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「台湾の安全保障を弱体化させた」――米専門家に聞く、ペロシ氏の台湾訪問の影響

2022年8月6日 7:19

アメリカのペロシ下院議長が今週、現職の下院議長として25年ぶりに台湾を訪問した。中国は猛反発し、報復措置として台湾周辺で大規模な軍事演習を開始。4日には11発の弾道ミサイルを発射した。

今回の訪問が台湾情勢や米中関係にどのような影響を与えるのか、アメリカの識者に聞いた。

■米中はさらなる相互不信へ…「私たちはすでに危機の中にいる」

米政策研究機関「ジャーマン・マーシャル財団」の中国専門家ボニー・グレイザー氏は、ペロシ下院議長の台湾訪問は「米中関係のさらなる悪化と相互不信を生む」と指摘する。

グレイザー氏
「アメリカが台湾のために、または台湾と行動を起こす時には、それが台湾の安全を守ることになるのか、それとも損なうことになるのかを考える必要があります。私はペロシ議長の訪問は、台湾の安全保障を強化するような、意味のあるものではなかったと考えています。むしろ、台湾を危険にさらし、台湾の安全保障は弱体化した」

グレイザー氏は、台湾をめぐる情勢が「制御不能な状態にまでエスカレートすることはない」と分析しつつも、「今、私たちはすでに危機の中にいる」と警告した。

グレイザー氏
「1996年(台湾海峡危機)の際、中国の軍事力は非常に限られたものでしたが、それでもアメリカはミサイル発射を非常に重く受け止め、中国に危険だと伝えました。私たちが当時の出来事を危機だと捉えるなら、今、私たちはすでに危機の中にいるのです」

■主導権は中国側に…台湾周辺での軍事演習「新たな基準となる」



一方、中国軍が台湾周辺で始めた大規模な軍事演習について、CSIS(戦略国際問題研究所)のボニー・リン上級研究員は、「中国は強く反応すると予想していたので、驚きはない」としつつも、「軍事的行動としては前例のない規模だ」と指摘する。

台湾の上空を通過する弾道ミサイル発射についても「今後数日でさらに増える可能性がある」との見方を示した。

さらにリン氏は、今回の軍事演習によって、中国は今後、より台湾の近くで活動するようになる可能性が高いと話す。

リン氏
「この演習は、中国が台湾に接近して活動する前例、そして新たな基準となる可能性が非常に高いと思います。演習が終わった後でも、台湾の近くで同じような中国軍の活動が見られるかもしれません。今回の行動によって、台湾への軍事的活動を常態化させようとしているので、リスクは高まります」

リン氏はその上で、現在の米中対立の主導権は、中国側にあると指摘した。

リン氏
「中国がどの程度行動を強めるか、見守る必要があります。中国が多くの点で主導権を握っているのは間違いなく、中国が適切だと考える度合いまで、緊張を高めていくでしょう。そして、アメリカはそれに対応しなくてはならないのです」