帰れない…高齢の元島民らに焦り 北方領土
ロシアのプーチン大統領が北方領土の開発をめぐり、外国企業の参入を促す新たな一手を打ち出しました。新型コロナウイルスの影響でビザなし交流が中止される中、元島民は焦りを募らせています。
北海道・納沙布岬で、得能宏さん(87)が海の向こうを見つめていました。
得能宏さん(87)
「見えないんですよね、ここからね」
得能さんは北方領土・色丹島の元島民。新型コロナウイルスの影響で、この2年、ビザなし交流が中止され、故郷に帰れずにいます。
得能宏さん(87)
「私はもう高齢だから“高齢の2年3年”はものすごく厳しいね」
終戦から76年がたち、なお先が見えない北方領土の返還。色丹島には、今も得能さんの先祖の墓があります。
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3日、色丹島では第二次世界大戦で日本に勝利したセレモニーが開かれていました。
色丹島の住民
「(Q.戦勝記念日はどんな日?)喜ばしい日です。私たちの家、領土があるという意味」
日本からの勝利を祝う住民たち。一方で、色丹島では開発が遅れているといいます。整備が遅れている一つは道路。この1年間で舗装されたのはわずか1キロです。
こうした状況の中、プーチン大統領は今月、北方領土の開発について新たな政策を打ち出しました。
ロシア・プーチン大統領
「ロシア極東をアジア・太平洋で、最も競争力のある地域にするつもりだ」
外国の企業が北方領土に進出すれば、法人税など主な税金を10年間免除するというのです。
北方領土を巡っては、日露両政府が共同経済活動による協力を話し合ってきましたが、難航。ロシア側としては、中国や韓国などが参入できる新たな一手で、日本側をけん制する狙いもあります。
色丹島の住民
「日本の企業は、色丹島に来る気がないと思う。韓国、中国など全てのアジア太平洋地域の国が、この島で事業ができます」
島内の新築アパートに住むシュミグノフさん。色丹島で生まれ育ち、妻と2人暮らしです。シュミグノフさんは国境警備隊に勤めた後、現在は電気技師として働いています。
色丹島の住民・シュミグノフさん
「(日本が来れば)一緒に働く用意があります。日露両国が納得する形なら、双方の利益になりますから」
色丹島はロシアの領土だと強調する一方で、日本からの投資や共同事業は歓迎したいと話しました。
進まぬ日露交渉に元島民の得能さんは――
得能宏さん(87)
「(元島民が)去年から何人も死んでいるんだよ。その中に僕が来年入るかもしれないし」
ロシアの揺さぶりが続く北方領土。先が見えない中、時間だけが過ぎていきます。