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「戦場の女神」自衛隊主力火砲の威力を記者が目撃

2023年10月24日 20:00
「戦場の女神」自衛隊主力火砲の威力を記者が目撃

自衛隊の主力火砲である155ミリりゅう弾砲、射撃の様子が報道陣に公開された。
富士山の裾野に広がる自衛隊の東富士演習場。広さは88平方キロメートル余りで、本州の演習場の中では最大となる。
報道陣の前に並ぶのが155ミリりゅう弾砲、FH70だ。

火砲とはいわゆる「大砲」などのこと。遠方から攻撃することが可能で、地上部隊を窮地から救うことから「戦場の女神」「戦場の神」などと呼ばれる。なかでも155ミリりゅう弾砲は自衛隊のみならず各国の部隊でも用いられるオーソドックスな火砲だ。

報道陣は、「射弾下掩ぺい部」と呼ばれるコンクリート製の建物に案内され、防弾ガラス越しに砲撃の威力を見学することとなった。

今回の訓練では、約3キロに離れた場所に配置された複数の火砲から発射する。

砲撃には2通りあり、ひとつは着弾の直前に相手部隊の上空で炸裂させる時限式の「曳火(えいか)射撃」だ。半径数十メートルにわたり、頭上から砲弾が金属片となって降り注ぐため、姿勢を低くしたり、塹壕などに隠れた敵にも損害を与えることができるという。

もうひとつが「着発(ちゃくはつ)射撃」。着弾と同時に爆発し、建物や車両などに大きな損害を与える。

射撃は、ターゲットの上空で爆発する「曳火射撃」からスタートした。発射の合図があり10秒ほどたつと、シュッと空気を切るような音がする。すると、「弾着、いま!」というアナウンスとともに、ドドドと足元を揺らすような轟音が響き、敵陣地に見立てた前方の斜面の上空に5つのオレンジ色の光が上がった。

続いて、着弾してから爆発する「着発射撃」が始まった。ドーンという音とともに、地面から黒煙があがっていく。防弾ガラス越しにカメラを構えていると、パチパチと小さく音がした。

見ると、衝撃で吹き飛ばされた土のかけらだろうか、小さな粒がガラスに跳ね返っていた。建物から砲撃を受けるエリアまではおよそ200メートル。改めて砲撃のすさまじい威力を感じた。

一連の射撃訓練が終わり、今後は砲弾が落ちたエリアを見学した。斜面には、直径2メートルほどのクレーターのような穴が点在しており、それらは砲撃によってできたものだという。その周りには、無数の金属片が散らばっていた。砲弾の破片である。

そのエリアには人間の上半身に見立てた模型が置かれていたが、肩のところから真っ二つに裂けていた。模型はゼラチンでできており、堅さは人間と同じだという。「生身の人間だったら、よほど素速く処置しない限り、死んでいるでしょうね」と案内してくれた自衛官は言った。

そばに置いていたマネキンも、ひじの辺りに破片が貫通して穴が空いていた。思わず振り返って、火砲が配置されている方向に目をやるも、肉眼では見えない。もし、なにかの伝達ミスがあって、いま、砲撃が始まったら…と思うと、寒気がした。

続いて、90式戦車への体験搭乗も行われた。制式化されたのが1990年であることから、90式と呼ばれる。

自衛隊の最新戦車は2010年に制式化された10式戦車であり、1世代前の戦車とはなるが、いまなお北海道を中心に現役で活用されている。戦車の製造には、多大なコストがかかる、「耐用年数が過ぎるなどそれぞれの個体が用途廃止されるタイミングで、90式から10式に入れ替えていく長期的な計画」なのだという。

最高時速はおよそ70キロ。体験搭乗では、時速40キロほどで走行したが、その機動的な動きはさながら大型自動車のようで、「戦車は『車』だったのか」と当たり前のことに驚いた。

なお、運転には自衛隊内部の特殊な資格に加え、「大型特殊自動車」の運転免許がいるそうだ。

90式は10式に比べて、射撃の照準の合わせ方や戦車同士の情報共有の仕方がアナログだというが、案内してくれた自衛官は「その分、乗り手の腕が試される」と愛おしむように90式を見つめていて、戦車は乗り手がいて初めて動くことを改めて感じさせられた瞬間だった。