胎児が…妊婦は注意 サイトメガロウイルス
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。24日は「サイトメガロウイルス」について、日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。
■赤ちゃんに難聴などの恐れ…サイトメガロウイルス
最近、ジカ熱の母子感染が心配されているが、実は日本の私たちの身の回りにも、妊娠中に感染すると赤ちゃんに難聴や発達の遅れなどを引き起こす恐れがある「サイトメガロウイルス」というものがある。
厚労省研究班の調査では、新生児のうち、年間約3000人が胎内で感染し、この内、約1000人に症状が出ると推定されている。
このウイルスは、世界中のどこにでもあるありふれたウイルスで、主に子どものうちに、ウイルスを含んだ唾液や尿に触れて、それが鼻や口から入ることで感染する。ほとんどの場合は、症状が出ないか軽い風邪の症状でとどまるが、最近では子どものうちに感染しないまま大人になる人が増えていて、妊娠中に初めて感染した場合などは、赤ちゃんに障害を引き起こす恐れがある。
最近では妊婦の約3割が過去に感染をしたことがなく、つまり3割の人は免疫を持っていないので、感染しやすく、注意が必要だ。
■感染は子どもの「唾液」や「尿」から
厚労省・研究班代表の藤井知行教授は、「まだ国が認めた治療薬や感染を防ぐワクチンもないため、一番の予防策は、お母さんが妊娠中に感染しないよう注意すること」と話している。
このウイルスは、主に子どもの唾液や尿から感染するため、おむつ交換をしたり、子どもに食事を与えたりした後などは、その都度15秒以上石けんで手洗いをする、また、子どもの食べ残しを食べたりせず、子どもと同じスプーンやフォークは使わないなど、こうしたことで感染のリスクをかなり減らせるという。第2子、第3子を妊娠されたお母さんは、注意が必要だ。
■患者さん親子「知っていれば…」注意呼びかけ
こうした予防法などについては、これまでほとんど妊婦に知らされてこなかった。そのため妊娠中に感染し、今も苦しんでいる人がたくさんいる。ある患者さん親子を取材した。
茨城県に住む藤千恵さん(32)の二女・直美ちゃん(3)は、生後間もなく難聴と診断された。原因は、母の千恵さんが妊娠中に初めてサイトメガロウイルスにかかったこととみられている。
藤千恵さん「上の子がいたので、上の子の食べ残しを(自分が)食べていたりだとか、食器の共有をしてしまっているところもあった」
いま直美ちゃんは、両耳に人工内耳を埋め込む手術をして音を聞き取っている。発達は遅めだが、元気に育ち、保育園にも通っている。
藤千恵さん「(予防法を)知っていれば、この子が聴覚に障害をもって生まれることもなかっただろうし、すごくそこは後悔しています」
藤さんは、4年前に設立された「トーチの会」という患者の会に参加して、ホームページで正しい知識を伝えたり、パンフレットを配るなどして、妊婦さんへ注意を呼びかける活動をしている。
■検査の保険適用、準備進む
サイトメガロウイルスの感染については、厚労省が基準とする妊婦健診の項目には入っていないため、多くの病院では、検査は積極的には行われていない。妊婦に免疫があるかを調べる検査はあるのだが、それが妊娠中に感染したものかどうかを調べる検査方法がしっかり確立されていないためだ。
生まれてきた赤ちゃんについて、胎内で感染したかどうかを調べる検査はある。ただ、対象となるのは感染が疑われる赤ちゃんで、医師が必要と認めた場合に、厚労省の研究班が研究として検査を行っている。これは保険が適用されないため、今後は全国どこの医療機関でも保険適用で検査できるように準備を進めているそうだ。
感染しても全員に症状が出るわけではないが、後から症状が出るケースもあり、長崎大学病院の森内浩幸教授は、早い段階で感染していることが分かれば、早期に薬を投与することで難聴などの症状を軽くできる可能性があり、また、補聴器を使ったり、人工内耳を埋め込む手術が適切な時期にできたりするなど、プラスの事が多いと話している。
■正しく知り、正しく恐れる
きょうのポイントは「正しく知り、正しく恐れる」。今回取材した藤さんたちは、予防法を知っていれば防げたという「同じ悔しさを味わう親子を減らしたい」と活動している。感染症のことを正しく知り、正しく恐れて、妊婦さん自らが予防することが大切だ。
【関連情報】
先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」
http://toxo-cmv.org/