重要性を増す医療のビッグデータとは?今後の医療の行方…日本医学会総会会頭に聞く
4年に1度の国内最大規模の医学分野の学術集会「日本医学会総会」が、東京都内で今月21日始まる。新型コロナウイルスのパンデミックを経て初めて開かれるが、一般市民にも公開されて無料で聞ける講演も多数ある。日本医学会総会・春日雅人会頭に見所を聞いた。
■最先端の医療情報「社会への発信と対話を」
日本医学会総会は、3万人を超える医師や医療従事者らが参加する学術集会だが、今回は、医療関係者向けの講演の一部が一般にも公開され無料で聞けるほか、市民向けのセッションも多数用意されている。
日本医学会総会・春日雅人会頭は、「現在の日本の医学や医療について、国民の皆さまに知っていただく。社会への情報発信、社会との対話を考えています」と話す。
学術講演のため、台湾のデジタル政策を担当するオードリー・タン氏らが来日。アメリカの感染症対策を指揮したアンソニー・ファウチ氏もメッセージを寄せ、世界各国が新型コロナウイルスにどう対応したか講演するなど、新型コロナをテーマにしたプログラムも多数ある。他にも、特別プログラムとして、ノーベル賞受賞者である大隅良典氏の講演(21日)や、山中伸弥氏の講演(23日)なども一般公開され、オンラインと会場にて無料で聞くことができる。
春日会頭は「いまは非常に情報がたくさんありますが、中には必ずしも正しくない情報、学会では認められてない考え方もあると思います。多くの研究者、学者が考えている一番正統的な意見、最先端な意見を聞けるので、1回は聞いていただくといいのではないか」と話す。
■ビッグデータで変わりゆく医療
中でも注目なのは、ビッグデータについて。今回の日本医学会総会テーマは「ビッグデータが拓く未来の医学と医療」となっているが、いま急速に医療・医学の世界はビッグデータによって変わりつつある。例えば、ゲノム解析によって個人の体や病気に関するデータを知る『ゲノム情報』の利用。スマートウォッチなどを身につけ、24時間、体のデータを蓄積する『ウェアラブルデバイス』。臨床で医療情報を活用する『電子カルテ』など、ビッグデータの活用は多岐にわたる。
春日会頭は「今はアメリカやヨーロッパでは、ゲノムコホート(追跡研究)で、数十万人の血液を供出してDNAを調べて、各個人の情報、ライフスタイルなどを調べる研究が非常に積極的に行われている」と説明するが、一方で、新技術が発展する中での問題もあると指摘する。
「新しい技術を社会に実装していく場合には、やはりいろいろな問題もあります。一つは、やはり個人情報の問題で、ゲノムの情報も個人を特定できるということで、そういう情報を扱うという意味では、国民の皆様のご心配はあると思います(春日会頭)」
新しい技術を社会に導入する上では、医療提供側と一般市民の相互理解を深めることが不可欠だ。そのためにも医療・医学の世界に興味を持って知ってほしい、と春日会頭は話す。
■「健康は自分で守る」今後の医療との向き合い方
さらに、いま超高齢社会を迎える日本では、限られた医療や介護の資源をどう分け合うかが課題となる中、人生100年時代の医療のあり方についても、鍵となるのはビッグデータの上手な活用だという。
「非常に大事なのは、一般市民の皆さんお一人お一人に、自分の健康は自分で守るんだという意識を持ってもらうことです。以前に比べると、そのための情報がすごく手に入りやすくなっています。例えばウェアラブルデバイスを使って血圧や脈拍のデータはもう自分で管理できるわけです。ゲノム情報も手に入るし、非常にたくさんの情報を自分で手に入れることができるので、それを正しく使って、自分の健康を管理していく。自ら積極的に自分の健康は自分で守るという意識を多くの人に持っていただくことが大事(春日会頭)」
その際に、正しい知識に基づいて健康管理をするために、医療関係者のサポートを活用してほしいと話す。
「やはりヘルスリテラシーといいますか、情報を得て、それを評価、吟味して、正しい情報で自分の健康を守るために、ヘルスリテラシーを上げる機会をいろいろ作っていくことは非常に大事だと思います。我々医療関係者はそれをサポートするわけですが、患者さんが情報を得て、そして患者さんに寄り添ってお互いにディスカッションし、納得して意思決定していく」「医師や医療関係者に聞いていただいて、納得していただいて、こうなんだっていう正しい知識に基づいて、自分の健康管理を普段からしていただくというのは非常に重要じゃないかなと思います。」
■親子で触れて、学べる医療・医学
「日本医学会総会」の期間中は、東京の丸の内・有楽町エリアで、親子で楽しみながら医学・医療について知ることができる。博覧会では、誰でも無料で健康のセルフチェックができるエリアや、子どもが楽しみながら学べる医学体験(事前申し込みあり)の催しも準備されていて、実際の医療機器を使ったドクター体験や、筋肉の信号で動かせる義手の体験などもできる。また、ビッグデータと医療についての学習漫画も配布される。