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【解説】防衛財源めぐり自民・特命委が初会合 萩生田氏「2項対立ではない」“トーンダウン”のワケは?

2023年1月19日 21:56
【解説】防衛財源めぐり自民・特命委が初会合 萩生田氏「2項対立ではない」“トーンダウン”のワケは?

防衛費増額の財源を議論する、自民党の特命委員会の初会合が19日に開催された。トップを務める萩生田政調会長は「自民党の中で対立しているのではなく、建設的な議論をする」と強調した。トーンダウンとも取れる発言の背景は?

■萩生田氏「安倍派が増税反対みたいな話じゃない」

19日午後から行われた、自民党の防衛関係費の財源検討に関する特命委員会。約60人が出席する会合の締めくくりに、委員長を務める萩生田政調会長は、こう述べた。

「2項対立ではない。自民党の中で何かこれを巡って対立しているのではなくて、しっかりと建設的な議論をして、有権者の方々に、自民党、そして政府の考え方をしっかりと説明できるように、特命委員会でこれから議論を進めていこう」

萩生田氏はこの2時間ほど前に行われた自民党・安倍派の幹部会合でも「マスコミで言われているような安倍派が増税反対みたいな話ではない。防衛費増額の4兆円のうち、財政改革で捻出する3兆円がどういうふうに出されるかは全く聞いてない中で、税で1兆円まかなうことだけ決まった。その中身を検討しよう」などと強調したという。

■「ケンカを売っている」自民党と政府が“対立”?

そもそも、今回の特命委員会は、去年12月、防衛費増額をめぐり、岸田首相が1兆円超の増税検討を指示した際に、安倍派の議員を中心に、1週間で増税が決まったプロセスなどへの批判が相次いだことを受けて萩生田氏が立ち上げた会議だ。

唐突だという批判や不満を払拭し、さらには「増税による財源」のボリュームを少しでも減らすための議論の場とされてきた。

特命委員会で、萩生田政調会長や世耕参議院幹事長が議論することを検討していたのが、いわゆる国債の「60年償還ルール」の見直し。「60年償還ルール」とは、国債の一部を借り換えながら、60年間かけて安定的な返済を目指すというもの。見直し案では、60年の期間を延長したり、なくしたりすることで、国債の償還にあてる予算を財源にあてることが想定されていた。

しかし、こうした動きに対して、安倍派の松野官房長官が機先を制する。12日の記者会見で「財政に対する市場の信認を損ねかねない」などとして見直しに懸念を示したのだ。

政府関係者によると、国債の「60年償還ルール」は、日本独自のものではあるものの、他国には国債の対GDP比の比率を法律で決めるなどの“別のルール”があり、財務省内からは「60年償還ルール」の見直しが、財政規律を緩ませることにつながりかねない、との警戒感が出ていた。

こうした中、16日に開かれた特命委員会の幹部会では、出席者から「党内で議論をする前に政府が否定するのはケンカを売っている」と、政府側に詰め寄る場面もあったという。

一方、ある官邸関係者が「ケンカを売る・売らないは、低次元な話で、政府は前から言っているように防衛費増額を増税でやるという姿勢は変えていない」と語るなど、初会合の前から場外戦がヒートアップしていた。

■萩生田氏「2項対立ではない」 発言の背景は?

緊張感が高まる中、開かれた初会合で萩生田氏が「2項対立ではない」と強調したことは驚きを持って受けとめられた。

ある自民党幹部は萩生田氏のトーンダウンの背景について、こう解説する。

「初会合の前日に萩生田氏は岸田首相と官邸で会談したが、この時に岸田首相から政府の方針に従って議論をまとめるよう強い指示が出たようだ」

また、ある自民党議員は「財源として足りない分は5年後に決まっていればいい話なので急いで結論出さなくてもいいのではないか」と指摘する。

きょうの特命委員会で萩生田政調会長は「米国をはじめ、海外からも高く評価されている防衛力強化の取り組みが、絵に描いた餅にならないように、財源についても責任ある議論を行っていきたい」と力を込めた。ただ、前出とは別の自民党幹部は「ボールは萩生田氏サイドにある。どういう取りまとめをできるか、まずはお手並み拝見ということですよ」と淡々と語った。

今後、真に建設的な形で議論を集約できるのか。また、増税に頼らない新たな財源を見つけることができるのか、自らの肝いりで始めた特命委員会で萩生田氏の調整力が問われている。