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【解説】プーチン大統領、24年ぶり訪朝 ロシアと北朝鮮、それぞれの思惑は?

2024年6月19日 20:08
【解説】プーチン大統領、24年ぶり訪朝 ロシアと北朝鮮、それぞれの思惑は?

北朝鮮を訪れているロシアのプーチン大統領と金正恩総書記との首脳会談が行われました。NNNモスクワ支局長の平山晃一記者、そしてNNNソウル支局長の横田明記者が、北朝鮮・ロシア、それぞれの思惑について解説します。

■今回の訪朝 ロシアの思惑は?

森圭介キャスター
「そもそも今回のプーチン大統領の北朝鮮訪問、その思惑は何なのでしょうか?」

NNNモスクワ支局長 平山晃一記者
「表向きは幅広い分野での両国の関係強化ですが、水面下ではウクライナでの軍事作戦に使う砲弾などの支援を引き続き北朝鮮に求める狙いがあるとみられます」

■北朝鮮はロシアの“砲弾の生産工場”

森キャスター
「国力でみてみますとロシアのほうが上ということなんですが、そんな中で北朝鮮の支援はロシアにとってどれくらい重要なものと考えていいのでしょうか?」

NNNモスクワ支局長 平山晃一記者
「ロシアにとって北朝鮮はいわば『砲弾の生産工場』として軍事作戦に欠かせない存在となっています。これまでに約480万発の砲弾の提供を受けたと報じられています。この480万発という数のインパクトですが、ロシアの年間の砲弾生産能力が一説には約300万発という報道もあり、それをはるかに上回る量です」

「欧米によるウクライナへの砲弾供給量をもはるかに上回っていて、ロシアは北朝鮮製の砲弾により、いわば物量作戦で、これまで戦況を優位に進めていたんです」

■24年ぶりの訪朝 背景には「ウクライナへの軍事作戦」

森キャスター
「プーチン大統領にとっては北朝鮮を訪れるのは24年ぶりということになりますが、その背景には一体どんなものがあるのでしょうか」

NNNモスクワ支局長 平山晃一記者
「実はいま、ウクライナへの軍事作戦でロシアにとっては正念場を迎えています。そのため、より北朝鮮の支援を必要としているんです。というのも、アメリカによるウクライナへの追加の軍事支援も次第に前線に届きつつあり、5月以降、アメリカなどは大きな方針の転換に踏み切っています」

「欧米がウクライナに供与した兵器で、ロシア領土への直接攻撃を一部容認するというもので、これにより、今年5月にロシア軍が始めたハルキウ州などへの大規模な攻勢は、勢いを失っています」

「プーチン大統領は今回、わざわざ北朝鮮に出向くわけですから、こうした欧米の支援の強化に対抗する意味でも、さらなる兵器や砲弾を求めることは『ほぼ確実』だとアメリカは警戒しています」

■経済分野で…透けて見えたプーチン大統領の野望

森キャスター
「今回の首脳会談では、経済の分野でも意見が交わされたんですよね」

NNNモスクワ支局長 平山晃一記者
「そうなんです。プーチン大統領のある野望も透けて見えます。訪朝を前にした北朝鮮メディアへの寄稿の中では、北朝鮮と密接に協力し『西側の統制を受けない貿易や相互決済システムを発展させる』などとしていて、両国で連携し国際社会による制裁に対抗する姿勢を示しました。制裁が長期化する中、北朝鮮などと共に、西側諸国に対抗できる独自の経済圏を構築したい狙いもあるとみられます」

森キャスター
「対西側への意識があるということですね」

■北朝鮮の思惑は?

森キャスター
「続いてソウル支局長の横田さんに聞きます。北朝鮮側から見て、今回の訪問の思惑はどこにあるんですか?」

NNNソウル支局長 横田明記者
「北朝鮮としてはまずは『プーチン大統領に訪問してもらった』、このことだけで一定の目的を果たしたと言えます」

「北朝鮮としては、日本や韓国、アメリカが連携を強化し、いわば“包囲網”を狭めてきている中で、ロシアや中国などの大国を巻きこんでこれに対峙(たいじ)したい思惑があります」

「北朝鮮とロシアは去年の首脳会談以降、急速に関係を深めていて、北朝鮮にとってみると、今回のプーチン大統領の訪朝は関係強化の第一段階の仕上げとも言えそうです」

■ロシアとの関係強化で経済立て直しを

森キャスター
「北朝鮮が自身の存在感を高めたいということ、さらに今回の関係強化、その先に北朝鮮はどのようなことを見据えているんでしょうか?」

NNNソウル支局長 横田明記者
「ロシアとの関係強化を通じて落ち込んでいる経済を立て直したいとみられます。北朝鮮は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、事実上の国境封鎖を行っていました。これを全面的に解除した去年までは物流もほとんど停まっていました」

「この影響で外貨や物資だけでなく食料も、深刻なほどに不足していると指摘されています。ロシアと関係を深めることで物流も活発に行えますし、労働者の派遣などでも外貨を得ることができます。北朝鮮にとっては経済立て直しの大きなとっかかりを得たことになります」

■中国ではなく、なぜロシアとの関係強化?

森キャスター
「ただ、北朝鮮と友好関係を結んでいる国というと、中国というイメージを持つ方も多いと思いますが、今回はなぜ中国ではなくて、ロシアとの関係強化を決めたのでしょうか?」

NNNソウル支局長 横田明記者
「これには対アメリカという視点が関係しています。中国はアメリカと貿易などをめぐって対立している中、目立つ形で北朝鮮を支援することで火種をさらに増やしたくない状況にあります」

「そこで北朝鮮が目をつけたのがロシアです。ロシアはアメリカと対抗する姿勢を崩してなく、こうしたことから、いわば両者の思惑が一致する形で関係の強化に至っているものとみられます」

■韓国側の受け止めは?


森キャスター
「そこにはアメリカの存在があったということですが、アメリカと友好関係を結んでいるのが韓国です。韓国側は今回の訪問をどう受け止めてるんでしょうか?」

NNNソウル支局長 横田明記者
「韓国は、ロシアと北朝鮮の接近を非常に警戒しています。特に警戒しているのが有事の際に互いが自動介入する条約を結ぶことで合意するかどうかです」

「こうしたことから、韓国は大統領府の高官がロシア側に対してわざわざ『レッドラインを越えるな』とした上で、『ウクライナ侵攻だけでなく、情勢が終わった後のことも念頭に置いて欲しい』と伝えるほどだったんです」

「つまり、なんらかの形でウクライナ侵攻が収束し弾薬が必要なくなった際も、それでも北朝鮮と密接な関係を続けていくのか。韓国としては、中長期を見据えた検討をロシア側に対して促していて、北朝鮮との関係強化を警戒する状況が続いています」