すい臓がん公表 日テレ菅谷アナ 働きながらの闘病語る
日本テレビの菅谷大介アナウンサー(50)が、今年1月「すい臓がん」が見つかり、手術していたことを公表。「すい臓がん」という病気と闘いながらアナウンサーとして働くこと、この経験を“伝える”ことへの思いを、同僚の岩本乃蒼アナウンサーが聞きました。
■がんと闘いながら働き続ける 週1回抗がん剤治療を受けながら、番組出演
――抗がん剤治療中も、出社して仕事をしていましたよね。
手術の前に抗がん剤治療を週に1度、受けていたんですが、翌日はしゃっくりが止まらなくなり、発熱、便秘などやはり副作用があったので、代わってもらった仕事もあります。
不安もありましたが、治療を重ねるにつれリズムが分かってきて、体調が悪くなりそうな時は在宅勤務に切り替えるなど対応していきました。
治療中にもいろんな業務をしていたんですよ。管理職として後輩アナウンサーの面談をしたり、ドラマ「真犯人フラグ」のアナウンサー役の撮影もあったり、土曜夕方のニュース「every.サタデー」も担当したりしました。
――手術で入院してからは、どのように過ごしていたのですか。
手術の終わった日、ICUの病室でテレビを見ていたんです。月曜だったので「news every.」を見て、「世界まる見え」も、「しゃべくり」も見ていたら……さすがに寝なきゃと思って(笑)。
テレビは僕にとって『情報を知る、楽しむもの』としてと、『同僚の働きぶりをみる親近感のあるもの』の2つの意味があるなぁと思いました。自分もそこに戻るぞ、と思いながら見ていました。
――テレビの中の私たちの存在が、少しでも復帰への活力になっていたと聞いてうれしいです。退院まではどのような経過だったんですか。
手術翌日、歩いてみたら、本当にゆっくりとしか歩けない。看護師さんが見守るなか、歩行器にカラダを預けながらしか歩けなかったので「ああ、こんな状況になったのか……」とショックでした。
立ち上がるだけで各部に痛みがあって、手で押さえながらゆっくり歩く。体重計に乗って、病室に帰ってきて……それだけで精いっぱい。全部支えてもらう必要があって、これが現状なんだと思った。ただ、そこから1週間ほどで退院しているんです。
――その状況から1週間で退院なんですね!
僕の受けた腹腔鏡手術の場合、そのくらいのこともあるようです。僕自身も驚きました。
先生方に聞いてみると、どんどん医療技術も進歩しているんだそうです。術後すぐは、わずかな距離しか歩けなかったのが、いまや会社に通って生活できている。ここまで回復するんだなぁって思います。
――しかも驚いたのが、退院後、その足で会社に来ていましたよね?
うん、驚かせてみようかなと思って(笑) 。
実際、「ここまで回復できたんだよ」っていうことを、早くちゃんと伝えたかった思いがありました。すい臓がんって聞いた直後は夜も眠れない状況でしたけど、こうやって社会復帰して会社でも働けるってことも伝えたかったんです。
■診断後に全部員にメール 理解してくれた同僚たちの支え
――菅谷さんは診断後、病名や手術入院のスケジュールをアナウンス部全員にメールしましたよね。
みんなに伝えてよかったのは、交代しなきゃならない業務がなぜあるのかを理解してくれていたこと。理解があるから「代わってくれる?」と簡単に言えたことはありがたかったですね。
闘病中であることはアナウンス部員には伝えましたが、制作現場には伝えずに、何とか治療とバランスを取っていました。
――そのメールで「この経験を、伝えることができれば」と結んでいたのが印象に残っています。
実は、がんの告知をうけた1月11日に、アナウンス部長に病名とともに「僕はいつか公表して、この経験を伝えたいと思っています」と言いました。病名を医師から告げられたときにはもう、「これは自分の経験として伝えたいな」と思っていたんですよね。
人間ドックなどで再検査になってもなかなか行かない人もいる中、早く再検査したからこそ見つかった自身の経験や、私自身が闘っていることを伝えることで、なにかお役に立てるのであれば、アナウンサーとして生かさなければと思いました。
――菅谷さんだから伝えられることがたくさんありますね。これからどんな活動をしていきたいですか。
1つは医療現場で働く医師の姿を取材し、伝えていきたい。
闘病したことで、いかに現場の方が患者のために働いているのかがよく分かりましたし、それぞれの研究も進んでいます。
ただ、私たちにはなかなか知るすべがなかったりしますよね。反対に、医療現場の先生方も発信するすべがなかったりもするので、医師と患者をつなぐ役割になりたいなと。
がん最前線ってものすごく進化していて、今の医療技術、今後進んでいく医療の取材ができればと思っています。そしてやっぱり一番伝えたいのは、私の場合は人間ドックでしたが、身体を定期的にチェックできる機会、がん検診や健康診断の大切さです。
■手術への不安 「“わら”にもすがりたい」気持ちに対して医師が発した一言
