“死刑囚”として生きた半生 袴田巌さん87歳に “袴田事件”…「裁判やり直し」来週判断へ
1966年に静岡県で一家4人が殺害され、袴田巌さんに死刑が言い渡された、いわゆる“袴田事件”。裁判のやり直しが認められるのか、来週、注目の決定が下されます。事件から半世紀以上、決定を待つ袴田巌さんと、巌さんを信じ共に闘ってきた姉のひで子さんを取材しました。
◇◇◇
10日、87歳の誕生日を迎えた袴田巌さん。人生の半分近くを“死刑囚”として生きてきました。
袴田巌さん(87)
「健康そのものは、よくなる一方だね」
1966年、現在の静岡市清水区で、みそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件。逮捕されたのが、従業員の巌さんでした。巌さんは逮捕時の取り調べで犯行を自白。しかし、裁判では自白の強要があったなどとして無罪を主張しましたが認められず、死刑判決が確定。その後も、裁判のやり直しを求めてきました。
転機が訪れたのは2014年。静岡地裁は死刑判決の決め手となった証拠について、「ねつ造」された疑いを指摘。「裁判のやり直し」と巌さんの釈放を認めたのです。
◇◇◇
巌さんは長い拘置所生活を経て9年前に釈放され、今は90歳の姉・ひで子さんと自宅で生活しています。巌さんは動物が好きだといいます。
――なんで動物お好きなんですか?
袴田巌さん
「自由だからだろうね」
しかし、これで巌さんが完全に自由になったわけではありませんでした。2018年、検察側が不服を申し立て、「裁判のやり直し」は白紙になったのです。それから5年、審理は続き…ついに来週、裁判をやり直すか、東京高裁が再び判断を示します。
事件からすでに57年。“死刑囚”としての生活は、巌さんを大きく変えました。
姉・ひで子さん(90)
「30年も狭い部屋に押し込められていたら、おかしくなって当たり前ですよ」
巌さんは長い拘置所生活の影響で、妄想と現実の世界を行き来する様子がみられるといいます。いわゆる“拘禁症状”が続いているということです。
巌さんが毎日、日課として行う浜松市内の「ドライブ」は、巌さんいわく「パトロール」。巌さんは、自分が「パトロール」することで世界を悪から守っているのだといいます。
袴田巌さん
「世界がうまくいくように動いてるんだね。善でなければやられちゃうから、悪で生きてたらやられちゃう」
「竜の世界が縮んで相手を食っちゃうんだ」
時に理解できない言動があっても、巌さんを信じ、共に闘ってきたのが姉のひで子さんです。
姉・ひで子さん
「以前は(裁判は)母がやってたの。母は68歳で亡くなっちゃったけど。母はどんなつらい思いで死んでいったかと思うと…。巌が無実だから、それで一生懸命頑張れる」
裁判のやり直しは認められるのか。争点となっているのは、事件から1年以上後に現場近くの「みそタンク」から発見された衣類についた血痕の色です。巌さんが犯行時に着ていたとされ、血痕は「赤み」をおびていました。
弁護側は1年以上みそに漬かった衣類に血痕の「赤み」が残ることはあり得ず、証拠がねつ造だと主張。一方、検察側も独自に実験を行い、「長時間みそ漬けされた血痕に、赤みが残る可能性はある」と反論しています。
姉・ひで子さん
「もちろん再審開始をひたすら願ってる、私たちは。そのために闘ってるんですよ、56年闘ってるの」
半世紀にわたり闘い続けてきた姉と弟に、東京高裁は来週、判断を示します。