LGBTQを肯定する高齢者施設で見た“一歩先の世界” 孤独や貧困どう解決?【記者が語るジェンダーニュース】
■LGBTQを肯定する高齢者施設 必要な背景に“LGBTQ特有の課題”
末岡寛雄支局長
「2月上旬に、アメリカ・テキサス州にある『LGBTQフレンドリーの高齢者施設』を取材しました。62歳以上の入居者112人あまりいて、約半数はLGBTQの当事者という施設だったんです」
白川大介プロデューサー
「こちらは『news every.』でも放送されまして、私も見ました。アメリカでは、こういう施設が広がってきているんですか?」
末岡支局長
「そうなんですよね。実際に全て調べ切れているわけではないんですが、各地にこうした施設があり、私たちが今回、取材したのは全米で最大規模の施設です。LGBTQを肯定する施設なんですが、だからといって入居者全員がLGBTQというわけではなく、だいたい入所者112人の半分近く…50人ぐらいがLGBTQの方たちです」
白川プロデューサー
「なぜ、あえて高齢者施設で『LGBTQフレンドリー』というのを打ち出すことが必要なのでしょうか?」
末岡支局長
「それは、性的マイノリティーが高齢者になった時に直面する可能性が高い“特有の問題”というのが、いくつかあるからです。例えば、ひとつは『孤独』です。子どもがいないという方が多いので、高齢になった場合に介護してくれる人がいなかったり、頼れる家族が身近にいなかったりする方が多いと言われてるんです」
白川プロデューサー
「今の日本の状況だと、LGBTQ当事者で子育てをするというのは、まだまだ事例が少ないので、そのまま高齢期を迎えると、少なくとも子どもとして頼れる人というのはいない当事者が多いのかなと、私自身も思います。そしてごきょうだいがいらしても、関係が必ずしも良くなかったりするんですよね。自分の性的なマイノリティー性をきょうだいなどに明かしていなかったりとか、それをきっかけに疎遠になってしまった、という方もいらっしゃいます。もちろん“実の子がいれば当然、親の介護をしてくれる”という価値観の時代ではないとは思いますが、少なくとも老後、頼れる先があるか・ないかというところには、大きな違いがありそうですね」
「あと、その施設に入居されている方は60歳以上なので、まだまだLGBTQへの理解が進んでいない時代を過ごしてこられた方たちです。なので、職業差別に遭って仕事を転々とした結果、蓄えが少なくなる…という『貧困』の問題も多く、この施設は安い値段で入れるようになっているんです」
白川プロデューサー
「日本においては、明確な職業差別というよりは『LGBTQである』ということを明かしにくい状況によって、不安定な職業状況に追いやられやすいという傾向があると思います」
末岡支局長
「さらに『住居』を借りるときにも性的マイノリティーへの差別があり、なかなか家を借りづらいという状況もある。だからこそ、こういった施設がとても望まれてるという現状があるんでしょうね」
白川プロデューサー
「『恋人探しをするわけでもないのに、なぜLGBTQの人が集まって暮らす必要があるの?』と思う方もいらっしゃるかもしれません。ただ、私自身もゲイの当事者ですけれども、LGBTQ当事者の課題って、決して性や恋愛だけのことではないんですね」
「例えば、家族との関係だったりとか、パートナーシップのあり方、あと『性表現』というんですけれども、どのような自分の見た目だったり、ジェンダー・アイデンティティーを表現した格好で過ごしたいかとか、どういうアイデンティティーで扱われたいか、あとHIVなどにかかっている方が一定数いらっしゃる『病気』の問題だったりとか…。人生の全てに関係する以上、高齢者施設に入った時にLGBTQであることを全て隠して、周りの入居者や、助けてくださる職員の方とコミュニケーションするのって、すごく難しい。もう24時間うそをついていなきゃいけない状況になると思うんですよね」
■LGBTQの高齢者だけでなく、さまざまな人の“居場所”になる施設
白川プロデューサー
