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天皇皇后両陛下 2002年ニュージーランド・オーストラリアへの親善外交 【皇室 a Moment】

2022年2月20日 12:41
天皇皇后両陛下 2002年ニュージーランド・オーストラリアへの親善外交 【皇室 a Moment】
2002年12月15日 ニュージーランド ミルフォード・サウンド

一つの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る『皇室 a Moment』。今回は、2002年に天皇皇后両陛下がニュージーランド、オーストラリアを訪問された際のエピソードを、日本テレビ客員解説員の井上茂男さんと振り返ります。

■両陛下 8年ぶりの海外親善訪問

―― こちらの写真、井上さん、かなり距離が近いですね。

コロナ禍にあってはちょっとびっくりするシーンですね。
2002(平成14)年12月、皇太子ご夫妻時代の天皇皇后両陛下が、ニュージーランドを訪問し、先住民族マオリの「ホンギ」と呼ばれる鼻をつけ合う挨拶を交わされている場面です。

ニュージーランドの首都ウェリントンで行われた歓迎式典には、マオリの人々が参加し、オセアニアの文化の多様性を示しました。この訪問は、愛子さま誕生のちょうど1年後に行われた親善訪問でした。両国は先月、トンガの津波被害を受けていち早く救援に乗り出して注目された近隣国です。


―― 2002年のご訪問は、お二人での久しぶりの外国公式訪問だったんですよね?

こちらは両陛下の結婚後の海外訪問の一覧ですが、1995(平成7)年の中東訪問から数えて約8年ぶりの親善訪問でした。2度にわたった中東訪問は、ご結婚前から計画され、2度延期になって行われた経緯があります。

この旅の後も、お二人は、ヨルダン国王の葬儀や、ベルギー皇太子の結婚式で外国を訪問されていますが、友好親善を目的にイチから検討・計画された海外訪問は、このニュージーランド・オーストラリア訪問が初めてで、そしてそれが最後になっています。

皇后雅子さまは、訪問直前の記者会見で「外国訪問をすることが難しい状況は、正直、その状況に適応することになかなか努力が要った」というように述べられています。
お世継ぎへの期待からの配慮があり、また皇后さまの適応障害もあったわけですが、外交官出身であったことを考えると“異常”なことだったと改めて思います。

■皇后さまは笑顔で Very exciting!

―― 念願かなっての8年ぶりの訪問だったんですよね。そのニュージーランド・オーストラリアではどのような場所を訪ねられたのでしょうか?

ニュージーランドでは独自の文化や雄大な自然に触れられています。

最初に訪問されたのは北島にある首都ウェリントンです。先ほど歓迎式典で先住民族マオリの人々からの歓迎を受けられた場面を紹介しましたが、この国立博物館では、両陛下はマオリの伝統的な民族衣装のマントを着せられてマオリの生活や文化の展示を丁寧にご覧に
なりました。

――両陛下がこうして外国の民族衣装を現地で身につけられるというのもかなり珍しいですよね?

珍しいと思います。

南島のクライストチャーチでは、「国際南極センター」を訪ねられました。ここでは南極用の雪上車に体験乗車されています。

―― かなり動きが激しそうですね。

これは、南極を想定した、でこぼこ道やクレバス、池の中を時速50キロで疾走する特殊な乗り物で、車内でも相当の上下の揺れがあるそうで、両陛下はそれを体験されたわけですね。

男性 「どうでした?楽しみましたか?」
皇后さま 「very exciting!(とっても興奮しました!)」

―― 両陛下の笑顔がきらきら輝いていらっしゃいますね。

本当ですね。楽しまれて親善されているのが分かります。やはり外交官ご出身だと思いますね。

また、ユネスコの世界遺産にも登録されているフィヨルドの国立公園、ミルフォード・サウンドも訪問されました。平原を散策された時は、お二人盛んに写真を撮られていますけれど、お二人並んで写真に収まったり、交互に写真を取り合ったり、仲むつまじい姿が見られま
した。

■希望された子どもとの触れ合い

さらに船でフィヨルドの雄大な大自然の絶景にも触れられたんですね。
上皇ご夫妻がこの地を訪問された時も、このクルーズを楽しまれたそうです。
居合わせた日本人のお母さんと赤ちゃんに話しかけられる場面もありました。

皇后さま 「いかがでしたか?」
母 「楽しかったです」
皇后さま 「きれかったでちゅか? 寒くないでちゅか?」

―― 皇后さまも愛子さま誕生から1年ということで、思い出されていたのか、言葉遣いとか表情が本当に柔らかでいらっしゃいますね。

そうですね、日本に置いてきた愛子さまのことを思い出しながら触れ合われたのではないかと思います。

オーストラリアでは動物との触れ合いもありました。シドニーのタロンガ動物園では、両陛下はコアラとウォンバットの赤ちゃんと触れ合われました。皇后さまは現地のメディアからウォンバットの抱き心地を聞かれて、このように答えられています。

皇后さま「Lovely, so fluffy!(かわいくて、とてもふわふわしていますね!)」

―― 皇后さまと言えば動物好きで知られていますけれど、fluffyとかなりカジュアルな英語の表現もされるんですね。

気持ちをそのまま語られたのかもしれませんね。

愛子さまが生まれてちょうど1年後でしたので、両陛下は各地で愛子さまへのお土産をプレゼントされたんです。3人の子どもの母親でもあるウェリントンの市長から贈られたのは、「BUZZY BEE(バジー・ビー)」という、ニュージーランドで大人気のハチの格好をした熊のぬいぐるみです。その靴が取れて赤ちゃんも履けるようで、それを市長が説明しまして、皇后さまが抱きしめられるシーンもありました。

また、国際南極センターでは、お二人でやっと抱えられるほど大きいペンギンのぬいぐるみをプレゼントされ、皇后さまは「娘の喜ぶ顔が楽しみです」と話されていました。

―― これ、かなりの大きさですけれど、無事に愛子さまの元に届いたんですか?

