野田聖子氏×医療的ケア児の親リモート対談
人工呼吸器の着用などを必要とする「医療的ケア児」。学校に通うには看護師などのサポートが必要だが、自治体によっては人員を確保できず、通学が制限されている子どももいる。住む地域によって“支援の格差”があるのが現状だ。
こうした格差の解消に向け、超党派の議員たちが来月にも国会に法案を提出する。
その内のひとりで、自らも小学5年生の医療的ケア児を育てている自民党の野田聖子幹事長代行が、医療的ケア児の母親らと意見交換を行った。
○秋山未来さん(茨城県在住)
4歳の息子は先天性ミオパチーという筋肉の病気を抱え、人工呼吸器を着用する。2018年、医療的ケア児などを預かるデイサービスと保護者向け就労支援施設を立ち上げる。
○小島敬子さん(東京都在住)
小学3年生の娘は、重度心身障害児で人工呼吸器を着用し、特別支援学校に通う。フリーランスの通訳として働くが、娘の通学に終日付き添っていて、仕事を制限せざるを得ない。
○渡辺千里さん(山形県在住)
小学6年生の娘は、染色体の異常であるチャージ症候群を抱え、特別支援学校に通う。兄弟との時間をとるためにも娘を預けたいが、地域にあまり預け先がない。
■「息子には選択肢がありません」
○秋山さん
「息子のように重度心身障害児になると、自治体から当たり前のように「特別支援学校に入学してください」と言われます。普通学校という選択肢がまったくないんです。家族の状況と本人の希望を含めて、選べる環境がほしいなと思います」
■「住む場所によって大きな格差がある」
○野田議員
「大阪府豊中市は、どんなに重い障害の子でも、『自分の地域の学校に行きたい』と望めば通うことができます。残念ながら、医療的ケアだけでなく、障害すべてにおいて、熱心な自治体とそうでない自治体での格差が非常に大きい。住む場所によって差が出てきてしまっているというのが、いま問題になっています。どこに生まれて暮らしていても、同じ教育が受けられるような環境をつくるというのが私たちの願い。その前提となる法案を、いまの国会に提出します」
■「学校に終日付き添っています」
○小島さん
「小学校では『人工呼吸器がついているお子さんは親御さんが付き添ってください』と言われています。最初の1年は、同じ教室で毎日授業参観をするような状態でした。学年が上がるにつれて、徐々に離れてもよいことになってきていますが、今でも私が終日校内に待機しています。もし私が会社員だったら、とっくに離職せざるを得なくなっていただろうと思います」
■「車で1時間半の施設に預けています」
○渡辺さん
「地域にあまり預け先がなく、長期休みは山形市まで通っているんですが、車で片道1時間半かかります。『そこまで遠いと使いたくても使えない』という方が地域にもたくさんいますし、人数にも制限があるので望む日に行けないこともあります。そういった施設がもうちょっと充実してほしいなと思います」
■“医療的ケア児支援法案”に期待すること
○秋山さん
「今回の法案で、今までなかった理念が掲げられることで、これまで『前例がないから』と自治体に断られていた子たちも、思いを伝えやすくなったかなと思います。ただ、『そうはいっても人材がいないんだ』という現実もあるので、国をあげて看護師や保育士の層を厚くしてもらう必要があると思います」
■やまゆり園で事件が起きて…母の心を救った言葉
○小島さん
「昔からずっと、支援をお願いするのが申し訳ないという気持ちがありました。こういう子どもの支援には人手も必要だし、税金も投入していただかなければいけない。いつも肩身が狭い思いをしています。2016年に、相模原の障害者施設で殺傷事件が起きましたね。私は正直言って、植松聖死刑囚の主張に反論できませんでした。いまでもその答えは見つかっていないんですが、ある言葉ですごく救われたんです。『難病や障害を抱える人は、社会が克服すべき課題を示してくれる存在。難病や障害を克服するときに、社会の技術や制度は進化する。難病や障害を抱えた人が人生を謳歌できる社会はもっとも進化した社会だ』。島根大学で機械・電子工学を専門とされている伊藤史人先生の言葉です。いま策定されつつある法案は、どんな人もひとり残らず取りこぼさない社会を目指すものだと思うんですね。私の娘は、そんな法律がつくられる国に生まれて幸せだなと思っています」
■「親亡きあとを考えるのが怖い」
○渡辺さん
「親亡きあとっていうことを、最初は怖すぎて考えたくなくて。学校を卒業したあとも、本人が過ごしやすい環境で過ごすことが可能になってほしいと思います。うちは兄弟もいますので、兄弟が自分の人生を歩みながら、医療的ケア児本人が生きていける場が充実してほしいです」
○野田議員
「いま渡辺さんが抱えている問題は、私も直面している問題。親亡きあとというのも、ここにいる誰よりも私が一番切実なんです。50歳で産んだから、早く考えておかないと…」
■野田議員が新法で変えたいこと
○野田議員
「今回の法案のタイトルには、医療的ケア児と“家族”が含まれています。本人と家族の両方をパッケージで支援するということ。医療的ケア“児”と書いてあるけれど、成人後も人生を支えていくということも、しっかり盛り込みました。それから、医療的ケア児を見守るのは看護師でないとダメ、となっている現状を変えないといけない。厚生労働省も、本当はそうじゃないと言っているんです。今回の法案では、自治体に介護福祉士やヘルパーも受け入れるようにと促しています」
■母親たちへのメッセージ
○野田議員
「私も、やまゆり園で事件が起きたときはすごくショックを受けました。私がいなくなったら、この子は誰かに殺されちゃうかもしれないと思ったこともあります。そのときにいろんな資料を読んで、障害を持っているからといって必ずしも社会の大きな負担になっているわけではないと知りました。健常といわれている人たちも、学校や道路など、インフラをたくさん使っているんですから。ひとりでも多くの子どもたちがいてくれることが、この国の豊かさや富につながると思います。負荷がかかればかかるだけ、小さな幸せが大きくなるんですよ。わずか2万人といわれる医療的ケア児の親だけど、これから私たちがいろんな色をつけていきましょう」