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増える「不登校」――“もう1つの居場所”が中学校に3年女子「ポジティブな感情に」無事に卒業…校長のエールは『every.特集』

2024年3月30日 19:30
増える「不登校」――“もう1つの居場所”が中学校に3年女子「ポジティブな感情に」無事に卒業…校長のエールは『every.特集』

全国的に増える、不登校の子どもたち。都内の公立中学校は、教室に入りづらいと感じている生徒が気軽に立ち寄れる「居場所」を校内に設けました。2年生の時は不登校だった生徒は、この場所に支えられて学校に通えたといいます。この春、無事に卒業を迎えました。

■「友だちに会いたいけど会いたくない」

東京・池袋にある豊島区立西池袋中学校。昼過ぎに、1人の女子生徒が登校してきました。彼女は中学3年生です。向かったのは、クラスメイトが待つ教室ではありません。

様々な理由で教室に入れない生徒が過ごすために用意された部屋に向かいました。この日は同じような生徒が、他にも2人いました。みんな、給食は1人。彼女も、話すことなく無言で食べていました。

「友だちに会いたいけど、会いたくないみたいな。自分だけ気まずいって感覚。自分が勝手に緊張したり、おなか痛くなったり」

彼女の不登校は小学6年生の頃から始まりました。新型コロナウイルスによる休校がきっかけで、学校を休みがちになりました。

そのうち教室に入りづらくなり、中学2年生で完全に不登校に。3 年生になり、ようやく学校に足が向くようになりました。

女子生徒は「高校に行きたいという気持ちがあるから、学校に行くことに慣らしておきたいなって。毎日朝から(学校に)来られる人になりたいなって」と希望を語ります。

■もう1つの「居場所」で彼女は笑顔に

しかし、まだ教室に入ることはできません。1人で本を読んだり、勉強したりしながら過ごしています。

ただ、彼女にはもう1つの居場所があります。午後1時半、向かったのは校内のとあるスペースでした。ついたての奥に入っていくと、スタッフから「やる? ここどうぞ」と声をかけられました。

不登校の生徒を増やすまいと、学校と教育委員会が連携して去年5月につくったスペース「にしまるーむ」です。教室に入りづらいと感じる生徒が気軽に立ち寄り、何気ない会話を楽しんだり遊んだりできます。彼女もここでは、打って変わって笑顔を見せていました。

この日は4人の生徒の他に、大人たちの姿も。「大富豪する?」「大富豪わかんない」「知らない? 教えよっか」と、生徒らとやり取りしていました。大人たちはNPOのスタッフで、運営に協力しています。

■増える不登校…「教員だけでは不可能」

全国的に不登校の生徒が増える中、この学校も例外ではなく、対応が追いつきません。

佐藤高彦校長
「(全校生徒の)10%を少し超えています。教員だけで十分な手を差し伸べるのは不可能だと思います」

教室に入れない生徒や完全に不登校の生徒は、どのクラスにも数名はいるといいます。それぞれのクラスの担任は、日々の業務に加え、電話や家庭訪問などの対応に追われています。そこで、子ども食堂や学習支援など地域の居場所づくりを行うNPOに協力を呼びかけました。

■「先生の力に」…生きるNPOのノウハウ

豊島子どもワクワクネットワーク・栗林知絵子代表
「先生たちの思いというのはすごい。こんなに生徒さんのことを思っていて尽力されているけど、全部抱えるのは難しいと思うので、少しでも先生たちの力にもなれたらいいなと思います」

ここではNPOのノウハウが生かされています。スタッフの1人は「飲み物があると長めにくつろいでもらえます」と言います。訪れた生徒のために飲み物を用意して、心が落ち着いた状態で過ごせるように配慮していました。他にも、トロフィーなど学校に関連する物が置いてある棚は、プレッシャーがかからないよう一時的に布で隠します。

教室に入れない女子生徒も「行こうと思える場所が(校内に)あるのがいいかなって。学習ルームにいても交流がないので、息抜きになるような感じの」と言います。NPOによると、安心して話ができる、“先生でも親でもない大人”の存在も大切だといいます。

■女子生徒は「居心地の良い距離感」

彼女は、スタッフが首からぶら下げていた緊急時用の笛に目を向けました。

スタッフ
「あ、これね、何か危ないことがあったら吹く(笛)」

女子生徒
「(私も)持ってます」

スタッフ
「持ってる? 何か危ないことあるの?」

女子生徒
「まだ吹いたことはないです」

スタッフ
「よかった!」

その場は、楽しく和やかな雰囲気に包まれました。女子生徒も、のびのびとした表情で会話ができています。「居心地の良い距離感。教室だと仲が良い子が集まったり、1人1人の距離感が近いというか…」と言います。

■2回目の卒業式に9人 無事に証書が

この場所で過ごした6か月近い日々。女子生徒は、様々な大人や生徒と触れ合えました。その中で、未来への希望が持てるようになったといいます。「中学で青春っていうの、あんまりなかったなって。高校ではそういうの楽しみたいなって」

高校進学は決まっています。高校では青春を楽しみたい―。彼女はそう考えています。迎えた3月の卒業式。会場に彼女の姿はありませんでした。式が終わると、看板は校内の別の部屋へ移されました。不登校など様々な事情を抱える生徒に合わせ、この学校では卒業式を1日に3回行いました。

午後2時頃。彼女は2回目の卒業式に母親と参加しました。この回の生徒は9人。彼女にも卒業証書が渡されます。名前を呼ばれると「はい」と答え、佐藤校長は「おめでとうございます」と門出を祝いました。

■笑顔の新しい春…「高校で頑張ろう」

無事に卒業。先生や NPO のスタッフに支えられ、学校には最後まで通うことができました。そんな彼女たちに向けて校長先生は、こうエールを送りました。「今日、卒業証書を渡せて良かったと感じています。頑張って、頑張って、頑張る必要ないんだよ。周りが誰かしら支えてくれるので」

学校を去る間際、女子生徒はみんなと安心して過ごせたあの場所へ。この日は誰もいません。「『あ、今日(居場所が)あるから行こう』って。ポジティブな感情になれる(場所)。中学校でこういう場所があったからこそ、高校で頑張ろうと思える」

校門の前で笑顔を見せた彼女に、もうすぐ、新しい春が訪れます。

(3月27日『news every.』より)

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