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認知症患者の事故 家族の責任は…注目裁判

2016年2月2日 20:33
認知症患者の事故 家族の責任は…注目裁判

 認知症患者が徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した事故をめぐり、介護をしていた家族に監督責任があるかどうか争われた裁判で、最高裁は2日、当事者双方の意見を聞く弁論を開いた。認知症患者の介護に大きな影響を与える裁判。介護する家族の思いを取材した。

 東京・練馬区に住む菅原さん夫婦。夫の利幸さん(68)は60歳の時に若年性認知症と診断され、今は妻の恵子さん(54)のことも分からない状態。日中は、ほぼ毎日デイサービスに通い、その他の時間は、妻の恵子さんが自宅で介護している。

 菅原恵子さん「大事な家族なんだよね。だから在宅(介護)で頑張ろうと思っている」

 利幸さんは今は認知症の症状が進行して体力が低下してきたが、1年ほど前までは徘徊することがあったという。

 菅原恵子さん「(介護で)一番大変なのはやっぱり徘徊。一瞬のことだからね。足は元気だから、どこまでもどこまでも行っちゃうわけだから。ヒヤッとすること数えたらきりがないよね」

 10時間以上徘徊し、警察に保護された時もあったという。恵子さんは、玄関にセンサーを付けて利幸さんが一人で外出しないよう注意していたという。

 厚生労働省は2025年に認知症の高齢者が約700万人になると推計。実に65歳以上の人の5人に1人が認知症になるとされている。

 2日、最高裁判所でこうした認知症患者を自宅で介護する家族に大きな影響を与える裁判が開かれた。

 裁判で争われているのは2007年、愛知・大府市で91歳の認知症の男性がJR東海の電車にはねられて亡くなった事故。

 男性は自宅から約4キロ離れた駅の線路に入り、列車にはねられ死亡した。男性は介護をしていた妻がうたた寝をした隙に自宅から外に出て徘徊。線路に迷い込んで事故にあったとみられている。

 JR東海は事故で電車が2時間遅れ、振り替え輸送の費用などがかかったとして、当時85歳だった男性の妻と長男に、約720万円の支払いを求めて提訴した。

 1審の名古屋地裁は一緒にいた妻だけでなく、離れて暮らしていた長男にも監督責任があったとして、請求通り約720万円の支払いを命じた。2審の名古屋高裁は妻の監督責任は認めたものの、長男の責任については認めず、妻に約360万円の支払いを命じたのだ。

 遺族の責任が問われている裁判。民法では、認知症患者など、自らは責任を負うことができない人が事故を起こした場合、被害救済の観点から監督義務者が代わりに賠償責任を負うと定めているのだ。

 認知症の夫を都内の自宅で介護している菅原さんは、徘徊を完全に防ぐのは難しいと話す。

 菅原恵子さん「ずっと人間見張ってられないからね。大事なパパがさ、そんな感じ(徘徊事故)で亡くなったとしたら、まず亡くなったことにショックでしょ。自分を責めるでしょ。ちゃんと見ていなかったあんたが悪いなんて言われたら、私、自殺しちゃうよ」

 2日に最高裁で行われた裁判の弁論で、愛知・大府市の列車事故の遺族側は、「認知症患者を閉じ込めるしかなくなってしまう。不当な判決だ」と主張。一方、JR東海側は「妻だけでなく、介護方針を決めていた長男も監督責任を負うべきだ」と主張した。

 亡くなった男性の長男は「これまでの判決は認知症の人と家族にとってあってはならない内容で、こんな判決を後に残してはならないとの思いでやってきました。認知症の人たちの実情や社会の流れをご理解いただき、思いやりのある温かい判決を是非ともお願い致します」とコメント。

 認知症患者の介護の現場に大きな影響を与える裁判。判決は来月1日に言い渡される予定で、最高裁は2審判決を見直し、認知症患者に対する家族の監督責任について初めての判断を示す見通し。

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