約10人に1人が難聴……聞こえづらくても誰もが会話しやすくなる社会へ プロジェクト始動
「難聴」の人は、どんな聞こえ方をしているか知っていますか? 日本補聴器工業会の調査(2018年)によると、国内では約10人に1人が難聴だといいますが、あまりよく知られていないのではないでしょうか? そこで、難聴児の父親らが、聞こえづらくても会話がしやすくなる“ちょっとした工夫”を全国に広めようとプロジェクトを立ち上げました。
■難聴者でも会話に参加しやすく…きっかけは、長女の保育園での出来事
今月8日に始まったのは、難聴者でも会話に参加しやすくなるプロジェクト「プラス1コミュニケーション」です。
このプロジェクトを企画したのは、福岡市に住む岩尾至和さん。岩尾さんには、現在、小学校2年生で難聴の長女(7)がいます。岩尾さんが「難聴について、もっと知ってもらいたい」、そう思ったのは、保育所でのある出来事がきっかけでした。
岩尾さん
「保育所のようなうるさい場所だと、補聴器では、聞きたい音だけでなく、全ての音を拾うので、話し声がうまく聞き取れません。サポートの保育士を付けられる福岡市の制度を利用しながら、長女に繰り返し説明してほしいということを保育所に伝えましたが、『みんなと同じ動きをしているから大丈夫だろう』と、なかなか理解してもらえませんでした。」
「難聴児は『なぜそれをするのか』分かっていなくても、友達のまねをして同じ行動をするため、分かっていると誤解されがちです。しかし『なぜそれをするのか』行動の理由が分からないと、社会性が身につかないため、難聴児に対しては繰り返し説明をしてほしいと希望しています」
■難聴についてもっと知ってほしい!
難聴者の多くは、コミュニケーションに課題を抱えているといいます。しかし、どんな聞こえ方をするのか、どんなことが苦手なのかなど、「難聴について正しい理解が広がっていない」と岩尾さんは感じたと話しています。難聴者は、補聴器や人工内耳をつけていても、障害のない人と同じように聞こえるようになるわけではない、そのことが知られていないと指摘します。
こうした中、岩尾さんは、難聴について知ってもらおうと、アニメーション動画を制作しました。動画では「インコ」を「リンゴ」に聞き間違えたなど具体例があげられています。
他にも、難聴者からは「聞こえづらかった時に何度も聞き返すことを躊躇(ちゅうちょ)してしまい、分からなくても分かったふりをしてしまう」「会社で会議の内容を要約したものがほしいなどの配慮をお願いしても、面倒がられるケースがある」という声も岩尾さんのところに多く寄せられているということです。
■聞こえづらくても、小さな寄り添いで誰もが会話に参加しやすく
そこで考えられたのは、手軽にできる“ちょっとしたコミュニケーションの工夫”です。例えば、ジェスチャーをしながら話す、「インコ」とだけ言うのではなく「鳥のインコ」など少し説明を加える、一人ずつ発言する、文字で補う、表情でも表すなどです。
こうした9つの「視覚補助」と「補足行動」を会話に少し付け加えることから、「プラス1コミュニケーション」と名付けました。
筆談だけでなく、スマートフォンのメモ機能や文字おこし機能を使うなど、できるだけ負担が少ないことから始めることがポイント。こうした工夫により、難聴者だけでなく、誰もが会話しやすくなるということです。
岩尾さんは「簡単にできるよということを伝えていきたい」と話していて、SNSを使う、セミナーを開催するなどし、全国に広げていきたいとしています。
※画像/「プラス1コミニュケーション」提供:言葉のかけはし