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【分析】「聞く力」を数値化! 報道対応は1年間で141回。車座集会は2年間で46回開催。岸田政権2年間「聞く力」の成績表

2023年10月13日 20:51
【分析】「聞く力」を数値化! 報道対応は1年間で141回。車座集会は2年間で46回開催。岸田政権2年間「聞く力」の成績表

「聞く力」を掲げて発足した岸田政権。先週3年目に突入しましたが、その「聞く力」は十分に発揮されていたといえるのでしょうか。日本テレビは、報道対応や国民との対話という視点で、岸田首相の「聞く力」を客観的な数値で分析。その結果を、政治部・本岡記者がイチから解説します。

■岸田政権2年 「聞く力」はどう変化?

岸田政権2年間を支持率の推移を見ると、閣僚4人が辞任に追い込まれたり、年末には防衛財源確保のため増税する方針を決めたりしたことで、2年目に入ってすぐ支持率が下がっています。その後、電撃的なウクライナ訪問やG7広島サミットなどの外交成果などがあり、一時支持率は56%まで回復しました。

しかし、マイナカードのトラブルが相次ぐなどして再び、支持率は政権発足以来最低水準まで下がっています。

■「聞く力」とは? 岸田首相に聞いてみた

岸田首相自身は最初に掲げた「聞く力」についてはどう考えているのでしょうか。岸田首相本人に直接聞いてみました。

日本テレビ
「聞く力を十分に発揮できたとお考えかお聞かせください」

岸田首相
「聞く力と、決断し、実行するということ、このバランスが政治には求められるんだと思います。聞くだけで終わってはならない」

この発言から、岸田首相は「聞く力」だけでなく「決断して実行する力」も強調するようになったと考えられます。

そもそも「聞く力」はこの2年間で発揮されていたといえるのでしょうか? 「聞く力」は抽象的な言葉であるため、なるべく客観的な情報で評価できるよう、私たちは「聞く力」を数値化してみました。要素は「報道対応」と「車座集会」の2つです。

■安倍元首相の3.3倍!? 数字で見る岸田首相の報道対応

1つ目の「報道対応」について、私たちは「ぶら下がり」と呼ばれる、官邸のエントランスなどで行われるインタビューに注目。首相がインタビューに応じた回数から、どれだけ国民の疑問に答えようとしたかを分析できると考えました。

この報道対応の回数を岸田政権、菅政権、安倍政権のそれぞれ1年間を区切って数えてみたものが以下の画像です。

岸田首相:141回
菅前首相:122回
安倍元首相:116回(注:日本テレビ調べ)

回数で見ると、岸田首相が一番多いことがわかります。

ただ、どの首相も1年間の間に100回以上は対応しており、その年に北朝鮮のミサイルが多く飛んだり、地震などの有事が多かったりすると対応回数も増える傾向にあります。

そのため、私たちはぶら下がりインタビューで首相が話した言葉の数、「文字数」を数えてみました。

岸田首相:14万2670文字
菅前首相:7万6388文字
安倍元首相:4万3369文字(注:日本テレビ調べ)

岸田首相が多く、岸田首相の1回あたりのインタビューに答える中身は菅前首相のおよそ1.9倍。安倍元首相のおよそ3.3倍。つまりそれだけ長くインタビューに答えていたといえます。

短くても中身が濃い場合もありますが、文字数が多い=長く答えているのは岸田首相の「丁寧に答える」姿勢がうかがえるといえます。

首相周辺も「首相自身ができるだけわかりやすく伝えようと、真摯に答えようとしている」と話しています。

■「車座」の数で見る岸田首相の“力点”

私たちが岸田首相の「聞く力」を数値化する上で、もう一つ注目したのが「車座集会」です。

「車座集会」とは、テーマを設けて首相が国民と円になって座り、意見交換を行う場で、岸田首相自らも「車座対話を積み重ねる」と強調するなど、国民の声を聞く機会として重要視してきました。

そしてこの車座ですが、2年間で少なくとも46回実施されました。その内訳を見ると、去年は経済をテーマにした車座が多い一方、今年は子育てが多くなっており、子育て政策に力を入れていたことがうかがえます。

■「話を聞いてくれている印象」 “聞く姿勢”は全員が評価

では、この車座に参加した方々は、岸田首相が「聞く力を発揮した」と感じているのでしょうか? 意見を聞かれた人がどう感じているか知るため、私たちは「子育て」の車座に絞り、参加者から直接話を聞きました。

「子育て」関連の車座は10回。参加した人数は50名以上。私たちはそのうち13名から話を聞きました。

まず、首相の印象や聞く姿勢について「首相は目を見てノートをとりながら話を聞いてくれた」「予定よりも時間を長く取ってくれた」などの声があり、話を聞いた全員が、「しっかりと話を聞いてくれている印象だった」と話していました。

また、肝心の「聞く力」はどうだったのかを知るため、車座での内容が実際に政策に反映されたのか、課題が改善された実感があるかを聞きました。

経済的困難を抱える子どもたちの支援をしている参加者は、「首相に積極的な公的支援をお願いしたところ、予算が増額され、官庁に担当部署が新設された」と話し、とても感謝していました。

■「訴えたのに…」車座参加者のホンネ

一方で、こんな意見もありました。

岸田首相は、親が働いているかどうかを問わず時間単位で保育園などを利用できる「こども誰でも通園制度」を、政府の子育て支援政策の目玉の一つとして打ち出しています。

これについて、車座に参加したある保育士は「保育士の人材不足を車座で訴えたのに、誰でも通園になると人手不足に 拍車がかかるのでとても不安。まずは車座で訴えた課題を解決してほしい」と厳しく指摘しました。

車座での訴えが届いていないと感じている声があがっていることについて、首相周辺は「処遇改善やキャリアアップの仕組み作りは進めている」と強調しています。

■専門家「聞いたことをどう活かしたのか説明しないと不安感」

ここまで報道対応と車座で岸田首相の「聞く力」を分析してきましたが、この分析からわかることは何なのでしょうか?

政治学が専門の東京大学の牧原出教授は、「いろいろな物にアンテナを張り、聞こうとはしているが、聞いたものの中で岸田首相がどこに深く共感し実行に移そうとしているのかが国民には伝わってこない。聞いたことをどう活かしたのか説明しないと不安感が残る」と、3年目の課題を強調していました。

また、岸田首相と極めて近い関係にある自民党の閣僚経験者は「手段ばっかり説明せず目的を説明したほうがよい」と指摘しています。

■3年目の岸田政権

岸田首相の「聞く力」に加え「決断し実行する力」がどう発揮されていくのか。自分の都合の良い声だけに「聞く力」を発揮していないか、また「決断し実行する力」がどれだけ国民の切実な声を反映しているのか。3年目の岸田政権をしっかりウォッチしていく必要があります。