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体罰・暴言「愛のむち」で脳が変形する?

2022年4月29日 17:10
体罰・暴言「愛のむち」で脳が変形する?
8年間激しい体罰を受けた人の脳

親が子どもを怒鳴る、たたくなどは、子どものために「良かれ」と思ってする場合もありますが、理由はどうであれ、子どもの脳に影響を与えることが明らかになっています。小児精神科医・友田明美さん(福井大学子どものこころの発達研究センター教授)に、研究結果と体罰のない子育てについて聞きました。

──研究で体罰や暴言が脳に影響を与えることが明らかになりましたが、大人によるどのような行為が「不適切」なのでしょうか?

私は「マルトリートメント(マルトリ)」という言葉を使っていて、「避けたい子育て」という意味です。子どもを叩く、暴言を吐く、子どもの前で、両親間で殴る蹴る、罵倒する、私もやってしまいましたが、1人で子どもに留守番をさせるなども含まれます。

──脳への影響は

1回で脳が変形したり、物理的に変わることはないですが、頻度や強度が増した時、脳の様々な領域が物理的に変形することが私が2003年からハーバード大学と一緒に行った研究でわかってきました。アメリカで、ベルトで叩くなど厳格な体罰を4~15歳に受けた人を集めて脳画像を比べた結果、前頭前野という感情や理性をつかさどる所の一部が、そうした体罰を受けていない人に比べ、平均19・1%減少していました。そうすると、うつ病の一種になる、場合によっては非行や犯罪に手を染める素行障害が出てきます。おかしいですよね。親が子どもの悪い行いを正すために良かれと思った体罰が、子どもに精神症状を出させたり、非行に走らせる。愛のムチが1個も子どもにいいことをもたらさないとわかった。体罰は百害あって一利なしと言われている。「お前なんか生まれてこなければよかった」といった言葉を言われて育った人の脳は、聴覚野という声や音を知覚する部分が増加、変形していました。

■成功体験を味わえない脳に

脳には、ご褒美を感じる領域がありますが、マルトリを受けると、ご褒美や喜びを意識しにくい脳になる、意欲が出にくい、「褒め育て」が難しくなることもわかりました。褒められるとか成功体験があると、脳から神経伝達物質のドーパミンが出るんですが、マルトリを受けて、愛着障害のお子さんはドーパミンが出にくいのです。でも、あきらめる必要はなく、脳は子どもでも大人でも修復できるとわかっています。ほかのお子さん以上に「褒め育て」をしなさいと、脳が物語っているんです。

──1回では脳は変形しないかもしれないが、やはりたたかない方がいいですね

大人のストレスが増えた時、つい、子どもをはけ口として「お前、悪い行いをしたな」と感情に任せて体罰をする。親が子どもを懲らしめる権利、懲戒権が民法で規定され、愛のむちというまことしやかな言葉で語られてきた。脳への影響はベールに包まれてきたけど、私の脳科学的な根拠では、体罰を受けると、脳のとても大事な感情や気分、犯罪抑制力に関わるところが物理的に変形する可能性があると見えてきた。昭和の時代は、お父さんがちゃぶ台ひっくり返す漫画もあったが。

──昔はそうだった、私は体罰受けても大丈夫だったという人もいる

それはたまたまラッキーだったと思うんですよ。子どもによっては、トラウマになりかねない。きょうだいでも感じ取り方、特性、ストレスに弱いか強いかが違う。上の子は平気だったのに、下の子はそれを一生引きずるということはよくある。自分が大丈夫だったから、体罰していいというのは間違いです。

■体罰の連鎖から「褒める」「認める」連鎖を

子育ては連鎖するんです。親から怒鳴られ、殴られてきたら、親になった時に我が子を同じように怒鳴る、殴ることが多いんです。生い立ちの中で褒められたことがない大人は、子どもを褒めることができない。私は診療の現場で、親から褒められたことのない大人、を「褒め育て」しています。子どもの「褒め育て」ももちろんですが、親御さんに「頑張ってるね、子育て、よくやっているね」と認める、ねぎらう。すると、その親の自信になって、我が子をほめるようになる。自己効力感、自己肯定感が高い子どもが育てば、彼らが親になったら我が子を認め、褒めるようになります。親同士、ママ友、パパ友も褒め合っていただきたい。

なぜ、マルトリが結構多いのかというと、戦争のトラウマを引きずっていると思うんです。第二次世界大戦後、戦争から帰ってきた世代は一番傷ついているんです。その世代が、戦後、いばって体罰、愛のムチをしていた。そうして育った子どもたちがまた体罰の連鎖をしていくわけです。簡単に断ち切れない。しかし、もう令和ですからね、変えていかないと。

体罰を受けても育ってきたという自負がある大人に「体罰はいけない」と言ったら、その人の人間性を否定することになる。だから、「お父さんお母さんも確かに成長してこられたけど、体罰は百害あって一利なしという根拠が研究でわかってきたんです」と説明します。親にお尻叩かれて育ち、不登校、うつ病で、うちを受診しているお子さんが何人もいますが、特にお父さんに脳への影響の動画を見せると変わりますよ。

──愛着についてもうかがえますか

愛着とは、遊びや冒険に出た子どもが困った、悲しい時に戻ってくる避難場所、安全基地のようなもの。通常は、親が子どもを抱っこしたり、微笑んだり、語りかけたりしますが、親御さんが余裕がない場合もありますよね。愛着ができていない場合、再形成も可能。親だけでなく、周りの支援者らが子どもとしっかり向き合って、話を聞き、希望を叶えるように一緒に考えてあげる。そうすることで、愛着の再形成は可能です。

──私(記者)も子どもを怒鳴る、たたいたこともあり、後悔しています。

親がいっぱいいっぱいの時は、誰でも体罰をやってしまうことがありますよ。ストレスがない親なんて嘘っぽいですよね。イヤイヤ期もあるし、夜は寝てくれないし、おいたはするし。「体罰はやっちゃいけない」と言って終わり・・はあんまりですから。上から目線で「止めろ」でなく、親だけでなく、周りも共同して子育てする「共育て(ともそだて)」が必要。完璧な親なんてどこにもいないです。どうやったら体罰や怒鳴る、叩くをやめられるか、私は診療の中で「子育て大変だね、わかるよ」と呼びかけ、怒りのコントロールを指導したり、ペアレントトレーニングをしたりしています。地域の保健センターや児童相談所、保育園、学校、NPOなど社会が共育ての担い手であると理解していただき、体罰によらない子育てを、と思っています。

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