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米本土上空の中国「偵察気球」の撃墜に時間がかかったワケとブリンケン国務長官訪中延期の“舞台裏”

2023年2月5日 15:08
米本土上空の中国「偵察気球」の撃墜に時間がかかったワケとブリンケン国務長官訪中延期の“舞台裏”
「偵察気球」撃墜時とみられる映像(Lisa Roberts)

今週、アメリカ本土上空で発見された、中国の偵察気球。4日午後に東部の洋上で撃墜されたが、アメリカ政府高官も「これまでにない長さ」と言うほど、長期間、本土上空に留まった。気球の侵入をうけて、ブリンケン国務長官の中国訪問は土壇場で延期に。新たな米中対立の火種となった、気球をめぐる動きの舞台裏を解説する。(ワシントン支局・渡邊翔)

■白煙を上げて落下・・・「白いバルーン」相次いで目撃

4日午後2時半すぎ、アメリカ南部・サウスカロライナ州の東の沖合の空に浮かぶ、白く丸い物体。そこに一筋の飛行機雲が近づいていく。次の瞬間、丸い物体は形を崩し、白い煙を上げながら下へと落下していった。

これは、アメリカ本土上空を飛行していた中国の「偵察気球」を、米軍のF22戦闘機が撃墜したとみられる瞬間の映像。この直後、バイデン大統領が自ら、気球の撃墜を指示し、米軍が撃墜に成功したと記者団に明らかにした。

この数日、各地で多くの人々に目撃されていた気球。発端は2月2日に、国防総省がその存在を公表したことだ。これと前後して、西部モンタナ州で撮影されたとされる気球の映像が出回った。

白いバルーンの下に、ソーラーパネルのような板状の装置がついた物体。

この映像はアメリカのテレビで繰り返し放送されたが、アメリカ政府高官によると、気球は情報収集装置を備え、プロペラを使って操縦することも可能だという。

■1月28日に米空域に侵入・・・1週間近く滞空、核施設上空も飛行か

アメリカ国防総省の高官によると、偵察気球は1月28日にアラスカ州アリューシャン列島の北の防空識別圏に侵入。30日にいったんカナダの空域に入ったのち、31日に再びアメリカ北西部のアイダホ州の上空に入った。

2月1日にはモンタナ州へ移動。モンタナ州には、核ミサイルが配備されている、マルムストローム空軍基地がある。偵察気球の狙いが、核施設に関する情報の収集だった可能性があり、オースティン国防長官も「アメリカ本土の戦略拠点を監視するために中国が気球を使用していた」と断言している。

その後、気球はアメリカ中部を東に移動していき、カンザス州やノースカロライナ州でも気球とみられる物体の目撃情報が相次いだ。2月4日に撃墜されるまで、都合1週間ほど、アメリカの上空にいたことになる。

国防総省高官によると、中国の偵察気球がアメリカの本土上空に侵入したことは、トランプ前政権で少なくとも3回、バイデン政権になってからも1回あったというが、今回の滞空時間は「これまでにない長さ」(国防総省のライダー報道官)だという。

■本土上空での撃墜を阻んだ要因は…

気球の存在を公表して以降、記者団から、野党・共和党から、そしてアメリカ国民からも同じ疑問がバイデン政権に向けられた。

「なぜ、気球を撃墜しないのか」。

トランプ前大統領もSNSで「気球を撃墜しろ!」と投稿してバイデン政権を批判した。

しかし、すぐに撃墜できない理由は、気球のサイズにあった。関係者によると、気球の全長は「スクールバス2~3台分」。撃墜後の破片は少なくとも7マイル(11km余り)の範囲に散らばっているといい、アメリカ本土の上空では、地上の市民や建築物に被害が出ない場所はなかったというのだ。

実際、バイデン大統領は撃墜直後「気球について説明を受けた2月1日の時点で、すぐさま撃墜するよう命じた」と述べている。

1日には、モンタナ州の人口が少ない地域で撃墜が検討され、戦闘機もスタンバイしたというが、結局一般市民に被害が及ぶ危険性があると判断し、見送られた。最終的には、気球がサウスカロライナ州の東岸から海に出たタイミングで、撃墜に至った。

■ブリンケン氏訪中延期・・・土壇場の決断の舞台裏

今回の偵察気球の侵入は、5日からブリンケン国務長官の中国訪問を控える中、米中外交にとっては最悪のタイミングで明らかになった。

ブリンケン長官は3日「現時点では建設的な訪問につながる状況ではないとの結論に達した」として訪中を延期した。

国防総省が気球の存在を公表したのは2日の夕方。これを受けて国務省が訪中延期を発表したのは3日午前で、3日の深夜に予定されていたブリンケン長官のワシントン出発まで、あと半日というタイミングだった。

もちろん、政権幹部である国務長官の外国訪問が、これだけ土壇場でキャンセルされるのは異例中の異例だ。

バイデン政権の高官はNNNの取材に、決断のウラ側をこう解説する。

「2日の夜に、国防総省や議会などから、『このタイミングでのブリンケン長官の訪中はありえない』という強い反対意見やクレームがあった。その後、正式に訪中延期を決断し、3日の早朝から各所に根回しを始めた」。

与野党の対立が目立つ議会だが、中国への強硬姿勢という点では一致している。

訪問延期を決断した大きな要因の1つに、議会からのプレッシャーがあったというのだ。この高官は「すでに多くの国務省のチームが北京に向かっていたが、どうしようもなかった」と話す。

別のアメリカ政府関係者も、「北京に行っても気球の話一色になってしまう。他の議題は何も話せないでしょう。こんな状態で訪問しても、意味が無い」と、決断に理解を示した。

今回のブリンケン長官の訪中は、2022年11月の米中首脳会談で、高官レベルの対話を促進することで合意したことをうけてのものだった。

中国側は、気球について「気象研究用のもので、予定のコースを大きく外れて誤ってアメリカに入った」と説明。ブリンケン長官と習近平国家主席の会談も調整していたと報じられる中、「遺憾の意」を表明するなど事態収拾に動いた。

しかし、バイデン政権は、ブリンケン長官が「偵察気球がアメリカの領空に存在することは、アメリカの主権と国際法を明らかに侵害している」と厳しく非難し、訪中延期に踏み切った。

対する中国側も、気球の撃墜を受けて「強烈な不満と抗議」を表明。

「アメリカが武力を使ったのは明らかに過剰反応で、国際的な慣例に反する」「中国は必要に応じて対抗措置を取る権利がある」などと、態度を一気に硬化させた。

ブリンケン長官は、中国との外交的な意思疎通を続け「状況が許せば中国を訪問する」と述べるなど、対話の余地を残している。気球の撃墜と共に、対話ムードもしぼんでしまわないか。

台湾問題やロシアのウクライナ侵攻など、米中両国の意思疎通が不可欠な課題は多いだけに、今後の両国の対応が問われている。