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【独自解説】フランスの総選挙は“驚き連発”の大ギャンブル⁉日本とは違う選挙の勝ち方 フランス「支持率が低いから解散」、日本「この支持率で解散は困る」 親子“絶縁”に与野党“連立”も…

2024年7月13日 20:00
【独自解説】フランスの総選挙は“驚き連発”の大ギャンブル⁉日本とは違う選挙の勝ち方 フランス「支持率が低いから解散」、日本「この支持率で解散は困る」 親子“絶縁”に与野党“連立”も…
フランス総選挙“大逆転”のウラ側

 日本では都知事選が大ニュースですが、世界ではフランスの選挙がTOPニュース。日本とは全く違う選挙手法とは?予想を覆した大逆転劇とは?日仏の政治手法について、「読売テレビ」特別解説委員・高岡達之の徹底解説です。

 急遽、フランスで解散総選挙が行われました。これから『パリ2024オリンピック』もあろうかというのに、その直前に解散してしまったのです。今回、フランスが選挙で見せた“政治の掟破りの数々”は、今後想定される日本の解散総選挙とも比較できますし、日本では無理だということもあります。結論を先に言いますと、「マクロン大統領は大ギャンブルに勝った」と言われていて、「勢いを維持した」というようなことも言われています。

 まず、日本とは違うのが、“いきなり解散総選挙”の理由です。フランスでは、「支持率が低いから解散します」と。これは、なかなか日本では聞けないセリフです。今回の解散総選挙の前に『欧州議会』の選挙があり、フランスも代表を出したんですが、結構マクロン大統領の支持者が負けました。ところが、その時にマクロン大統領は「この日を終えるにあたり、何事もなかったことにはできない」と言ったんです。日本の場合は逆で、「この支持率では、とてもじゃないけど総理に解散してもらっては困る」というのが永田町の多数の意見ですので、良い・悪いは別として、出発点がまず違います。「権力を維持するためには、先に解散だ」というのが、フランスの考え方なんでしょう。

 そして、今月から『パリ2024オリンピック』が始まります。日本で、今月からオリンピックが始まるという時に「選挙をやる」なんて言ったら、“殿、大丈夫ですか⁉”と。日本の場合は大体、オリンピックで空気が盛り上がった後に解散総選挙となるんですが、フランスはやるんです。そこも日本とは違います。

 2024年はヨーロッパで選挙が多く、フランスの選挙もそうですが、各国で“極端な右翼”が非常に議席を伸ばしていると言われています。日本の新聞社・テレビ局はフランス語を直接翻訳するので“極端な右翼”という表現になってしまうのですが、これは一体何なのか?

 まず、『右翼』『左翼』という言葉がありますが、これらはフランス発祥です。かつてフランスには王様がいて、王様の前に議会があるという時代がありました。その時に、王様から議会を見て、右側に座っている人たちが王様を支持していたので『右翼』、いわゆる日本で言う“保守派”です。そして、左側に座っている人たちは「王様、ちょっと考えましょうよ」と言う人が多かったので『左翼』となり、これが元々の『右翼』『左翼』の発祥です。

 その中で、“極右”とは誰のことでしょうか?王座から向かって一番右側に座っていた人…ではなく、ヨーロッパ各国の常識として、『ナチスドイツを肯定する』ということです。「いくら何でも保守を通り越している」という意味で、“極右”という言い方をします。

 今回のフランスの選挙でも、最初は“極右”と表現されている政党に勢いがある、というイメージでした。かつてマクロン大統領と大統領の位相を争ったルペンさんという方が党首を務めている政党が、今回もグッと伸びたわけです。

 ただ、『ナチスを肯定した』のはルペンさんのお父さんです。しかし、「これはさすがにヨーロッパ全土でウケません」と、今回は息を伸ばすために、ルペンさんは「父とその政治的信条とは絶縁します」と、家では仲の良い親子かもわかりませんが、表向きはそういうことになりました。これが、フランスでは“お父さんと袂を分かった”と驚きの一つになりました。日本でもそうですが、選挙で伸ばすには“驚き”がいるんです。

