なぜ?企業・団体献金“先送り”「少数与党国会」の新たな姿
石破政権にとって臨時国会の大きな関門だった政治資金規正法の再改正は、一応の決着をみた。焦点だった「政策活動費」は全面禁止の一方、立憲が強く求めた「企業・団体献金の禁止」は事実上の“先送り”に。少数与党国会の与野党攻防の舞台裏から見えた、国会の新たな景色について解説する。
■①少数与党国会の「現実」…与党が野党案を“丸のみ”
与野党から9本もの法案が提出された政治改革特別委。少数与党の国会で、当初は「どの法案も過半数を得られない」異常事態からのスタートとなった。総選挙の敗北を受け、政治の信頼回復に向け「年内改正」を目標に掲げた石破政権にとって、結果を出すため残された選択肢は、野党案の“丸のみ”しかなかった。
当初自民党は、政党から支出される「政策活動費」のうち外交関連など機密性が高いものについては「例外規定」を設ける案を検討。野党の猛反発を受ける中、決断を迫られた自民党執行部は、ひそかに15日の日曜夜に赤坂・衆議院宿舎の一室に集まった。メンバーは森山幹事長、渡海政治改革本部長、そして石破首相。この場で石破首相は当初、政活費の例外規定について「なんとか残せないか」と主張したという。しかし、その場で「採決すれば、否決される」という現場からの報告を受け、議論の結果、“丸のみ”の決断に至ったという。政活費の「完全廃止」が決まった瞬間だった。
自民党の派閥の裏金事件に端を発した、今回の政治改革の議論。当初は再発防止に向けて「パーティー券購入者の公開基準」「派閥解消」などに議論が集中し、自民党内では「政策活動費は別」「手をつけない」という声も強かったが、10月の総選挙の敗北で風向きが変わった。ある自民党議員は「政活費は廃止しないよう粘っていたのに少数与党で“あっさり”廃止が決まった」と振り返った。
■②政活費廃止は「あっさり」、企業・団体献金は「意外にも…」
政活費廃止は“あっさり”決まった一方、自民党が強い覚悟で譲らなかったのが「企業・団体献金の禁止」だ。野党側は、企業・団体献金が自民党に多く集まっている「自民党の力の源泉」(立憲幹部)として、禁止を強く主張した。議論が本格化する前、ある現役閣僚の1人は「野党に強く言われたら、少数与党の中では禁止に追い込まれるだろう」と話していた。
しかし、自民党は早い段階から「禁止ではなく公開」との立場を決めた。ある自民党幹部は「企業・団体献金がなくなるときは、自民党が滅びるときだ」と強調。首相自身も当初、“上限規制”など含めた姿勢だったが、国会論戦に臨むにあたり「企業・団体献金は何も悪いところはない、徹底して必要だと主張する」(自民党幹部)との党内の声に押され、首相自身も「必要性」を繰り返し訴えた。
強気で押す自民党に対して、立憲には“逆風”も吹いた。立憲案の禁止にあたって「政治団体を除く」との文言に対し「立憲を支える労働組合からの献金の抜け穴」だとの批判が集中した。立憲は説明に追われたが、「説明すればするほど、抜け穴を隠すように世論から見られた」(立憲幹部)と守勢に追い込まれた。結果、「今年度内に結論を得る」と、事実上の“先送り”となった。
ある現役閣僚の1人は「禁止に追い込まれると思ったけど、意外と持ちこたえた」と指摘。立憲幹部は「禁止に追い込めたはずが、戦略ミスが目立った」と振り返った。
■③与野党共に問われた…「戦略」「政策力」「覚悟」
少数与党国会で、政治とカネの議論は大きく動いた。これまで「ブラックボックス」との批判が出ながらも、自民党が守り続けてきた「政策活動費」は、選挙で得た民意をバックに、野党側が追い込む形で「廃止」に至った。野党側の大きな成果と言えよう。
一方、企業・団体献金をめぐる議論では自民党の「禁止しないという覚悟の強さ」(野党幹部)が勝ったともいえる。ある立憲幹部は「説明が甘く、攻められる隙を与えてしまった」別の政府関係者も「自民の『企業・団体献金の何が悪い?』という『開き直り』に説得力があった。理屈ではない、勢いで勝った」とも分析していた。
野党側は「密室でなく、国会で議論して決めるべき」と主張した少数与党国会。これまでと違い、野党側の意見が取り入れられる形で法案修正が多く行われる「新たな姿」が目立った。同時に、与党だけでなく野党にも「攻めるだけでなく、自らの案を説明する能力」が問われる国会ともなった。
与野党共に「戦略」「政策力」「覚悟」が問われる場面が増えた「新しい姿」の国会審議で、わたしたち有権者はどちらの主張に説得力があるか冷静に見極めていく必要があるだろう。
(政治部官邸キャップ 平本典昭)