フランスでいじめ防止に向け「厳罰化」の動き 加害者に「禁固10年」の刑罰も
■フランスでいじめ厳罰化を定める「いじめ防止法案」成立へ
―「禁固刑最大10年、罰金約1900万円」これは、フランスで今月にも成立する予定の「いじめ防止法案」で想定されているいじめ加害者への刑罰。いじめに特化した厳罰化という、世界でも珍しい取り組みを進めるフランスの事例を中心に、いじめ防止の取り組みについて解説する。
フランスでは、いじめ防止のための法案が今月にも国会で可決・成立する見通しで、具体的には、
・被害者が8日以上学校に行けなくなるようないじめがあった場合、加害者に対して禁固最大5年、7万5000ユーロ(日本円で約960万円)の罰金を科す
・被害者がいじめが原因で自殺未遂や自殺をした場合、加害者に対して禁固最大10年、15万ユーロ(日本円で約1900万円)の罰金を科すことなどが定められている。
■なぜいじめを厳罰化?背景には青少年の自殺が
かなり厳しい刑罰になる印象だが、フランス政府はなぜいじめの厳罰化を進めようとしているのだろうか。
実は、フランスでは去年、いじめから発展した凄惨な事件や、いじめを苦にした青少年の自殺が大きな問題となっていた。
SNS上に下着姿の写真が拡散されて以来、いじめの被害にあっていたという14歳の少女が、同級生2人から橋から突き落とされてセーヌ川で遺体で発見されるという事件。
また、同性愛者であることや、モロッコ人の母親を持つ人種的なルーツが原因で、いじめを受けていた14歳の少女が自殺するなど、フランスでは去年、ショッキングなケースが相次いだ。
こうしたことから、フランス国内でいじめ対策を求める世論が高まり、フランス政府は厳罰化がいじめ防止につながるとして、今回の法案提出に踏み切った。
■SNSでのいじめ対策で「通報アプリ」も
さらに、問題を複雑にしているのが、学校内にとどまらず、SNSなどでのいじめも顕在化しているという点だ。
手口が多様化するネットでのいじめ対策として、フランス政府はあるアプリの立ち上げを決めた。
SNSなどネットを通じたいじめについて、被害者や目撃者に、そのいじめの証拠となる画面のスクリーンショットを保存してもらい、その証拠を送ってもらうという「通報アプリ」で、この通報をもとにいじめの調査が行われる仕組みだ。
友人同士以外には非公開のやりとりだと、その実態がなかなか覚知しづらいSNSなどでのいじめ。一方で、SNSなどでのいじめの証拠は比較的簡単に保存できるため、こうした通報制度によって、いじめの実態を把握し、防止に役立てようというのが狙いだという。
■日本ではいじめについての厳罰化の動きは?
フランスでいじめ対策が進む一方、日本では、いじめに関する新たな法整備の機運が高まっているとは言い難いのが実情だ。
奇しくも日本でも去年、北海道旭川市で、いじめを受けていた中学2年生の少女が凍死するというショッキングなケースがあった。現在も旭川市教育委員会による第三者委員会の調査が続いているが、これまでのところ、このケースで行われた「いじめ行為」は、傷害などの犯罪の構成要件は満たさないとみられている。現在の刑法では、いじめ行為そのもので加害者の「罪」を問うことは難しい。
■専門家の見解は?
政府のいじめ対策の会議でも委員を務めた千葉大学教育学部の藤川大祐教授は、「刑法で犯罪と規定されているものは、いじめではなく犯罪として裁こうというのが現状の日本の考え方だと思う」とした上で、「一足飛びに厳罰化ということではなく、日本には『いじめ防止対策推進法』があり、いじめ防止のためには、まずは法令の遵守を求めるべき。旭川のケースでも、学校側も教育委員会も適切に動かなかったため、こうしたケースで県や国が教育委員会等に対して必要な指導を行えるようにすべきだ」と指摘する。
藤川教授はさらに、「厳罰化がいじめ防止につながるのかどうか、フランスの法律が実際にどのような運用になるのかなどを注視している」と話していて、フランスの取り組みの効果も注目される。
各国の取り組みを参考にしながら、日本でもいじめ防止に向けた取り組みをさらに加速させる必要があるのではないだろうか。
(国際部・後閑駿一)