米国で「原爆支持」減少 被爆地の思いに世界は… 池上彰さんが解説【バンキシャ!】
原爆投下から78年。広島では6日、平和記念式典が行われた。G7サミットが広島で開催された今年、式典に参列した国は過去最多の111か国に。一方でロシアは核の使用をちらつかせ脅威は高まっている。広島、そして長崎からの核廃絶への思いを世界はどう受け止めているのか。ジャーナリストの池上彰さんが解説します。(バンキシャ!)
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池上彰さん
「4日に原爆資料館に行きましたが、本当に多くの人たちが訪問していて驚くほどでした。平和公園や資料館には何度も訪問していますが、コロナ前も含めて、こんなに多くの人が訪れているのを見るのは初めてでした。しかも、圧倒的に外国からの人たちが多い印象でした」
桝キャスター
「ただ、池上さん、私たちは、核の脅威が今も存在しているという事実をつきつけられている状況にあります」
池上彰さん
「ロシアは、核兵器の使用をちらつかせ威嚇を続けています。6月には、隣国のベラルーシに最初の核ミサイルを運び込んだと発表しました。そのベラルーシの大統領は、『自国への攻撃があれば、核兵器を使用することもためらわない』としていて、ベラルーシと国境を接するポーランドは警戒を強めています。また、ロシアは『平和条約の締結か、あるいはアメリカが広島と長崎へ原爆投下したことと同じことをすれば、戦争は早く終わらせることができる』と発言しています」
桝キャスター
「それはつまり、戦争を終結させる手段として、核という選択肢をちらつかせたわけですよね?」
池上彰さん
「そういうことですね。また、ロシアは、核兵器の使用について『国家の存立への脅威があれば、理論的には使える』とも話しているんです。このようなロシアの言動によってヨーロッパでの危機意識は高まり、国際社会でも、核の使用を現実的なものとしてとらえはじめていると思います」
桝キャスター
「一方、そんな中、実際に核兵器を使用した唯一の国であるアメリカで、国民の意識の変化を示した世論調査があります」
池上彰さん
「まず、アメリカのギャラップ社による調査です。1945年の原爆投下直後、日本へ原爆を使用したことを『支持する』か『支持しない』か尋ねたところ、『支持する』と回答した人は85%でした。しかし、その60年後の2005年には『支持する』は57%と減少しました。また、別の会社が2020年に調査したところ、原爆投下は『正しかった』と回答した人が39%、『間違っていた』と答えた人は33%でした」
桝キャスター
「原爆の使用を『支持する』あるいは『正しかった』とする人の割合は、減っていっているようですね」
池上彰さん
「アメリカでは若い年齢層の間で、『核は使用してはいけない』という認識が昔に比べて増えてきています。アメリカでは、なかなか原爆教育を行う機会はありませんが、インターネットなどで理解をしてくる人が増えていると思います。以前、アメリカ・ラスベガスにある核実験の博物館で、学芸員に話を聞いたら、『学芸員になって、ようやく広島・長崎の被災地の写真を目の当たりにし、その悲惨さを知った。原爆投下は間違いだったと学んだ』と涙を流して話してくれました。逆にいうと、事実に触れる機会や環境がなければ、まだ理解・認識されないという現実があるんです。まだまだ、原爆について知らない人が多くいるというのが現状なんです」
桝キャスター
「原爆の悲惨さが理解されていない、その現実を目の当たりにするようなことも起きました。アメリカでは、原爆の開発者を描いた『オッペンハイマー』という映画、そして『バービー』という映画が同時に公開されましたが、その2つの作品を組み合わせて、後ろに原爆投下を連想させるような炎を描いたり、バービーの髪型がキノコ雲のように変えられた画像が投稿されました。これに『バービー』の公式アカウントが反応したことについて、アメリカのワーナー・ブラザースは、『先だって行われた配慮を欠くSNSへの反応を遺憾に思っております。心から謝罪致します』と、コメントしました。公式アカウントの反応はすでに削除されています」
池上彰さん
「アメリカには、核兵器が爆発する映画などがあり、原爆は『大きな爆弾』としか認識されていないところがあります。放射能の危険性、恐ろしさが全然伝わっていないということなんですね。何十年も地獄が続き、苦しんで亡くなっていくことが理解されていないということなんですね」
桝キャスター
「『知らない』ということが、時としてこういうやりきれない結果を招くということを、痛感するような出来事だったと思います。そして、池上さんは毎年のように取材をされてきて、今年の式典ではどんなことに注目しましたか?」
池上彰さん
「私が気になったのは、岸田総理による核の抑止力についての発言です。G7サミットで採択された『広島ビジョン』では、『核兵器は存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべき』という文言が入れられました」
桝キャスター
「それは、『核による抑止力』を認めているように受けとめることができますね?」
池上彰さん
「そうなんです。6日の式典での岸田総理の挨拶では、核抑止についての言及はありませんでした。岸田総理は、式典後の会見で、核抑止に関する批判を念頭に、国民の命や暮らしを守り抜く責任と『核兵器のない世界』という理想を追い求め続ける責任、各国首脳には、この2つの責任があると述べました。その上で、「2つの責任は相矛盾するものではない」と強調しました。
つまり、日本政府としては、核を持つアメリカに守られていることもあり、核抑止論を否定することは難しいということなんです」
桝キャスター
「唯一の被爆国である日本だからこそ果たせる役割を私たちは考えなければなりません。池上さん、広島でのG7開催がもたらした変化はあったんでしょうか?」
池上彰さん
「ここ平和公園や原爆資料館を訪れた多くの外国人の姿を見ると、核使用の恐ろしさや平和の大切さについて、世界への発信がいくらかはできたのではと思います」
桝キャスター
「今年はG7サミットがあった特別な年の平和記念式典となりましたが、大事なのは、この歴史に残るG7サミットを今後どう生かしていくか、人々が感じた平和への思いをどう継承していくかだと思います」
(*8月6日放送『真相報道バンキシャ!』より)