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「違法ではありません。解釈論ですから単なる」 鳥取県の平井知事が打ち出したオンライン立会導入 知事はなぜ導入を検討したのか? 鳥取県の選挙実情を背景に考える

2024年2月10日 7:17
「違法ではありません。解釈論ですから単なる」 鳥取県の平井知事が打ち出したオンライン立会導入 知事はなぜ導入を検討したのか? 鳥取県の選挙実情を背景に考える

鳥取県 平井伸治 知事
「法律を改正したくないとか、自分の解釈論を守りたいとか。そのために『投票箱をそこに設置するな』というのであれば、それは民主主義に対する挑戦であると思います」

鳥取県の平井伸治知事が2月1日に開かれた記者会見で語気を強めました。いつもは冷静に、言葉を選びながら話す平井知事ですが、この日の言葉には、選挙制度改革に対する国の牛の歩みに対し、一石を投じる狙いがあったものとみられます。

問題となったのは、選挙の投票所の減少防止策として平井知事が打ち出した投票所でのオンライン立会の導入。鳥取県では2023年9月から12月にかけて「投票率低下防止等に向けた政治参画のあり方研究会」を計5回開き、県内自治体の首長や研究者などの意見を取り入れながら、投票率の低下を防ぐ手だてを検討してきました。オンライン立会の導入はこの中で出されたアイディアの1つでした。

■歯止めのかからない投票率低下

鳥取県 平井伸治 知事
「投票率がどんどん低下していきます。統一地方選でも残念ながら投票率の低下がみられました。この傾向に歯止めがかからない」

鳥取県では、2023年4月に実施された統一地方選挙の投票率が過去最低となりました。知事選挙の投票率は48.85%、県議会議員選挙は49.15%と共に5割を下回っています。有権者の半数が票を投じることを放棄している現状は、地方政治における民主主義の危機といっても過言ではありません。

全国平均では知事選の投票率は46.78%、議会選挙は41.85%で、鳥取県は全国平均よりも高い水準にあり、まだ“マシ”な状況ですが、高齢化や人口減少が都市部に比べ進んでいることを考えると今後、急激に落ち込む可能性は否定できません。過去の投票率を振り返ると、2004年の参院議員選挙の投票率は64.17%でしたが、2022年の参院選では48.93%まで下がっています。

■消えていく投票所とその原因

鳥取県の研究会で、投票率低下の原因の一つとして挙げられたのが、投票所の数の減少でした。

鳥取県 平井伸治 知事
「平成16年(2002年)に(県内自治体の)合併がありました。この大合併の後(投票所が)どんどん減っています」

平井知事は会見の中で、2002年の参院選では570か所設置されていた投票所が、2022年の参院選では361か所に減っていることを指摘しました。鳥取県では、2002年9月に東伯町と赤碕町が合併して琴浦町に。10月には羽合町に、泊村、東郷町の3町村が湯梨浜町。西伯町と会見町が南部町にそれぞれなりました。また11月には鳥取市、国府町、福部村、河原町、用瀬町、佐治村、気高町、鹿野町、青谷町の9市町村が大合併を行い、現在の鳥取市となっています。翌年の2003年にも県内で市町村合併が進みました。

合併に伴う広域化で、自治体の負担が増え、投票所の減少につながったという説明で、全国的にも見られる傾向です。ただ、投票所が減った主な要因は別にあるともう一歩踏み込んだ分析が示されました。

■問題の「投票立会人」とは?

鳥取県 平井伸治 知事
「分析をしてみますと、実は投票所には立会人という方がいらっしゃいます。これには公職選挙法の必置規制があるんです。全ての投票所にそれぞれ2人~5人の投票立会人を置かなければいけない。とにかくこういう法律があるのでそこにいなければならない、朝から晩までですね」

公職選挙法第38条では、「各選挙ごとに、選挙権を有する者の中から、本人の承諾を得て2人以上5人以下の投票立会人を選任」するということが定められていて、この立会人が確保できなければ、市町村は投票所を設置することができません。選挙に行った経験のある方はわかるかもしれませんが、投票箱の向こう側に座って投票に“立ち会っている”人のことです。公正な選挙を担保するため、不正行為を見張るという重要な役割ですが、本当に一日中、立ち会うだけの仕事です。

鳥取県 平井伸治 知事
「そこにいろと言われてもかなわんというのが、正直なところです。それで立会人をそろえられない事態になってきていて、例えば集落ごとに投票所を設置しようとすると、集落の中でそれだけの立会人にいていただかないといけない。これが実は全国で投票所を減らす要因になっています」