「いろいろな課題があるというところで、取材した施設では『貧困』について、低価格で入居できるということですが、どういう背景があるんでしょうか?」
末岡記者
「実はこの高齢者施設は実額、家賃が日本円にしてだいたい6万円から9万円くらいで、1LDKくらいの部屋に入れるんです。これは、普通に借りるよりもだいぶ安くなっています。この施設を運営しているのはNPO法人で、そこに政府や州など、公的な機関からのお金の援助も入っているんですよ」
「さらに施設の中には医療機関が併設されていて、入居者だけじゃなく、近所のおじいさん、おばあさんたちも訪れていました」
白川プロデューサー
「『施設内に医療機関がある』というのは安心ですよね。しかもHIVというのは、初めての医療機関で打ち明けるのは結構、勇気がいることです。どういう反応をされるかっていうことを不安に思う方も多いと思いますが、こういう施設の中にオープンに話せるかかりつけ医がいるって、素晴らしいですね」
末岡支局長
「あと、実は入居者のお手伝いをする『ケースワーカー』の方たちも、4分の3くらいLGBTQの当事者の方でした。なので、すごく皆さんが心を開いていて、何でも話しやすい、相談しやすい雰囲気がありました」
白川プロデューサー
「日本において、LGBTQ当事者かということをオープンにしているケースワーカーさんがどの程度いらっしゃるか…僕もほぼ聞いたことがないので、そういう面もかなり違うなと思いますね」
■“施設の中では当たり前”から“みんなが当たり前”になるように
白川プロデューサー
「末岡さんがこの施設を取材してみようと思ったきっかけというのは、どういうものだったんでしょうか?」
末岡支局長
「2005年…今からもう10数年以上前の話なんですけれども、映画『メゾン・ド・ヒミコ』』を見たんですよね。オダギリジョーさんと柴咲コウさんが主演された映画で、ゲイの老人ホームを舞台にした映画でした。“日本にこんな施設って、まだないよな…アメリカにあるのかな?”と思って、気になっていた中、実際にアメリカに駐在して、こういった高齢者施設があるというのを目にしたんです」
白川プロデューサー
「私も、日本でこの点について特化した施設というのはまだ見聞きしたことがないですね。もちろん、当事者の方たちの中には『自分たちが“老後”と言われる時間を迎えた時に、こうした施設だったり、サポートがあったらいいね』というコンセプトで活動している方たちはいらっしゃるんですが、実際の施設というところにはまだ着手していないと思います」
「いろいろ違いはあるなと思うんですが、例えば医療機関で私たちLGBTQ当事者が受診することを想定したガイドラインのようなものが広く共有されているか…っていうと、やっぱりそうではないですし、『病院に入院します』『同性のパートナーです』と言った時に“何ですか。それは!?”というような反応を受けたりとか、“それでは病状についてお話できないんで、血の繋がった親族の方を呼んでください”みたいなことが、いまだに日本では起こっていて、そういったことがなかなか改善されない背景のひとつには、目に見える当事者の方たちの声がまだまだ届きにくい状況があります」
「そういったものが、もっともっと広がっていくと、“高齢者施設においても、こういったものが必要だね”という動きにつながっていくのかなと思います」
末岡支局長
「“皆さんが当たり前でいきいきとして暮らしている”っていうところで、僕はさらにこの一歩先の世界があると思っているんです。今は“その施設の中では当たり前”というかたちですが、さらに世の中が進むと、LGBTQに特化した施設っていうこと自体が取り払われて“みんな、それが当たり前”だと感じる世の中というのが、いつか来ればいいなと思います」
白川プロデューサー
「そうですね。“LGBTQフレンドリーな施設です”っていうことを特別なこととしてわざわざ言わなくても、“当たり前にどの施設でもそうですよ”となったら、さらに素敵だなとは思います。その第一歩として、日本でもこういった施設や対応が見つけられたら、私も取材してお伝えしたいなと思っています」