「寝ずにハマった」ギャンブル依存症の実態
カジノ解禁法が施行され、ギャンブル依存症への対策が求められる中、24日、国内では初めてパチンコ依存症の実態調査の結果が公表された。パチンコ依存症の人のうち、1割が女性。かつて、その依存症に苦しんだという女性を取材した。
■5年間で1200万円
かつて、パチンコにのめり込んでいた神奈川県の山口えりこさん(仮名)。約15年前、ギャンブル依存症と診断された。パチンコを始めたきっかけは、子育ての悩みからだったという。山口さんはこう語る。
「長男が1歳になるちょっと前、すごく気分が沈むようになって。夫が『少し気晴らしをしてくれば』と外に出してくれて」
当初は月2回ほどの気晴らし程度だったというが―
「『お昼には帰るから』、『3時には帰るから』といいながら、『もうちょっとだけ』と思って気づくと夜7時過ぎていたり。だんだんとコントロールがきかないようなやり方になっていた」
パチンコに行くために、保育園を探し生まれたばかりの二男を預けたという。
5年間でパチンコに使った金額は約1200万円。生活費や貯金などを切り崩してパチンコ代を捻出していた。その後、夫とは離婚したが、15年間パチンコはしていないという。
えりこさんのように“依存症”の人はどのくらいいるのだろうか。
■夫婦で依存も
24日、国内では初めての、いわゆるパチンコ依存症の実態調査の結果が公表された。パチンコ依存症は推計90万人で、このうち、1割が女性だった。諏訪東京理科大学・篠原教授によると、女性の方が遊技障害(ギャンブル依存)におちいりやすく、急速にリスクを高めやすいという。
夫婦で依存症になるケースもある。田中紀子さん(52)は、夫と付き合い始めた頃からギャンブルにのめり込んだという。田中さんはこう話す。
「主人が競艇が好きで、デートはいつも競艇場だった。あっという間に主人と一緒にはまっていった」
田中さんのギャンブルは、さらにエスカレートする。19年前に結婚式とハネムーンを兼ねて訪れたラスベガスでは―
「夜も寝ないでずっとはまりこんでた。ラスベガスの教会で(結婚式を)やる予定たててたが、その予定もすっぽかして、観光もついていたけどほとんどすっぽかして」
滞在中、ギャンブルに明け暮れた2人が撮った写真はたった2枚。有名カジノ店の前での記念写真だけだった。
結婚後、2人の子どもを出産した田中さんは、ギャンブルをする時間はなかったが、夫の競艇通いは続いていたという。
田中さんの夫が開いた競艇用の銀行口座の通帳を見ると、1日で、25万円、32万円と多額のお金をかけていた。消費者金融などからの借金は、10年間で約1500万円。夫は、田中さんに念書を書き“ギャンブルはしない”と誓う代わりに借金の返済を求めたという。
その後、夫婦で患者グループに通い、悩みを話すことでギャンブルをやめることができたという。
■“前頭前野”の活動が影響?
なぜ、“ギャンブル依存症”になってしまうのか。科学的に解明しようとした京都大学などの研究グループが、“脳の機能”の一部が低下していることをつきとめた。
“前頭前野”と呼ばれる部分は、状況を正しく認識し目的を遂げるために正しい選択をする、意思決定をする場所。ギャンブル依存の患者を調べたところ、この“前頭前野”の活動が低下していて、無理をしなくてもよい場面で高いリスクをとることが分かったという。
■依存症への支援策を
去年、“カジノ解禁法”が施行され、政府の有識者会議は7月、依存症対策の提言をとりまとめた。対策案では1週間のカジノへの入場回数を制限。入場にはマイナンバーカードなどで本人確認を行うとしている。また、本人や家族の申告で入場を制限することもできる。
かつてギャンブル依存症で、今では患者の支援をしている田中紀子さんはこう語る。
「入り口で対策をやったとしても依存症者は出るということを認めた上で、もっと深掘りした対策が打ち出されると思ったが、正直がっかり」
田中さんは、すでにギャンブル依存症になった人への支援策も必要だと話す。