体罰・暴言「愛のむち」で脳が変形する?

親が子どもを怒鳴る、たたくなどは、子どものために「良かれ」と思ってする場合もありますが、理由はどうであれ、子どもの脳に影響を与えることが明らかになっています。小児精神科医・友田明美さん(福井大学子どものこころの発達研究センター教授)に、研究結果と体罰のない子育てについて聞きました。
──研究で体罰や暴言が脳に影響を与えることが明らかになりましたが、大人によるどのような行為が「不適切」なのでしょうか?
私は「マルトリートメント(マルトリ)」という言葉を使っていて、「避けたい子育て」という意味です。子どもを叩く、暴言を吐く、子どもの前で、両親間で殴る蹴る、罵倒する、私もやってしまいましたが、1人で子どもに留守番をさせるなども含まれます。
──脳への影響は
1回で脳が変形したり、物理的に変わることはないですが、頻度や強度が増した時、脳の様々な領域が物理的に変形することが私が2003年からハーバード大学と一緒に行った研究でわかってきました。アメリカで、ベルトで叩くなど厳格な体罰を4~15歳に受けた人を集めて脳画像を比べた結果、前頭前野という感情や理性をつかさどる所の一部が、そうした体罰を受けていない人に比べ、平均19・1%減少していました。そうすると、うつ病の一種になる、場合によっては非行や犯罪に手を染める素行障害が出てきます。おかしいですよね。親が子どもの悪い行いを正すために良かれと思った体罰が、子どもに精神症状を出させたり、非行に走らせる。愛のムチが1個も子どもにいいことをもたらさないとわかった。体罰は百害あって一利なしと言われている。「お前なんか生まれてこなければよかった」といった言葉を言われて育った人の脳は、聴覚野という声や音を知覚する部分が増加、変形していました。
■成功体験を味わえない脳に
脳には、ご褒美を感じる領域がありますが、マルトリを受けると、ご褒美や喜びを意識しにくい脳になる、意欲が出にくい、「褒め育て」が難しくなることもわかりました。褒められるとか成功体験があると、脳から神経伝達物質のドーパミンが出るんですが、マルトリを受けて、愛着障害のお子さんはドーパミンが出にくいのです。でも、あきらめる必要はなく、脳は子どもでも大人でも修復できるとわかっています。ほかのお子さん以上に「褒め育て」をしなさいと、脳が物語っているんです。
──1回では脳は変形しないかもしれないが、やはりたたかない方がいいですね
大人のストレスが増えた時、つい、子どもをはけ口として「お前、悪い行いをしたな」と感情に任せて体罰をする。親が子どもを懲らしめる権利、懲戒権が民法で規定され、愛のむちというまことしやかな言葉で語られてきた。脳への影響はベールに包まれてきたけど、私の脳科学的な根拠では、体罰を受けると、脳のとても大事な感情や気分、犯罪抑制力に関わるところが物理的に変形する可能性があると見えてきた。昭和の時代は、お父さんがちゃぶ台ひっくり返す漫画もあったが。
──昔はそうだった、私は体罰受けても大丈夫だったという人もいる
それはたまたまラッキーだったと思うんですよ。子どもによっては、トラウマになりかねない。きょうだいでも感じ取り方、特性、ストレスに弱いか強いかが違う。上の子は平気だったのに、下の子はそれを一生引きずるということはよくある。自分が大丈夫だったから、体罰していいというのは間違いです。