■過去には要件緩和もあった

この投票立会人、かつては「各投票区における選挙人名簿に登録された者」が選任の要件になっていました。例えば、選挙区をまたぐ隣町の住民は立会人にはなれなかったのです。しかし、これが立会人確保のネックとなり投票所設置を妨げていたため、市町村の選挙管理委員会から改正を求める声が上がりました。これを受け2019年5月に公選法が改正され、選任要件が「選挙権を有する者」に変わったことで、人員確保がやりやすくなったということです。

鳥取県 平井伸治 知事
「地方分権の提案の中で(立会人の)必置規制、これを地域の実情に合わせて変えてくれということを、このたび(国に対し)申し上げたいと思っていますし、仲間の県とも話を始めているところであります」

今回も地域の実情に合わせて、変更していく必要があるというのが平井知事の前提となる主張でした。

■オンライン立会は違法なのか?

総務省の見解では投票立会人は、「現に」投票所にいることが必要だということです。ただ、公選法のどこにもそれを定めた言葉は見当たりません。

鳥取県 平井伸治知事
「投票について立会人を2人~5人置くという風に書いてありますが、それがリアルでなければならないというのは解釈論であります」

2007年に鳥取県知事に就任する前は、総務省(旧自治省)で働いていた平井知事は、こうした問題のスペシャリストでもあります。オンライン立会の導入については、古巣の総務省とも折衝を重ねていたといいます。

鳥取県 平井伸治知事
「やはり本来、公職選挙法というのは住民や有権者の皆さまが投票権を行使することを、いかに促進するかに重点が置かれるべきであって、そのための解釈論でなければならないと思います」

会見では、公選法の趣旨をこう説明する一方、総務省の姿勢を批判しました。

鳥取県 平井伸治知事
「何を取るかということです。投票箱をそこに置くことを取るのか、(官僚の)面子のために投票所の立会はリアルでなければいけないという解釈論を守り、『そこから投票箱を外せ』というのを取るのか。どっちを取るのかということです」

どちらの解釈論が正しいのか、簡単に判断することはできませんが、コロナ禍の投票所のあり方についての議論の中で、オンライン立会が検討されていた経緯もあります。こうした事情も踏まえ、平井知事は自らの主張の正当性に自信を見せました。

鳥取県 平井伸治知事
「これは訴訟になってもわれわれは勝てると思っています。違法ではありません。解釈論ですから単なる」

■新年度予算で早くも事業化

強い決意を見せる平井知事ですが、投票所の設置は、鳥取県ではなく、県内の市町村が行うことになっています。これについて平井知事は市町村のオンライン立会の導入の補助事業を2024年度当初予算に盛り込む考えを示しました。

鳥取県 平井伸治知事
「市町村でも採用していただけるのであれば、それを全面的に支援します。投票所を減らさないというのを条件に、実質10分の10でやってみてもいいんじゃないか」

これ以上、投票所を減らさないことを条件に事業費を全額、県が負担するという思い切った方針です。当初予算の成立は、2月21日から開かれる鳥取県議会で承認されるのを待つことになります。県議会でも、投票率の低下については繰り返し議論されていて、平井知事の提案にどういった姿勢で臨むのか注目されます。

2月8日に鳥取県に確認したところ、具体的にオンライン立会の導入を決めている県内の自治体はないものの、興味を示しているところはあるという回答を得ました。県内では、6月に智頭町長、7月に境港市長と江府町長、10月には南部町長と町議の選挙がそれぞれ予定されていて、場合によっては県議会議員の補欠選挙(鳥取市選挙区)や国政選挙が行われる可能性もあります。

■本当の狙いは?

鳥取県 平井伸治知事
「それぞれの地域において投票の公正さを担保するかという、工夫をすればいいわけでありまして、本来この必置規制が時代遅れになってきているということだと思います。現に鳥取県でも(このまま対策をしないと)次の投票所の削減が行われようとしている。我々はそれに対するソリューションを考えたい」

まずは目前の投票所の減少を食い止めるということですが、平井知事の主張からは、高齢化と人口減少で立ち行かなくなりつつある地方行政を、大きく変えなければならないという危機感がうかがえます。そして、既存の仕組みや考え方が足かせになるなら、徹底的に戦うぞという決意を改めて示したようにも見えます。

平井知事の投じた一石がどう波紋を広げていくのでしょうか。人口最少県の意地の見せ所かもしれません。

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