自動化に突き進む中国 AI食堂&無人配達
中国にオープンした「AI食堂」の厨房ではロボットが黙々と料理を作っていた。街には無人配達車が行き交い、商品を自宅に届けてくれる。まるでSFが描いた未来。コロナ禍を経て“自動化”に突き進む中国を体験した。(NNN上海支局 長谷川敬典)
■麺職人の技も完全コピー 料理ロボット
上海に「AI食堂」という不思議な看板を掲げる店がオープンしたので早速行ってみた。店内に入るとまず目に飛び込んでくるのはガラス張りの厨房だ。しかし、厨房の中に人はおらず、黄色いロボットアームだけが静かに動いていた。このAI食堂は、地元政府と民間企業が共同で運営している公共の食堂で、AI搭載のロボットが全ての料理を作っている。
バックヤードで従業員が材料の肉や野菜を切ってトレイに乗せると、ロボットアームが自動調理機の中へ入れ調理開始。焼く、蒸す、煮るなどを使い分け、AI(人工知能)が気温や湿度によって調理時間を調整する。10分以内に最大200人分の料理を作ることができるという。また麺作りを担当する別のロボットは、熱湯の中から麺をとりだし、まるでラーメン店の職人のような動きで「湯切り」をしていた。
■8割の料理人よりも美味しい料理を作ることができる
今のところ、完成した料理を客の元に届けるのは人が行っているが、食堂の運営会社は「将来的には調理から配膳まで全てロボットが行えるよう改修する計画がある」と話す。非接触のAI食堂は、新型コロナの感染対策としても需要があり、すでに上海市内の中学校の食堂にも導入された。
肝心の料理の味は、外国人の私にとっても非常に美味しかった。AIには多くの人が美味しいと感じる味付けのデータを保存できるため、永遠に同じ味を再現できる。地元メディアは「世の中の8割の料理人よりも美味しい料理を作ることができる」と紹介している。
■車が行き交う交差点も難なくクリア「自動配達車」を体験
中国では、スーパーで買い物をする際も、スマホで注文してバイク便で配達してもらうのが一般的。その配達が今「自動」に置き換わり始めている。試しに自動配達車を導入したネットスーパーのアプリで「すいか」を注文してみた。
約20分後。遠くの交差点を曲がり、こちらへ向かって来る「無人配達車」の姿が見えた。軽トラックよりもさらに小さく、運転席はない。車体には複数のカメラやセンサーが取り付けられていて、路上駐車している車をよけて走行していた。
■「すいか」を配達し自動で帰る 3年以内に100台に
自動配達車の液晶パネルに、自分の電話番号を入力すると車体の扉が開いた。中には注文した「すいか1個」が入っていた。すいか単体では約550円、配達料は約120円だった。扉を閉めると、自動でスーパーへと帰っていった。この自動配達車は、センサーで周囲の歩行者や車の速度を認識し衝突を避けながら、時速およそ25キロで走行する。2020年の秋から上海で10台が導入されていて、3年以内に100台に増える計画だという。
■少子高齢化と新型コロナで加速する中国の「自動化」
この自動配達車は、赤信号で止まることはもちろん、横断歩道を走って渡ろうとする歩行者もしっかり察知して停車していた。自動配達車が仕事をする様子は、すっかり街の風景に溶け込んでいて、珍しそうに見る人もいない。まるでSFが描く未来社会ような不思議な感覚だった。実際の街で運用することで、さまざまなデータが集まりバージョンアップに役立てられているという。
国を挙げてさまざまな分野で自動化を進めている中国。少子高齢化によって労働力が減少する時代に備えているのだが、新型コロナの感染対策という観点からも、その流れがさらに加速している。