 そして、ルペンさんが「じゃあ私も党首の座を退くわ」と、代わりに選んできたのが“二枚目”の新党首・バルデラ党首。年齢が、なんと28歳です。東京で旋風を巻き起こしたといわれている石丸伸二さんが“超若手”と言われて41歳なので、フランス人でさえ驚くほどの若さをまず打ち出しました。

 フランスでもヨーロッパ全体でもそうですが、「アフリカや中東から逃れてきた人たちを受け入れたがために、自分たちの暮らしが大変だ」と移民に厳しくなる人たちを『右翼』と呼びます。しかし、バルデラ党首ご自身もイタリア系移民の息子です。ここでまず有権者には、「極端な主張じゃないじゃないか」というショックがあります。

 そして『自国民優先・移民政策厳格化』、ここです。「フランスは優しい国だ」と無条件で移民をバンバン入れていると仕事を取られますし、やはり事件も起きて、治安が悪化しています。あとは、ウクライナへお金をどんどんつぎ込んでいると。これは、日本でもよく言われます。総理が外遊された時に、「外国には気前が良いじゃないか!日本国内は大変なのに!」という批判がよく出ますが、そういうことも、この人たちは主張します。

 日本では“極右”と言われていますが、日本人の思う『右翼』のイメージと少し違うのは、やはり「穏やかな暮らしを守るんだ」というところです。私は、“極右”という言葉には少し違和感を覚えます。日本では、今のところ親子で引き継いでいる政党はありませんけど、「党首と絶縁しました」と言う党がありますか?という話です。主張が違うと、そこまでやってしまうということです。

 フランスの選挙は日本でいう衆議院ですが、2024年7月7日に投票があり、8日朝に決まりました。フランスは2回やります。全国で580ほどあり、日本と同じで、小選挙区で1人だけやります。1回目の投票は6月にあって、80弱ぐらいの議席があったそうですが、そこで過半数を取ってしまえば、それで投票は終わりです。過半数を取れないと、1~3番目ぐらいの人が決戦投票をやって、1人に絞ります。

 ところが、1回目の選挙の時は、日本で言うところの与党に当たるマクロン大統領の政党は人気がなく、3番目ぐらいになってしまいました。日本で言うところの野党に当たる『左派連合』が2番目で、このままだと“右翼系”の『国民連合』が勝ってしまうという危機感から、日本ではまずあり得ないことが起こりました。

 与党と野党が、「とにかくここには勝ちたい、ここは勝たせるわけにいかない」ということで話し合いをして、全然政策は違うと思いますが、勝つためだけに組んだんです。同じことを日本でやれば、主要なテレビ局や新聞社が「こんなの野合だ!勝つためだけで良いのか?」と社説に書くでしょうが、世界では評価されるんです。それで、マクロン大統領が大勝負に勝ったと。「既成政党・古い政党が新しい党の勢いを封じ込めるのに成功したことは、政治家の技量としては凄いではないか」みたいなニュースが、欧米から流れてくるわけです。ここは、日本と全然違うところです。

 では、日本はどうでしょうか。現状、『自民』『公明』が連立しています。例のお金の還元の話から、最近は『公明』も少し距離を置こうとしていますが、連立は維持しています。小泉進次郎元環境大臣は「今選挙をやったら、自民党は負けます」というようなことを言っていて、とにかく勝つために、総裁選で「岸田さんをどうしようか」という話になっています。フランスみたいに「もういっそ勝つためだけに野党と組もう」と、今回の都知事選では本来意見が合わないはずの『立憲』と『共産』が組みましたが、ある意味で裏目に出て、負けました。

 しかし、今度の解散総選挙の時には、『国民』ぐらいは『自民』側に入るという説もあります。日本の場合、「とにかく勝てば良い」ということには、どちらかというとメディアのほうからだと思いますが、「選挙後、そんなことで話が合うわけないではないか」という国民からの批判がすごいです。

 目の前の敵を倒す政治家が評価されるのか、あるいは後のことまで考える人が評価されるのか―東京の選挙もそうですが、フランスの選挙からも、我々いろいろと考えるところがあるわけです。(「読売テレビ」特別解説委員・高岡達之)

(「かんさい情報ネットten.」2024年7月8日放送)

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