iPS細胞から作った心筋細胞の「心筋球」で重い心不全治療 医師がベンチャー立ち上げるワケとは
ヒトのiPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作り、それを「心筋球」というかたまりにして、重い心不全の患者の心臓に注入する世界初の治療法を開発中の医療ベンチャー企業Heartseed社。医師である福田恵一社長(慶應大学名誉教授)はなぜ、自らベンチャー企業を立ち上げたのか、その背景や狙いを聞いた。
福田恵一氏:アメリカでは医薬品・医療機器の開発シーズの約80%程度は現在、アカデミア(大学などの研究者)あるいはベンチャー由来の製品になっています。
日本ではアカデミアあるいはベンチャー発の製品の開発が遅れたため、日本の製薬メーカー、医療機器メーカーが欧米に大きな水をあけられ、5兆円を超える大幅な輸入超過となっております。
また、ベンチャーキャピタル(ベンチャー企業などに出資する投資会社)による投資も欧米と比べて、資金が一桁から二桁小さい額しか調達できません。日本は今後この領域の投資を大幅に伸ばしてゆく必要があるとともに、医療ベンチャーが発展できる環境を育成してゆく必要があります。
──なぜHeartseed社を立ち上げたのか。株式会社化する狙いは。
大学で育成した再生医療の優秀なシーズを社会実装するためには、サイエンスをしっかり理解した者が経営のハンドルを握り、正しい方向に舵取りをしながら育薬してゆく必要があります。また、そのためには経営、ファイナンス、創薬のプロに会社に入ってもらい、しっかりとしたプロの集団を作る必要があります。
以前、日本の大手製薬メーカーと共同で研究したことがありましたが、特許だけを持って間違った方向の開発をされ、我々が利用されるだけだった経験がございます。
再生医療を正しく発展させるには、研究者がしっかりとハンドルを持って進む必要があると強く感じており、Heartseed社を設立いたしました。
──日本では研究者が企業活動をする例がまだ少ないですが、福田氏はその必要性を説かれています
これまでは研究者が企業活動をすることは非常に少なかったと思います。欧米が成功したように、日本でも安倍総理、岸田総理などはアカデミア発ベンチャーの有用性を説いておられるようになり、だいぶ状況は変わってきているのではないかと思います。
慶應大学でも2015年に眼科の坪田教授と循環器内科の教授だった私がベンチャーを作った時には、大学内でもかなり逆風を感じましたが、今では慶應大学医学部発ベンチャーは20社近くになり、フォローの風を受けています。我々がまず成功例としての実績を示すことで、後に続く後輩がどんどん出てくることを期待しております。
──研究と製品化を両方手がける意義、必要性について改めてお願いします
私は研究者かつ臨床家であるので、本当の医療のニーズを理解することができます。この本当のニーズを知る者が、研究と製品化を両方手がけることで社会の役に立つ製品が生まれると考えております。
研究者が両方手がける意義・必要性はここにあると考えております。逆に、金融だけ知るものが医療ベンチャーを経営した場合、行きつく先は医療ニーズとはかけ離れた商品を開発することになってしまう危険があります。
研究者だけの知識で製品化はできるものではありません。経営、ファイナンス、創薬の各部門の人材を広くリクルートし、多くの人たちの英知を結集させることが何より重要と考えております。