【解説】ロシア「安全操業」協定の停止を発表…影響は? 「制裁で協力金が…」他の協定にも懸念
ロシア外務省が、北方四島周辺で日本の漁船が安全に操業するための協定を、一方的に「停止する」と発表しました。日本の食に欠かせないタラなどへの影響はあるのでしょうか。
「ロシアが“一方的”に停止…協定とは?」
「様々な食品に『タラ』」
「日本の“食”への影響は?」
以上の3つのポイントについて詳しく解説します。
ロシア外務省は7日、北方四島周辺で日本の漁船が「安全操業」をすることを認めた漁業協定を「一時停止する」と発表しました。
この協定には「スケトウダラ」など、私たちの食卓でもなじみの魚介類が含まれています。こうした魚をとる日本の漁船が、北方領土周辺でロシア側に「だ捕」、つまり捕らえられたりすることを防ぐために、1998年から協定が結ばれています。見返りとして、日本側からはロシアに対して協力金などを支払っており、今年は4240万円で妥結しています。
去年末に一旦、妥結したものをロシア側が「停止する」と言いだしたわけですが、これに対して、松野官房長官は8日、「このような形で、一方的に協定の履行の停止を発表したことは遺憾。まず第一に、漁業関係者のみなさまの操業の安全を確保するために、全力を尽くしたい」と述べました。
北方領土周辺でとれる魚介類は、例えば主なものでもサケ、マス、コンブ、サンマ、スルメイカ、スケトウダラ、ホッケ、タコといった種類があります。こうした魚介類を漁師たちがとるために、日本とロシアの間では4つの漁業協定が結ばれています。
サケ、マスは「日ロさけ・ます漁業交渉」
コンブは「貝殻島昆布協定」
サンマ、スルメイカなどは「日ロ地先沖合漁業交渉」
スケトウダラ、ホッケ、タコなどは「安全操業協定」
これまで日本は、これら4つの漁業協定でロシア側に「協力金」を支払ってきましたが、今回、ロシアが一方的に「停止」と伝えてきたのは、「安全操業協定」です。
その影響について、注目したいのが「スケトウダラ」です。北海道などでは「スケソウダラ」とも呼ばれ、世界的にポピュラーな魚類の1つです。日本では漁獲量5位(去年)、白身魚の中では1位となっており、ほとんどの日本人が一年に一度は口にしていると言っても過言ではないポピュラーな魚です。
あくまで一般的な話ですが、私たちはスケトウダラを「かまぼこ」や「魚肉ソーセージ」などすり身、卵巣は「たらこ」や「めんたいこ」として、さらに、ファストフードの“フィッシュバーガー”などの「フライ」といった形で食べています。変わったところでは、駄菓子の「カツ」や魚肉シート、また、かにかまにも使われています。
とても身近な魚ですが、今回の協定停止で私たちの食卓に影響はあるのか、日本の水産ねり製品業者をまとめる、日本かまぼこ協会に影響を伺いました。日本の業者の多くは、加工品の原料となるスケトウダラをアメリカや東南アジアから輸入しているということで、今回の措置による影響は「ほとんどないと言っていいと思う」と話していました。
ただ、問題はそれだけではありません。
今回、ロシアが「安全操業協定」を一時停止すると一方的に伝えてきた「理由」について、ロシア外務省は「サハリン州との協力事業」を遅らせ「日本側が協定に基づく支払いを凍結している」からだと主張しています。
これに対して、日本の松野官房長官は「両者を結びつけ、一方的に協定の停止を主張している」としていて、2つの話は別だとしています。ロシア側と日本側の主張は食い違っています
いま一番困っていることは、ロシアへの「漁業協定」の協力金の支払いができなくなっていることだといいます。というのも、日本政府がロシアへの制裁の一環で、世界の銀行の決済システム「SWIFT」からロシアの特定の銀行を排除した影響で、日本からの送金ルートが断たれているということです。実際、原口さんの漁協でも、今年3月に支払うべき協力金をまだ支払えていないといいます。
こうした協定は毎年の交渉をして更新していますが、このまま支払いが滞ったままだと、今年秋に行われる次回の交渉がうまくいかなくなる恐れがあるということです。
つまり、現時点では、ロシア側は4つの協定の1つである「安全操業」について「停止」と言っていますが、もしこのまま送金ができない状況が続けば、他の3つの協定についても今後、「更新できない恐れがある」ということです。そうなると、北海道を中心とする漁業関係者がこの海域に船を出せなくなるなど、大きな影響が出てくる可能性もあるとみられています。
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ウクライナ侵攻を受けて、国際社会は一致してロシアへの経済制裁に踏み切りました。ロシアへの圧力を緩めずに日本の漁業関係者の生活と安全を守るためにはどうすればいいのか、政府には難しいかじ取りが求められています。
(2022年6月8日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)