東宮御所の写真の中に映り込んでいるのを見た記憶があります。ちゃんと帰国して渡されたんですね。

―― 無事に届いたんですね。

―― この時、幼い愛子さまを残して行かれたのは、両陛下は心配な気持ちもあったんではないでしょうか?

初めて愛子さまをお一人で残して外国に行かれた訳ですが、両陛下は事前の記者会見で、留守番中も「なるべく普段通りということを心がけたい」と話されていました。

実際、陛下も生後7か月でお留守番を経験されていますから、そういうこともあってのことだと思います。

この旅では、両陛下が学校や子どもの施設をたくさん回られたことも特徴的でした。ニュージーランドではオークランド市内の小児病院を訪ね、闘病する子どもたち一人ひとりに、にこやかに声をかけられました。
トラクターにひかれて長い入院生活をしていた少年には、皇后さまが優しくキスして励まされる場面もありました。

オーストラリアでもシドニーの小児病院を訪ね、入院している子ども達の歌や踊りをご覧になった後、病気の少年少女たちに顔を寄せて励まされました。入院している少年から、愛子さまのことについて質問される一幕もありました。

子 「娘さんはおいくつですか?」
天皇陛下 「1歳ですよ」
皇后さま 「彼女はとても元気なんですよ」

こう話した後、お二人は旅に持ってきていた愛子さまの写真を少年に見せるんですね。日本でお留守番をしている愛子さまのことを写真を見せながら紹介されました。

―― お二人は愛子さまのお写真を持ってきていらっしゃったんですね

陛下はよく、いろんな写真をポケットから出してコミュニケーションを図られますが、愛子さまの写真というのはこの時初めて知りました。

皇后さまは訪問直前の誕生日の記者会見で「難しい境遇に置かれている子供たちには心を寄せていきたいと思っております」と述べられています。小児病院を訪ね、子どもたちを励まされたのも、両陛下の希望によるものでした。

■中3年の時に訪ねた思い出の地

オーストラリアでは、陛下にとって思い出深い人との再会もありました。実は、天皇陛下の初めての海外旅行はオーストラリアで、ホームステイ先ホストファミリーがこのハーパーさんなんです。

当時中学3年生の陛下は、銀行員だったハーパーさんの家庭で同年代の子どもたちと触れ合われました。この旅で陛下は、自分でお金を払って市電に乗ったり、ポストに自分の手紙を投函したりと、普通の暮らしを体験されました。また、有名な一枚岩の山「エアーズ・ロック」にも登られています。

当時、陛下は「大変楽しかった。印象に残ったのは、オーストラリアの人々の親切とやさしい思いやりです」という感想を述べられています。

―― 40年以上前の映像になりますけれど陛下のカーボーイハットとサングラス姿がまた決まってますね。

珍しいですね。

上皇ご夫妻のオーストラリアご訪問で注目したいのが、先の大戦中、捕虜収容所があったカウラという町の日本人戦争墓地への慰霊です。旧日本軍の兵士たちは、「生きて捕虜の辱めを受けてはいけない」と集団脱走を図って230人以上が亡くなり、同時にオーストラリア軍の兵士も亡くなりました。上皇ご夫妻はその墓地で慰霊をされています。

2002年の天皇皇后両陛下の訪問の際は、両陛下は首都キャンベラで「無名戦士の墓」に供花をされています。先の大戦で、日本はオーストラリアの北部をたびたび空襲し、多くの犠牲者が出ています。空襲のことも、カウラの集団脱走のことも、忘れてはいけない歴史だと思います。

―― こうして見てきますと、お二人での外国親善訪問が、20年前のニュージーランド・オーストラリア以来、実現していないのは本当に残念ですね。

そうですね。おととしの春には即位後初の外国訪問としてイギリスが計画されましたが、コロナ禍で延期になってしまいました。

天皇陛下は、かつて関心のあるテーマについて「環境問題」「子どもと高齢者に関する事柄」などを挙げられています。ニュージーランドとオーストラリアでは、先ほど紹介したように小児病院訪問やこの映像のような小学校訪問など子ども達と触れ合われるご様子が印象的でした。コロナが収束して令和の親善訪問が始まった時には、難しい環境にある子供たちとの触れ合いを大事にされていくと思います。

―― 全世界で王室、皇室の交流が出来なくなってしまっていますけれども、是非、成年皇族になられた愛子さまも一緒に、3人皆さんで海外に訪問される日を願いたいですね。

そうですね、どんどん輪が広がっていけばいいと思います。



【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。