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【解説】「国際法」を巧妙にすり抜け…運航に必要な安全確認の検査を受けず 潜水艇“大破”…5人死亡か

2023年6月23日 21:32
【解説】「国際法」を巧妙にすり抜け…運航に必要な安全確認の検査を受けず 潜水艇“大破”…5人死亡か

海底に沈む豪華客船「タイタニック号」の探索ツアー中に潜水艇が消息を絶ってから、丸4日がたちました。捜索が急展開し、乗っていた5人の生存は絶望的となりました。

改めて、タイタニック号が沈んでいるのはカナダのニューファンドランド島の南、約700キロの海底です。捜索を続けてきたアメリカの沿岸警備隊は、現地時間22日の捜索で、「タイタニック号」の残骸から約500メートル離れた地点で、無人探査機が「大きな破片」を5つ発見したと発表しました。

沿岸警備隊の幹部は、「海中で大惨事が起きた」と話していて、ツアーの運営会社は、「5人全員が亡くなったとみられる」とする声明を発表しました。潜水艇でいったい何が起きたのでしょうか。

◇4日前に“爆発音”?
◇大破の原因は?

以上の2点について詳しくお伝えします。

■「耐圧室」が大破か…発見された5つの破片

捜索にあたった沿岸警備隊は、会見でこのように話しました。

アメリカ沿岸警備隊
「けさ、カナダの船から派遣された無人ロボットが、海底に沈むタイタニック号から約500メートルの地点で、潜水艇『タイタン』の船尾を発見し、その後、さらに他の破片も見つかりました。これらの破片は(潜水艇の)耐圧室が大破したことを意味している(との結論に達しました)。この結論を受けて、我々は速やかにご家族にその事実を伝えた」

今回、海中で発見されたのは、潜水艇タイタンの5つの破片です。最初に見つかったのは、人が乗り込んでいた耐圧室の窓がある部分でした。さらに、その後、耐圧室の前方や後方の一部とみられる複数の破片が見つかったということです。こうした状況から、耐圧室そのものが大破して、生存者がいる希望はなくなったという結論に至ったということです。

■“爆発音”? 沿岸警備隊「捜索が始まる前にすでに潜水艇が大破していた可能性が高い」

海底から聞こえた音は一時、生存者がいるのではないかという希望も与えましたが、結局のところ、大破した船の破片同士がぶつかりあっていた音だった可能性もあるという見方もあります。

実際、潜水艇がどのタイミングで大破したのか、明確なことはまだわかっていません。捜索隊は、捜索を始めてから3日間、水中の音を検出するソナーを海中に設置していて、船が大破したとすれば、その音はソナーで検出されるはずでした。この期間、爆発音のようなものは検出されなかったということです。

また、複数のアメリカメディアは、アメリカ海軍高官の話として、「タイタンの通信が途絶えた直後に、破片が発見された現場付近で、爆発音のような音が検出されていた」とも伝えています。

こうした状況から、沿岸警備隊は「本格的な捜索が始まる前にすでに潜水艇が大破していた可能性が高い」とみています。

ただ、沿岸警備隊は、現時点では原因を特定するのは早すぎるとして、周辺海域での調査を続ける方針です。

■操縦していたツアー運営会社の最高経営責任者…妻はタイタニック号の乗客の子孫

改めて、潜水艇には5人が乗っていました。操縦していたのは、このツアーの運営会社の最高経営責任者であるラッシュ氏です。ニューヨークタイムズによると、実はこの男性の妻は、あのタイタニック号で亡くなった乗客の子孫だといいます。その乗客は、タイタニックが難破したときに、自らは救命ボートに乗る権利があったにもかかわらず、他の子どもたちを優先的に救命ボートに乗せるため船内に残って亡くなった人だということです。

また、過去に民間での宇宙旅行も経験した、イギリスの富豪で冒険家も乗っていました。その遺族は声明を出し「彼は情熱的な探検家であり、家族のため、ビジネスのため、そして冒険のために生きた。彼は私たちの人生に、決して埋めることのできない空白を残すだろう」とコメントしています。

■「爆縮」で瞬間的に大破したか…深海のすさまじい“圧”

では、もう一つのポイント、「大破の原因は何だったのか」です。

ロイター通信によると、今回、潜水艇の破片が見つかったのは、水深約4000メートルの海域で、その残骸の状況から、潜水艇は周囲の圧力で押しつぶされる「爆縮」が起きたことによって、瞬間的に大破したとみられています。

巨大な水圧がかかると物体がどうなるのか、海洋研究開発機構が公開している深海の水圧がわかる実験では、箱に取り付けたカップを海に沈めることで、カップにかかる水圧を確認していました。水深が深くなるごとに水圧がかかり、カップが徐々に小さくなっていきました。

実験では、水深約1000メートル地点まで潜りました。その場合、カップにかかる水圧は約100気圧。つまり、1平方センチに約100キロの重さがかかっていたということになります。わかりやすく言うと、小指の先に力士1人がのしかかるような重さです。

今回、事故があったのは水深4000メートルなので、この実験の約4倍の水圧が潜水艇にかかっていたということになります。

■潜水艇は「実験船」…運航に必要な検査をせず 国際法の「盲点」をつく

さらに、今回の事故でこの潜水艇をめぐるさまざまな課題も明らかになってきました。

実は、この潜水艇、過去にも安全上の懸念が指摘されていました。アメリカの複数のメディアによると、運営会社の元社員は5年前、潜水艇の「のぞき窓」について、タイタニック号が眠る水深4000メートルまで乗客を運ぶことを想定していたにもかかわらず、水深1300メートルまでの水圧に耐えられる強度しかなかったと指摘しています。

事故の原因について、東海大学・海洋学部の山田吉彦教授に聞いたところ、「確かにのぞき窓のように強度の足りないおそれがある部分が破損して、そこから水が入ってきて中から粉々になってしまった可能性もある」としています。ただ「最も考えられるのは、潜水艇が数年間、運航を続けていた結果、金属疲労を起こして、そもそも構造的に弱くなっていたところに巨大な水圧がかかって爆縮が起きた可能性が高い」とみているそうです。

また、もうひとつ、大きな問題が指摘されました。この潜水艇は、安全性を確認する検査を受けていなかったといいます。

本来、乗客を乗せる船は、検査にパスしなければ運航できないですが、「タイタン」はあくまでも「実験船」としてつくられていたために、検査を受けてなかったということです。

また、現場はどこの国にも属さない「公海」だったため、各国の監視の目が及ばず、こうした運航がまかり通っていた可能性があるといいます。

つまり、人を乗せる船に課されるはずのさまざまなルールを巧妙にすり抜けて運航していた、いわば国際法の「盲点」をついていたのが今回の悲劇につながったのではないかという見方もあります。

   ◇

"沈まぬ船"と言われたタイタニック号の悲劇から110年あまり。そのロマンに魅せられ、大金を投じて潜水艇に乗り込んだ人々を今回、再び悲劇が襲いました。こうした事故を二度と繰り返さないためにも、徹底的な原因究明が求められています。

(2023年6月23日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)