質の解放が実現したと考えられます」

──イスラエル軍が地上侵攻に踏み切らないのは、人質の安全配慮が影響しているのでしょうか。

西野正巳主任研究官
「私はそうは考えていません。むしろ人質がとられているからこそ、イスラエル軍は地上部隊の投入を決意していると考えています。なぜなら、砲撃や空爆によって人質を奪還・救出することはできません。何らかの形で地上に兵士が入っていかないとさらわれた人質は取り戻せないわけです。一方で、これまでのケースと違うこととして、外国人も人質に取られています。そして自国民が人質に取られている国の一部は、おそらくイスラエルに対して、イスラエル軍が地上部隊をガザ地区に投入すると結果的に自国民の人質の身の安全が懸念されるから、一部の国が地上部隊の投入を待ってくれないかという働きかけを行っている可能性はあります。しかし、イスラエル軍としてはそれに応じるのではなく、ハマスを倒すし人質も救出をする、そのために地上部隊を入れるということになると思います」

──この過程で民間人が巻き込まれているわけですが、終息は一体どこに着地点があると考えていますか。

西野正巳主任研究官
「イスラエル軍の地上部隊をまもなく入れると思われますが、これまでの作戦とは違います。例えば2014年に中央部隊を入れた時には、ハマスをある程度弱体化させることが目的で、打倒は目的ではありませんでした。今回も『ハマスをガザ地区でせん滅する』といっている通り、ハマスを倒したという状態まで実現しようとイスラエル軍は決意しています。だからこそ、イスラエル軍はハマスを倒したということを国民に説明できる状態になったときに作戦を終了できる。それは、近い将来でもないし、簡単なことでもないと思われます」

(10月22日放送『真相報道バンキシャ!』より)