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【コラム】「皆既日食」アメリカ横断(前編) 晴天はどこ…? 予報士記者が明かす取材のウラ側

2024年4月14日 20:56
【コラム】「皆既日食」アメリカ横断(前編) 晴天はどこ…? 予報士記者が明かす取材のウラ側

2024年4月8日に北米の広い範囲で「皆既日食」が観測された。日食を取材するのにベストな気象条件は、どこか?  地図と天候をにらみながらの取材ポイント選定のウラ側を、気象予報士でもある取材記者が明かす。
(NNNニューヨーク支局長・気象予報士 末岡寛雄)
 協力:平井史生 気象予報士

■地図と天気図をにらめっこ…皆既日食が撮影できる場所は?

4月8日、メキシコからアメリカ、カナダの南東部という広い範囲で「皆既日食」が観測された。部分日食を観測できる機会は多いが、夜のように暗くなる皆既日食を観測できる機会は希少だ。2012年5月には東京でも、太陽の大部分が月に隠れて輪のように見える「金環日食」が観測された。筆者も当時、自宅のベランダから輪っかになった太陽を見上げたが、食のピークでも「意外と暗くはならないな…」と拍子抜けした。

それもそのはずで、太陽の明るさは、なんと満月の40万倍にものぼる。太陽が99.99%欠けても、満月よりもまだ40倍、明るいのだ。99.99975%欠けて、ようやく満月と同じ明るさになるため、金環日食は“形のよい部分日食”で、周囲が漆黒となる皆既日食とは全く違う。

今回、部分日食はアラスカとハワイを除くアメリカほぼ全土で観測されたが、皆既日食はメキシコからアメリカを横断してカナダ南東部に至る帯状のエリアのみ。どこが良い気象条件となるのか。地図を見ながらポイントを探し始めることにした。

■【「皆既日食」3か月前】4月の晴天率が高いのは?…気象条件を“予想”!

皆既日食を観測するのに最も適した天候――それは言うまでもなく太陽がきちんと見える「晴れ」である。ニューヨーク周辺の4月は日本と違って雨の日が多い。筆者は気象予報士“資格”は保持してるが、天気図と毎日にらめっこして予報をはじき出す訓練を最低1年はしないと、まともな予報はできず“ペーパー予報士”でしかない。このため、東京で日々お天気を報じている平井史生気象予報士に連絡をとり、「4月上旬のアメリカの晴天率」を調べてもらった。

平井予報士によると、4月の降水量の平年値をみるとテキサス州西部が雨が少ないとの予想。雨が少ないステップ気候に分類される場所だという。一方で、平原が広がるテキサス州とその周辺は、ロッキー山脈を越えた上層トラフ(気圧の谷)が深まり、上空の寒気とメキシコ湾からの暖かく湿った風がふれあうため、竜巻街道とも言われ、天候が悪化する懸念もあるという。

平年の予想から、第1候補を「テキサス州ダラスの西付近」、第2候補は観光客がたくさん集まりそうな「ナイアガラの滝」を検討することにした。

■【1か月前】「日食グラス」を購入

アメリカでも日食関連のニュースが増え始めた。ある町では、数百人が一斉に結婚式を挙げるイベントが計画されているという。まさに一世一代の瞬間だ。

観測に必要な「日食グラス」は、2012年の金環日食の際も都内は軒並み売り切れになったことを思い出し、ニューヨークで購入手続きを行った。

■【1週間前】アメリカは天気でやきもき…「雲量予報」も登場

皆既日食まで1週間を切ると、アメリカのテレビでは太陽を見る際は目を傷めないように「日食グラス」をつけるよう呼びかけ、天気予報に連日、多くの時間が割かれるなど、徐々に盛り上がりをみせた。ニューヨーク・タイムズは専用のサイトを作って、グラフィックで「雲量予想」を毎日、アップデートしてくれる。

最新の予報では、4月の晴天率が高いはずのテキサスは「雨かくもり」。一方で、ニューヨーク州のナイアガラの滝付近も「くもり」予想が強まった。平井予報士に再び連絡を取ると、日食の時間帯には五大湖付近で動きの遅い低気圧があり、上空には寒冷低気圧が予想されているという。

「寒冷低気圧」は進みが遅く、積乱雲が発生し激しい天気の変化をもたらす。低気圧から東に離れるほど晴天率が向上するため、我々はナイアガラの滝をあきらめ、ニューヨークから少し東寄りに北上し、バーモント州のバーリントンを目指すことを視野に入れた。ナイアガラの滝よりも車で2時間ほど近くなる。

■【3日前】皆既日食帯のホテルは軒並み高騰…「10倍」に跳ね上がったケースも

ナイアガラはくもり予報のままのため正式にキャンセルし、バーモント州に向かうことに決めた。直前の計画変更で戸惑ったのは、ホテルだった。

車移動で下見と本番を含めて1泊で取材をこなす必要がある。現地の宿を検索してみると、日食が観測できる4月8日前後は、軒並み売り切れ。少し離れたところでも一泊700ドル(日本円で10万円近く)という、とんでもない値段の部屋しかない。ニューヨーク・タイムズによると、皆既日食が観測される地域では2倍以上にホテル価格が高騰していて、中には95ドルの部屋が949ドルとおよそ10倍に跳ね上がっていたケースもあるという。我々は仕方なく観測ポイントからおよそ2時間半ほどニューヨーク側に戻った場所に宿を取ることになった。

後編へ続く>

■筆者プロフィール

末岡寛雄
NNNニューヨーク支局長。「news every.」「news zero」のデスクやサイバー取材などを担当し、災害報道にも携わる。気象予報士。趣味は音楽鑑賞。

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