【特集】ラーメン1杯「1,000円の壁」 “適正価格”に悩む店主 煮干しの高騰で「もう限界」《新潟》
国の家計調査によると、全国トップクラスでラーメンを食べる「新潟」。しかし、物価高を背景にラーメン業界で言われている1杯の価格が「1,000円の壁」を越えるのか、超えないのか、店主は頭を悩ませています。庶民の味でもあるラーメンの適正価格とは。1杯のどんぶりの中に今、変化が起きています。
その1杯に、作り手の思いが込められています。
新潟市秋葉区の「ヌードルいたば」。
今年5月のオープン以来、昼時には満席になる人気店です。
この店のオーナー、板場優児さん。
父も兄もラーメン店を営むラーメン一家の板場さん。店で使う麺は父が製麺したものです。
板場優児さん
「父親が製麺しているんですけど、特注で作ってもらった杵打ち製法による全粒粉麺です」
父が作った麺に負けないようスープにもこだわっています。
板場優児さん
「軸となるのが新潟地鶏で、あとはアゴの煮干しですとか、本枯れの厚削りなども入っていますね」
チャーシューには十日町のブランド豚肉「妻有ポーク」を使用。
タレに使う醤油も選び抜き、価格は1杯1,000円に設定しました。
ラーメン店で1杯が1,000円を超えると客に敬遠されると言われる「1,000円の壁」。
ラーメン業界でずっと言われ続けてきた“常識”だといいます。
板場さん、価格設定について、長年ラーメン店を営む父にも相談したといいます。
板場優児さん
「父親はいいと思うと。ただ周りからは、『あ、1,000円超えるんだ』ということは言われていました。いい食材を使えば値段も上がりますから、その食材で値段が上がったところをどこかで無理するのではなくて、適正な価格でご提供するというのは、僕もですけど、今後必要かなと思っていたので」
「ラーメン1杯1,000円の壁」について街で聞いてみると。
男性
「ラーメンって庶民の食べ物でしょう。やっぱり500~600円から、まあ1,000円以下でしょうね」
男性
「1,000円を超えていても美味しかったら」
親子連れ
「美味しかったら食べるけど、迷いますね」
Q パスタが1,000円でしたら?
「(高く感じるのは)ラーメンほどではないかも」
Q そば1,000円は?
「そば1,000円は、いいそばならあるかな」
Q うどん1,000円は?
「高い。申し訳ないけれど高いです」
これは東京におけるラーメンの平均価格の推移です。
1970年・昭和45年には1杯100円程度だったものが、5年後には200円台、1990年には400円台、2000年には500円台まで上がりましたが、その後20年以上500円台で推移しています。
コロナ禍が明けて外国人観光客が戻ってきた日本。
フランスからのご一行は。
「日本では人生で一番のラーメンを食べました。フランスでは1,600円から2,000円します」
日本では“半額”程の価格で、人生最高の一杯を堪能したとのこと。
ラーメンの適正価格とは・・・
上越市の「麺屋あごすけ」。
店名の由来にもなっている「あご」、トビウオの煮干しからとる出汁は深みがあり、この味を求めて全国から客が訪れる県内有数の人気店です。
行列が絶えない人気店ですが、店主の月岡二幸さんは窮状を訴えます。
月岡二幸さん
「いろんなラーメン屋さんがいらっしゃって、お考えもあるし、立地もあると思いますけど、うちの場合はもう限界です。1,000円を超えないと営業が成り立たないです」
“もう限界”。そう話す背景にあるのは原材料費や光熱費の上昇。
特に「煮干し」の価格高騰です。
月岡二幸さん
「うち店名が『あごすけ』なもので、ずっと焼きあごを出汁のメインでやってきましたけど、いま一番煮干しが高騰どころか倍。昔に比べると倍になりまして。佐渡産の(煮干し)に関してはキロ9,000円です」
トビウオを強火で焼きあげた後、さらに15時間、弱火の炭火で水分を飛ばす佐渡の「あご節」作り。
しかし、トビウオの不漁や廃業する業者が増えたことで貴重なものとなり、いまでは1キロあたり9,000円。
他県で作られた「あご節」もかつて1キロあたり1,500円程だったものが4,000~5,000円程に。
さらに、併用しているイワシの煮干しも、この1年ほどで2倍近く価格が高騰しているといいます。
そこで店では今年5月に価格を改定。
それまで一番安かった醤油ラーメンは930円から税込で1,000円としました。
それに合わせて開発したのが新たな醬油ラーメンです。
店の看板でもあるあごだしを使わず丸鶏を使いました。
価格は950円。
もちろん、味には自信を持っていますが、葛藤もあったといいます。
月岡二幸さん
「お客さまの立場からしてみれば少しでも安いラーメンをひとつ用意しておかないと思いまして、今回苦肉の策でご用意したのですけど、初めての試みで。あごだしではないラーメンを出すというのは」
店の誇りでもある「あごだし」を手放してまで守った1,000円の壁。
ただ、ほぼ全ての人があごだしを使った1,000円以上のラーメンを注文してくれるといいます。
それでも毎月のように上がる原材料費。
月岡さんは今後のラーメン業界にも危機感を持っています。
月岡二幸さん
「誰かが先頭を切って突破口を開かないと本当にラーメン屋さんがなくなっちゃうんですよ。1,000円を超えないといいものも使えないし、僕らの後ろには業者の方、生産者の方がいっぱいいらっしゃるんですよ。そういう方も僕らが使うことによって守っていかないといけないと思っています」
日本が誇る食文化のひとつでもあるラーメン。
その文化を支えるため試行錯誤の日々が続いています。
2024年7月11日「夕方ワイド新潟一番」放送より