――経験を通して、がんの情報について感じたことは。
がんを経験して、がんって部位によって全然違うということが本当によくわかりました。僕はすい臓がんを経験したけれど、同じすい臓がんでもそれぞれに状況は違う。他のがんについてはもっと分からない部分もある。
たとえ完全には分からなくても、がん経験者同士で『こういう経験もありますよ』と話し合いができると、次に治療に臨まなければならない人への提案になると思うんです。だから、今後がんを経験する人のための情報を発信したいです。
僕自身、がんの告知を受けた時に不安がすごくあったから、手術中や手術後の経験について、たとえ自身のケースと違っていても、もし知っていれば、「こういうことが起きるかも」とわかり、少しでも不安が緩和できると思います。
――ネットで検索すると中には不確かな情報も出てきてしまう中、菅谷さん自身、情報に気持ちが動かされてしまったことはありましたか。
「“わら”にもすがりたくなる気持ち」って本当によく分かるんです。手術って怖いイメージがあるし、手術しなくていい方法はないのかって考えてしまう。僕にとって大きかったのは「“わら”にもすがりたい気持ちはわかるけれども、“わら”は“わら”ですよ」という医師の言葉でした。
信頼できる先生に出会って一緒に病気を治していく――それがすごく大事なんだなと思いました。
■『がん≠高齢でなる病気』 50歳での闘病 周囲の援助で「仕事続けられる」
――菅谷さんの経験を聞いて、私たちの側に『がん=高齢でなる病気』という思い込みがあったり、闘病しながら働くロールモデルが少なかったりするのではないかと感じています。
「国民の2人に1人ががんになる時代」といわれているのに、僕自身もがんになるまでそのことを実感していませんでした。病院に行って「がんの患者さんって、こんなにもいるんだ」と驚きました。がん病棟って閑散としているイメージだったのに、ものすごく混んでいて、これが現実なんだなと感じました。
普段はなかなか「じぶんごと」として考えられないかもれないけれど、近い将来、自身や身近な誰かがなる可能性があるっていうのは、意識しておいてもいいのかなと思います。
――菅谷さんも働きながら治療していましたが、私のような同僚に何かできることはあるんでしょうか。特別なことが必要なのか、普段通りのほうがいいのか……実は後輩として悩みました。
支えはもちろん必要です。体調的にどうしてもサポートしてもらわなきゃならないときもあるし、精神的にも落ち込む部分があるので支えてもらいたいなと思いました。
言葉の端々に、「気づかってくれているんだな」という気持ちは伝わってくるので、あえて言葉にしなくても大丈夫です。ときどき『どうですか?』って言ってもらえるとありがたいと思います。
また、後で知ったことなんですけど、僕の妻にも、メッセージを送ってくれていた同僚がいたんです。これに妻は支えられたと聞きました。もし知り合いであれば、患者の家族への声掛けなどもとてもうれしいと思います。
――直接、聞くことができてよかったです。
がんの診断を受けた時の病院の壁に、「重大な決断は早まらないでください」と書かれたポスターが掲示されていました。がんが分かったからといって、すぐに退職などを決めるのではなく、十分考えてほしいというメッセージ。周りが理解をしてくれていれば、もちろん援助は必要なんだけども、こうやって仕事が続けられるんだなと感じています。
【取材後記】当初は戸惑いも 直接話すことで多様な働き方のヒントに
菅谷さんから「すい臓がん」であると聞き、当初なんと言葉をかければいいか分かりませんでした。私自身、病気について知らないことが多く、「傷つけることが怖い。だけど、なにも言わないのも…」と考える中、今回、直接話を聞き、同僚としてできること、分かったことが多くありました。
1年間で新たにがんと診断される人は約100万人。それほど身近な疾患になってしまった「がん」は、菅谷さんの言葉にもありましたが、自身や身近な誰かがなる可能性を意識しておかなければならないのだと思います。
また、職場での周知やサポートの在り方などは、闘病という今回のケースだけでなく、「〇〇しながら働く」多様な働き方のヒントになるのではと感じています。
(取材・文 日本テレビアナウンサー 岩本乃蒼)
菅谷大介(50) 1971年生まれ
日本テレビアナウンス部担当部次長 97年に入社後、これまで「news every.サタデー」や「バゲット」など担当。スポーツでは箱根駅伝、プロレスやゴルフなど多岐にわたる。2018年には平昌五輪で女子パシュート金メダル実況。現在管理職としてアナウンサーのマネジメントに従事しながら、自身のがん経験を番組やSNSで発信していく。
岩本乃蒼(30) 日本テレビアナウンサー
2017年より「news zero」でキャスターとして災害や事件の現場取材を担当。今年4月から社長室サステナビリティ推進事務局を兼務し、日本テレビのSDGs活動の発信も担う。