皇后さま83歳 質問へのご回答全文1/2
平成二十九年皇后さまお誕生日の宮内記者会質問とご回答(平成二十九年十月二十日)
【問】
この一年も九州北部豪雨をはじめとする自然災害などさまざまな出来事がありました。六月には「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が成立し、九月には眞子さまのご婚約が内定しました。この一年を振り返って感じられたことをお聞かせください。
【ご回答】
熊本地震から一年半が経(た)ちましたが、この一年間にも、各地で時には震度六弱にも及ぶ地震、激しい集中豪雨による川の氾濫や土砂崩れなどがあり、こうしている今も、九州では新燃岳の噴火が間断なく続いています。昨年の熊本地震に始まり、豪雨により大きな被害を受けた九州北部では、今も大勢の人たちが仮設住宅で生活を続けていること、更に地震や津波の災害から既に六年以上経た岩手、宮城、福島の三県でも、今なお一万八千人を超す人々が仮設住宅で暮らしていることを深く案じています。また、北九州には、地震で被災した後に、再び豪雨災害に見舞われた所もあり、そうした地区の人たちの深い悲しみを思い、どうか希望を失わず、これから来る寒い季節を、体を大切にして過ごして下さるよう心から願っています。
本年は年明け後、陛下と御一緒にベトナムを訪問いたしました。これまでアジアの各地を訪問して参りましたが、子どもの頃「仏印(ふついん)」という呼び名でなじんでいたこの地域の国を訪(おとず)れるのは初めてで、たしか国民学校の教科書に「安南(あんなん)シャムは まだはるか」という詩の一節があったことなどを思い出しつつ、参りました。今回訪問したことにより、ベトナム独立運動の先駆者と呼ばれるファン・ボイ・チャウと日本の一医師との間にあった深い友情のことや、第二次大戦後の一時期、ベトナムで営まれていた日本の残留兵とベトナム人の家族のことなど、これまであまり触れられることのなかった、この国と日本との間の深いつながりを知ることができ、印象深く、忘れ難い旅になりました。
今年は国内各地への旅も、もしかすると、これが公的に陛下にお供してこれらの府県を訪れる最後の機会かもしれないと思うと、感慨もひとしお深く、いつにも増して日本のそれぞれの土地の美しさを深く感じつつ、旅をいたしました。こうした旅のいずれの土地においても感じられる人々の意識の高さ、真面目さ、勤勉さは、この国の古来から変わらぬ国民性と思いますが、それが各時代を生き抜いてきた人々の知恵と経験の蓄積により、時に地域の文化と言えるまでに高められていると感じることがあります。昨年十二月に糸魚川で大規模な火災が起こった時、過去の大火の経験から、住民間に強風への危機意識が定着しており、更に様々な危機対応の準備が整っていて、あれほどの大火であったにもかかわらず一名の死者も出さなかったことなど、不幸な出来事ではありましたが、そうした一例として挙げられるのではないかと思います。
米国、フランスでの政権の交代、英国のEU脱退通告、各地でのテロの頻発など、世界にも事多いこの一年でしたが、こうした中、中満泉さんが国連軍縮担当の上級代表になられたことは、印象深いことでした。「軍縮」という言葉が、最初随分遠い所のものに感じられたのですが、就任以来中満さんが語られていることから、軍縮とは予防のことでもあり、軍縮を狭い意味に閉じ込めず、経済、社会、環境など、もっと統合的視野のうちに捉(とら)え、例えば地域の持続的経済発展を助けることで、そこで起こり得る紛争を回避することも「軍縮」の業務の一部であることを教えられ、今後この分野にも関心を寄せていく上での助けになると嬉(うれ)しく思いました。国連難民高等弁務官であった緒方貞子さんの下で、既に多くの現場経験を積まれている中満さんが、これからのお仕事を元気に務めていかれるよう祈っております。