「異例ずくめ」の日米首脳会談…同行記者が見た裏側
今回の石破首相のアメリカ出張は1泊3日。しかも、滞在時間が約24時間なのに対し、フライト時間は約25時間という、「滞在」より「移動」の方が長い「弾丸出張」となった。勉強会を繰り返し「対トランプ戦略」を練りに練って臨んだ首脳会談。果たして成功だったのか?失敗だったのか?同行記者が解説する。(日本テレビ政治部官邸キャップ 平本典昭)
■“ほぼ”全面公開…「異例ずくめ」の日米首脳会談
現地時間7日午前11時54分、日米首脳会談がホワイトハウスでスタートした。
トランプ大統領「安倍昭恵夫人から素晴らしい人だと聞いている」
石破首相「大統領選で銃撃された写真は、歴史的な写真になる」
互いに褒め合う挨拶から始まった会談。予定されていた会談時間は「30分間」だった。
普段、日本で取材をしていると会談が30分の場合はメディアに公開されるのは、冒頭の2、3分だけ。しかし、この日両者はカメラの前で話し続けた。
石破首相が「日本の対米投資額は世界一だ」と言えば、トランプ大統領は「投資は素晴らしいが、貿易赤字は解消しなくてはいけない」。続いて石破首相は「いすゞ(自動車)が新たにアメリカで工場を作る」と表明。このあたりで日本側の同席者は「メディアを外に出して」とスタッフにサインを送るが、トランプ大統領はお構いなし。メディアの質問に答える形で、日本への関税は「選択肢としてある」などと踏み込んだ。
トランプ大統領の真横で取材していた私も、「どこまでカメラ前で話すのだろう…」との思いがよぎる。終わってみれば、メディアに公開された時間は「20分」を超えた。首脳会談の大半が“メディア公開”となる「異例中の異例」の首脳会談となった。
ある外務省幹部は「余りにメディア公開の時間が長すぎて、いすゞ(自動車)の話などは本来はカメラが出たあとに話す予定だったが、首相も仕方なくカメラ前での表明になったのだろう」。別の外務省関係者は「カメラがなかなか出ないので、石破首相はクローズの場で話す予定だったネタを仕方なく話さざるを得なかった」と、その「異例さ」を語った。
■共同会見も「異例」の“トランプ劇場”…石破首相への“気遣い”も
「異例」は首脳会談だけでなく「共同会見」でも見られた。
首脳の共同会見は、冒頭部分はそれぞれの首脳が、それぞれの国のメディアを指名するケースが多い。しかし、この日記者の「指名権」は司会であるトランプ大統領の手に全て委ねられた。終わってみれば、トランプ氏が指名したのはほとんどがアメリカメディア。日本メディアが指名されたのは2社のみだった。
会見で感じたのは、トランプ大統領の石破首相への“気遣い”だ。トランプ大統領の就任後初の首脳会談の相手はイスラエルのネタニヤフ首相。その時と比較すると、まずトランプ大統領は冒頭、石破首相に記念の写真をプレゼント。これまでにない、演出だった。
また、アメリカメディアの質問に石破首相が「仮定の質問には答えられない、それが日本の国会答弁です」とかわすと、すかさずトランプ大統領が「これは、賢い回答だ」と首相を持ち上げ、会場は笑いに包まれた。さらに、会見で「石破首相に質問は?」と繰り返すなど、トランプ大統領の石破首相への気遣いが垣間見えた。
■どう見た?日米首脳会談と共同会見…成功?失敗?
初の首脳会談は成功だったのか?失敗だったのか?
「トランプ大統領が石破首相を気遣ってくれていたのが印象的だった。とてもよい雰囲気だった」(外務省幹部)
「笑い声も出る、和やかな雰囲気だった」(政府高官)
「共同会見からも、2人の距離が近づいたのを感じた」(首相周辺)
取材すると、日本政府関係者の多くが手応えを感じていた。一方で。
「あれだけ石破首相が『お土産外交』をすれば、感謝されないほうがおかしい」(野党幹部)
といった声も聞かれた。
今回の会談では改めて、トランプ大統領が貿易赤字の問題、関税の問題、USスチールの問題などで懸念を持っている事が明らかになった。アメリカとの交渉は今後も続くことになる。
■トランプ大統領との会談を終え…石破首相「やっと一山越えた」
会談と記者会見が終わり、首相も政府専用機で帰路についた。ほっと一息をついた首相は「やっと一山越えた」(首相周辺)と話し、専用機に乗り込んだという。これから、帰りの15時間のフライト。日本に戻れば、少数与党国会での予算審議という「もう一山」が首相を待っている。