渡米し名画を次々とよみがえらせ…「美術修復師」の匠の技とは
日本からアメリカに渡り、古くなった名画を次々とよみがえらせる「美術修復師」がいます。その匠の技を取材しました。
人々が見入っていたのは、20世紀半ばに描かれたマーク・ロスコの作品です。
実は展示されていた作品の一部は温度や湿度の変化で表面に気泡ができていましたがそれを修復したのが、美術修復師の西尾喜行(73)さんです。日本とアメリカで学んだ修復技術をいかし、およそ30年にわたりアメリカで美術品の修復を続けています。
この日修復していたのは、一度別のアトリエで修復されたという掛け軸。
西尾喜行さん
「修理したけど直ってなかった。阿弥陀様の顔よりまずこの亀裂が見えてしまう」
年月の経過により、裏側に貼られた和紙が剥がれ、絵が描かれた絹が浮き上がっていました。
西尾喜行さん
「霧吹きです。水ですこれは。(掛け軸に)使っているのりは大体デンプンのり」
「こうやって、取れますね」
傷つけないよう、古い紙を慎重に剥がします。
西尾喜行さん
「経験のない人だったら絵を壊してしまう。(修復には)手が器用で化学の知識もないといけない」
西尾さんの技術を求めた修復依頼は他にもー。
ユタ州にある美術館が依頼したのは、日系アメリカ人画家・小圃千浦の屏風です。
美術館の担当者はー
ユタ美術館 ステイシー・ケリーさん
「アメリカにはアジアの美術作品がたくさんあるのに、アジアの芸術作品の修復師はあまりいないんです」
巻物や屏風といった日本の美術作品は紙を何層にも重ねるなど複雑な構造をしているものが多く、修復には専門的な知識が必要とされます。
美術館は、西尾さんが日本で習得した修復技術や、アジアの美術作品を1000点以上修復した経験があることを評価したといいます。
経年劣化によるシミや破れが目立つ屏風。紙をはがしていくと、ある発見が。
西尾喜行さん
「中からこういった絵が1930年から画家(本人)しか見てなかったものが今回初めて発見された」
なんとその下から練習のために描いたスケッチがおよそ150枚見つかったのです。
──お花も多いですね。
西尾喜行さん
「日本画を描く人は花が基礎だから」
屏風の下地に新しい紙ではなく練習画を使って、節約したのではと推測します。
西尾喜行さん
「美術界でも初めてじゃないかな、こんな何百点発見されたのは」
これらのスケッチを全て取り出し修復された屏風は、シミなどはきれいにしつつも、あえて年月の流れを感じられるような形になっていました。
古い作品を的確によみがえらせ、後世へとつなげていくこの仕事。
西尾喜行さん
「油絵だって修理するし、日本のものも西洋の紙もなんでもやりたい」