【飯塚事件】第2次再審請求の行方②最大の争点 最後の目撃者が証言を覆す「警察に押し切られた」 元刑事「聞いていないことを書くはずがない」検察「信用できない」 福岡
最後の審理を終えたこの日、弁護団は、これまで本人の強い希望で公表してこなかった、ある「証人」の存在を明かしました。
■飯塚事件弁護団・德田弁護士
「最後に被害児童を目撃したOさんという証言者、今回の第2次再審で、そのOさんが法廷に証人として立ってくださいました。」
弁護団が明かしたOさんとは、被害にあった女の子2人を最後に目撃したとされる女性です。
警察がまとめた女性の供述調書には「事件当日の午前8時30分ごろ、車で通勤途中に女の子2人を三差路付近で見た」と記されています。
しかし、女性はその供述内容を覆したのです。
■德田弁護士
「事件当時、警察に作られた供述調書は自分の記憶と違う。自分は事件があった日に子どもたちを見たのではない。それをその日に見たという供述調書にさせられてしまった。そういう趣旨の証言をされたわけです。」
■岩田務弁護士
「あなたがこう言ったら全体が崩れるんですとか、そういう話で押し切られたと。」
この証言が持つ重要な意味。それは、久間 元死刑囚を犯人とした状況証拠の1つが崩れることにつながるというものです。
確定判決は、この女性の供述などをもとに、事件当日の午前8時30分ごろ、三差路付近で女の子が誘拐されたと特定しました。
同じ頃、久間 元死刑囚の車によく似た紺色のワゴン車が目撃され、さらに女の子の遺留品が発見された別の現場でも、特徴がよく似た紺色ワゴン車が目撃されたことを、久間氏を犯人とする状況証拠の1つとしました。しかし。
■德田弁護士
「Oさんは(第2次再審請求の証人尋問の)法廷で、自分が目撃したのは当日ではないという証言をされましたので、この証言通りだということになると何が起こるかというと、誘拐場所がどこだったのかということが特定できなくなる。誘拐された時間も午前8時30分でないということになる。そうなると、三差路を通った紺色ワゴン車が事件と関係しているかどうかは、まったくわからなくなってしまう。」
女性は警察に証言の取り消しを求めた
警察がまとめた女性の供述調書には、次のような記述があります。
■女性の供述浄書より
「私から7~8メートル前方の三差路から、小学生、低学年の女の子が、少し小走りの感じで小学校の方向に行くのが見えたのです。それから何十秒も過ぎない頃、今度は先ほどとは違う、やはり小学生、低学年の女の子が立っているのに気づいたのです。」
詳細に記された事件当日の状況。しかし。
■岩田弁護士
「それについてはOさんは一貫して『そんな話は全然ない。全く違う』と。そんな『子どもたちを1人ずつ見たという事実はない』と完全に否定していました。」
また、久間氏が逮捕されたのちの1994年10月、女性は検察から供述調書作成に応じるよう要請を受けました。
■手嶋一雄記者
「こちらが女性が来るように言われたレストランです。現在は営業していません。警察に押し切られるようにサインした調書を修整してもらえるならと、女性は当時住んでいた関東方面から自費でこちらに来たということです。」
しかし、調書はすでにできあがってサインをするだけの状態でした。そして、警察の供述調書と同様、女性が女の子たちを事件当日に見たように書かれていました。
(取材に基づく女性と捜査関係者のやりとり)
■女性
「証言を取り消してほしい。」
■捜査関係者
「あなたの証言は重要です。あなたの証言なしに有罪にすることはできません。」
■女性
「困ります。」
■捜査関係者
「あなたの供述だけで有罪になるわけではない。あなたの話がないと話がつながらないんです。」
女性は何度も修正を求めました。しかし聞き入れられなかったといいます。
■德田弁護士
「まだ20代の若い人たちが、警察から協力しろという形でこれに違いないと言われれば、押し切られるということになるのはやむを得ないのではないか。」
弁護団と女性が初めて接触したのは、6年前の2018年3月です。德田弁護士の事務所に女性から電話があったということです。
■德田弁護士
「これがその電話受け簿です。その日、私は出張していたのですが、帰ってきて見て、飯塚事件で最後に女の子たちを目撃したとされる女性であることはすぐにわかりました。」
■電話の内容メモより
「飯塚事件で調書を取られた者です。当時、警察官(検察官)から異常な強引な聞かれ方をして、自分の記憶は曖昧(あいまい)なので使わないでくださいとも言ったのですが、もう決まっているからと調書をとられました。犯人はほかにいると思っていて、話すと何かされるのではないかと怖くて話せませんでした。」
■德田弁護士
「(女性は)関東地方に住んでいたので、この事件がどうなったかについてはわからないままで、それで福岡に帰ってきて死刑になったということを知って、それは自分は大変なことをしてしまったのではないかという思いがずっとあったと。記者会見で『久間さんは無実だ』という話をしている弁護士の姿を見て、話さなきゃいけないと決心したと、そういう趣旨だった。」
「三差路の疑問」が解消
また弁護団はこの女性の証言で、ある疑問が解消したと話します。
■德田弁護士
「もうひとつ我々が信用したのが、彼女だけが三差路で女の子たちを見ているのですが、彼女以外、誰一人、女の子を見ていないわけですよね。こんなことが起こりうるかと、ずっと裁判の中で争点になっていたので、ああ、この話を聞いて疑問が解決する。」
今回、女性の供述調書をまとめた福岡県警の元刑事の男性に話を聞くことができました。男性は「聞き込みの段階で女の子を見たという話があったから聞いた。聞いていないことを書くはずがない。調書を脚色したことはない」と、女性の証言を強く否定しました。
弁護団によりますと、福岡地検は第2次再審請求での女性への証人尋問の際、「女性は自らの証言が影響して久間氏が死刑になったと思い込み、当時の証言を否定せざるを得ない心境になったもので信用できない」などと反論したということです。
女性の証言の信用性、そしてこの証言が確定判決に及ぼす影響を、裁判所がどのように判断するのか。再審可否の判断は6月5日に示されます。
次回、シリーズ「飯塚事件」の3回目は「DNA型鑑定」についてお伝えします。
※FBS福岡放送めんたいワイド2024年5月31日放送