男性バレエダンサーへの“偏見”を考える 「パンツどうすんの」「気持ち悪い」傷ついた言葉
「バレエ」と聞いて思い浮かべるのはなんでしょうか?キラキラと光るティアラや衣装?トゥ・シューズでくるくると回るダンサー?バレエには、男性のダンサーの活躍も欠かせません。しかし、男性ダンサーたちは差別や偏見と戦ってきました。“男らしさ”とは何なのか――。男性ダンサーをめぐる差別や偏見について考えました。
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最近、男性のバレエダンサーが注目されています。今年4月には、男性ダンサーが主人公のマンガ「ダンス・ダンス・ダンスール」のアニメ化も始まるなど注目が集まっています。一方で、「男らしくない」などの理由の差別や偏見も感じるという男性バレエダンサーの世界を取材しました。
■バレエの男性ダンサー どんな役?
クラシックバレエの古典作品で最大の見せ場となるのは、男女がペアで踊る「グラン・パ・ド・ドゥ」。この時、男性ダンサーは女性ダンサーを、時には片手でリフトするなど、重要な役割を果たします。さらに、高くダイナミックなジャンプなど男性ダンサーならではの大きな見せ場もたくさんあります。
しかし、男性ダンサーは“偏見”と戦ってきました。
2000年に公開された映画「リトル・ダンサー」では、バレエダンサーを目指す男の子が「男らしくあれ」「バレエは女の子がやるものだ」などの偏見と闘う様が描かれています。公開から20年以上がたった今、男性ダンサーへの差別や偏見はどうなったのでしょうか?
■「パンツどうすんの」「気持ち悪い」傷ついた同級生の言葉
創立70年を超える名門バレエ団「谷桃子バレエ団」のプリンシパル(最高位のダンサー)三木雄馬さんに話を聞きました。
ーー子どもたちへ指導もされていますが、男女比はどうでしょうか?
圧倒的に女の子が多いと思います。男の子は女の子の10分の1、あるいは15分の1くらいかもしれません。
ーー男の子が少ないのは、「バレエは女の子がやるもの」など“偏見”が関係しているんでしょうか?相談を受けたりした経験はありますか?
私がバレエを始めた子どもの頃と比べると、小さい時から男の子もバレエを始める人も多くなってきているので、より身近になってきているのかも知れません。
しかし、中高生になると、学校の友達に「放課後に遊びに行こう」と誘われたときに、バレエのレッスンがあって遊びにいけない場合、バレエをやっていることを友達に打ち明けるのをためらうという声も聞かれます。
また、「バレエ専用のアンダーウェアを履くのが恥ずかしい。スポーツ用のジャージなどで代用できないか。」という相談を受けることもあります。
理解は進んでいるものの男性がバレエをすることに対して、まだまだ学校などで、からかいなどの対象になっているのかも知れません。
ーー三木さんご自身、子どもの頃、バレエを習っていることでいじめや差別的なことをされた経験はありますか。
小学生の頃は、「オカマ」と呼ばれたり無視をされたりと辛い時期が長かったです。徳島県ではバレエをしている男の子は僕しかいなくて、風当たりが強かったです。
たまに長く話をしてくれる子がいても「パンツどうすんの」「タイツほんとに履くの」といった興味本位の話から始まり、最後は決まって「気持ち悪い」と言われて会話が終わりました。
忘れられないのは、学校の教師にニヤニヤしながら「ここで踊ってみろ」と言われ、廊下で踊らされて、挙げ句には「よくわからんけど下手くそやな」と罵られたことです。今の教育現場では考えられないです。
■「白タイツ」なぜ履くの?
しばしば、からかいの的になる「白いタイツ」。
なぜ、男性ダンサーは白いタイツを履くのでしょうか?ダンサーたちによると、男性ダンサーは腰から下はタイツ1枚で踊ることで、脚のラインを美しく、長くみせることができるといいます。
特に、白いタイツは、舞台上で照明をあびると、筋肉による陰影がしっかりと見えて、観客にしなやかな動きが伝わるといいます。また白は、古典作品において王子や貴族などの役柄で使用されることが多いそうです。
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三木さんみんなバレエの歴史を知らずに、なんとなく「タイツ」という言葉だけで女性の衣服と感じて偏見を持ちますが、元々は貴族や王様といった位の高い人たちのファッションアイテムでした。女性よりも男性が人前で着用している方が多かったものです。
ヨーロッパ文化のバレエを演じる上で、当時の世界を表現する古典作品にタイツは欠かせないものですし、タイツの色も衣裳や装置と合わせて考えられていて重要なものです。
■ジョージ王子をバカにしてキャスターが謝罪 SNSでは“応援”の動きも
しかし、海外でも男性ダンサーへの差別や偏見を感じることがあるといいます。
2019年、アメリカのテレビの朝の番組で、イギリスのジョージ王子が学校の授業の一環でバレエを習っていることを報じた際に、女性キャスターがバカにしたような発言をし、批判が殺到。後日、謝罪する事態となりました。
このような偏見にさらされる男性ダンサーを応援しようと、SNSでは「#boysdancetoo(男の子だって踊る)」とタグが付けられた投稿が相次ぎ、今年4月の時点でインスタグラムでは28万件を超えています。
■「男らしさ」とは何なのか
こうした差別や偏見のためバレエを続けるか悩んでいるかもしれない“未来の男性ダンサー”となる子どもたちへ三木さんからメッセージをもらいました。
さらに、フィギュアスケートなど芸術競技に取り組む男性が取り上げられることもあって、バレエに対する偏見を同世代の友人らに感じる機会は僕の時代よりは少ないと思います。
去年、谷桃子バレエ団では、男の子にも楽しんでもらいたくて「海賊」という作品を上演しました。通常は2人の男性がメインの役にあるのですが、それを1人に絞ったので、分かりやすくヒーロー的に見えるようになっています。タイトル通り「海賊」の物語なので、もともと男の子が親しみやすい作品ですが、より親しみやすくなりました。
男の子でも、バレエを好きだという思いを隠さずに、心から楽しんでほしいと思います。