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なぜ? 倍速で映像視聴する若者たち 作品を“鑑賞”から“消費”へ

2022年5月20日 21:53
なぜ? 倍速で映像視聴する若者たち 作品を“鑑賞”から“消費”へ
イメージ(當舎慎悟/アフロ)

映画などを無許可で短く編集した「ファスト映画」を動画サイトに投稿していた男女3人に対し、日本テレビや東宝など原告13社は、5億円の損害賠償を求める訴えを起こしました。なぜ「ファスト映画」が視聴されるのか。そこには近年、若者たちが多用している「映像の倍速視聴」の影響が考えられます。映像の視聴方法の変化について取材しました。

「ファスト映画」とは、制作者ではない第三者が、あらすじや結末がわかるような形で映像作品を勝手に短く編集して、動画サイトなどにアップした違法な映像です。昨年初めて逮捕された男女3人は、それぞれ著作権法違反の罪で有罪判決が確定していて、原告側弁護士によれば損害額は20億円にのぼるということです。

■なぜ「ファスト映画」を見る?若者たちの動画の視聴方法に変化

なぜ映画館に行かず「ファスト映画」を見るのでしょうか。東京・渋谷で10代から30代の男女15人に話を聞きました。すると「ファスト映画」だけでなくインターネット上での動画の再生方法に共通した特徴があることがわかりました。

それはYouTubeやNetflixなどにも導入されているもので、動画を1.25倍から2倍程度の速度で再生する「倍速視聴」といわれるものでした。

東京都内在住の女子大学生(20代)はこのように語りました。

「映像作品などの動画を見る時には、必ず1.5倍速程度にして見ています。見たい映像がたくさんあり、倍速視聴でないと時間が足りないのです」

コロナ禍で大学の授業はオンラインのビデオ方式になり、「授業も倍速視聴」していると語りました。

またファスト映画は「違法かもしれないが、手軽にストーリーを知れて便利」という声も聞かれました。

■じっくり見なくていいものは「ファスト映画」でコスパ良く視聴

日常的に「倍速視聴」しているという別の女性(20代)は、ファスト映画の視聴経験はあるものの、逮捕者が出るまでは違法だとは知らなかったといいます。

「じっくり見なくてもいい作品は倍速とかファスト映画でストーリーだけを知ることができるからコスパもいい。本当に見たいものはそのまま見ます」

「時間がなければ見なければいいのでは?」という記者の問いには、「(様々な映画を)見ないと友人との話題についていけない」といい、半ば「見なければならない状態」に陥っていると語りました。

■視聴習慣の変化も影響?「ファスト映画」で作品を“消費”

若者のこうした傾向について「映画を早送りで観る人たち(光文社新書)」の著者・稲田豊史さんに話を聞きました。稲田さんは簡潔さ、スピード感を求める最近のユーザーの傾向と合っているのではないかと分析します。

稲田豊史さん
「サブスクリプションサービス(読み放題、見放題などの定額サービス)が始まったことでコンテンツの供給過多状態が続いています。“作品を鑑賞する”のではなく、短時間で多くの作品を“消費する”傾向にあります」

つまり、視聴者にとって「見ておくべき」ものが増えると、流行を知っておきたい、話題に乗り遅れたくないと、次々と映像作品を「消費」していくというのです。

稲田さんは「ファスト映画」や「倍速視聴」されることで、脚本家や映画監督による“間”のような演出も無視され、演出側の意図がないがしろにされてしまう危険性も指摘しています。

■原告側弁護団「やり得は許さない」

5月19日、日本テレビや東宝などのテレビ局や映画会社など13社は、「ファスト映画」を動画投稿サイトで公開され、著作権を侵害されたとして男女3人に対し5億円の損害賠償を求め、東京地裁に訴えを起こしました。

3人はすでに著作権法違反の罪で有罪判決が確定していて、原告側によりますと、3人によりネット上に公開された映画「DEATH NOTE」や「シン・ゴジラ」などの「ファスト映画」による損害額は20億円にのぼるということです。

原告13社の代理人を務める東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士は、アカウントを消すなどしているファスト映画投稿者についても「やり得は許さない」として、今後法的措置をとる意向を示しています。

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