BTS誕生日祝うファン広告 中国は億単位
9月1日、韓国・ソウルではあちこちに人気音楽グループBTS(防弾少年団)メンバーの誕生日を祝うポスターや看板があふれた。お祝いのためのクルーズ船まで登場。これらはすべて事務所とは無関係のファンによるもの。こうしたセンイル(誕生日)広告の背景を探ると、桁違いの中国マネーも動いていた。
●ソウルの漢江に登場したチャータークルーズ船
9月1日の夜、ソウル中心部を流れる川、漢江(ハンガン)。船着き場からライトアップされたクルーズ船が出港しました。船には大きく「We Love JK」の文字。
この日は人気音楽グループBTSのメンバー、ジョングクさんの誕生日。それを祝うためライトアップされたチャータークルーズ船が運航されたのです。BTSの楽曲を流しながら行き来する船を、たくさんのファンが集まり見守りました。
しかし、これは事務所が関係するイベントではありません。昼間、運航する船を見ると、「ジョングク・チャイナ」と書かれています。実はこれ、中国のファンが出資したクルーズです。
ファンが自主的にお金を集めた「応援広告」の1つ。グループの結成日や、メンバーの誕生日に合わせてファンが広告を出すのです。
特に、誕生日の広告は、韓国語で誕生日を意味する言葉、「センイル」と合わせ「センイル広告」と呼ばれます。
●“センイル広告”が集中するBTSのお膝元
とりわけBTSの所属事務所があるソウル・龍山(ヨンサン)近くは、街に「センイル広告」があふれます。バス停のポスターに、「センイル広告」でラッピングされたバス、さらに道路沿いには数キロに及ぶ広い範囲にのぼり旗が並びました。
そして、事務所前には長さ数十メートルに及ぶ巨大な看板広告が登場。そこには「ジョングク・チャイナ」の文字。毎回、桁外れの広告を出す中国のファンたちです。
「ジョングク・チャイナ」は冒頭のクルーズ船のほかにも、地下鉄のモニターなど、1万4000か所にセンイル広告を出すと発表。募った金額は、600万中国元、日本円で1億円を超えたといいます。
●カフェのカップにもセンイル広告
そして「センイル広告」はカフェなどでも見られます。カフェの店先のアドバルーンや、ポスター、横断幕などは、実は店側ではなく熱心なファンが作っているものです。
そして、店の中で使われている写真入りのカップホルダーや、記念カードなども、すべてファンが作った「センイル広告」です。
カフェの店主は、センイル広告のおかげで「売上が上がり、店がSNSで拡散され、すべて店の利益に直結している」と話します。この店の場合、店側にもメリットが大きいとして、広告の費用は数千円しか受け取っていません。
実際、こうした「センイル広告」のグッズを楽しみに来るお客さんが絶え間なく訪れていて、集客効果は抜群のようです。
訪れたファンに話を聞くと、「今はコロナ禍でコンサートができない。その代わりにこういうところに集まって、連帯感を抱きながらファン文化を楽しめる」と話していました。
ちなみに、取材した店の広告を出したのは、タイのジョングクさんファンのグループ。店にはSNSを通じて連絡をし、カップや横断幕が届くよう手配したということです。
●年々、増加傾向のセンイル広告 億単位に
こうしたセンイル広告の市場規模は年々増加しています。ソウル交通公社が去年まとめた資料では、地下鉄のアイドル広告は5年で約28倍の件数に。(2014年76件、2019年2166件)
場所や大きさで値段は異なりますが、平均的な地下鉄広告の費用は、1件当たり1か月で45万円前後。個人の出資のため正確な金額は把握できませんが、センイル広告によって億単位の金額が動いているとみられます。
●次は飛行機丸ごと ラッピング広告
そして、今度はBTSのジミンさんの10月の誕生日に合わせて、中国のファンが、韓国の航空会社の飛行機にラッピング広告を出すと発表。9月1日から3か月間の予定で、ファンによる飛行機のラッピングセンイル広告は“世界初”だとしています。
アイドルとファンの距離を近づけるだけなく、露出を増やし、さらなるファン獲得にもつながっているとみられる「センイル広告」。BTSをはじめとするK-POP人気を、世界に広げることにも一役買っていそうです。
(NNNソウル支局 原田敦史)