石破首相の所信表明…「隠された」3つのメッセージ
臨時国会がスタートし、石破首相は所信表明演説を行った。国会での基本方針を示す演説に隠された「3つのメッセージ」について解説する。
■メッセージ(1)…ターゲットは「国民民主」 演説でラブコール
所信表明で明確に打ち出したのは、「年収103万円の壁」の見直しだった。ある政府関係者は、「国民民主と一緒に、国会運営を乗り越えるためのラブコールだ」と話す。石破首相が本会議場で「壁の見直し」を表明した時、議場で国民民主の玉木代表は深く頷いていた。さらに演説で石破首相は、国民民主がこだわるガソリン減税をめぐっても「自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得る」との文言を盛り込んだ。
少数与党で厳しい国会運営が必至の中、石破首相は国民民主党の協力を得ることにターゲットを絞り、難局を乗り越えたい狙いだ。
■メッセージ(2)…「どうにか反転攻勢を」新たな石破カラー模索
前回の所信表明演説と同様「アジア版NATO」「日米地位協定の見直し」など、石破カラーは今回も封印された。「まずは政権基盤を固めてからではないと、取り組めないテーマだ」(政権幹部)としている。
封印されるテーマがある中で、演説で石破首相は「治安・防災」を1つの柱に掲げ、持論である防災庁の設置を改めて打ち出した、避難所の環境改善への取り組み、災害関連死を防ぐための政策に力を入れる考えを強調した。一方で、特に「子育て政策など、社会保障政策で具体的な打ち出しが乏しい」(現役閣僚)との声も出ている。「人口減少の中で、現役世代の負担を軽減し、意欲のある高齢者の就労を促進し、全世代型の社会保障を構築する」としたものの、実現に向けた具体策は示されていない。
ある政府関係者は、「年内は103万円の壁など税制改正議論と、政治改革でていっぱい。社会保障政策については項目として並べた。新たな打ち出しは年明けに打ち出すというメッセージだ」と指摘。別の政府関係者は、「今は『防戦一方』の中、早く新しい政策アジェンダを設定し『反転攻勢』を狙いたい」と話している。
■メッセージ(3)…石破首相の誕生日に政権運営のカギが?
所信表明演説で石破首相は、第55代内閣総理大臣、石橋湛山の言葉を引用した。「常時率直に意見を交わす慣行を作り、相互に協力を惜しまない」との一節を紹介し、石破首相は「他党に丁寧に意見を聞き、幅広い合意形成が図れるよう、真摯に、謙虚に取り組む」と強調した。
石破首相が紹介した、石橋氏の国会での施政方針演説が行われたのは、1957年2月4日。実は、この日は石破茂首相の誕生日でもある。政府関係者は「国会運営を政治家としての原点に戻って取り組む意思表示だろう」と指摘。石破首相は周辺に「一方が得をする、損をするということでなく、お互いが支え合うという精神が大事だ」と語っている。
この言葉は野党にどこまで響くのか。終了後、立憲民主党の野田代表は「石橋湛山の言葉は残ったけど、石破首相の言葉は残らない。石橋と石破じゃ、えらい差」と切り捨てた。
湛山は同じ施政方針で「新しい局面に対処する積極的な政策を推進し、国民が希望を持ち得る政治を行いたい」と話している。石破首相には、少数与党の国会で野党の意見を丁寧に聞くと同時に「国民が希望をもてる議論」を期待したい。