社会課題を「ファッション」から突破する
世の中で議論を呼んでいる話題について、ゲストに意見を聞く「opinions」。今回の話題は「なかなか進まぬバリアフリー」。株式会社ユナイテッドアローズの上級顧問・栗野宏文氏に聞いた。
内閣府が毎年行っている「意識調査」によると、バリアフリー、ユニバーサル・デザインが「進んだ」施設として、病院や老人ホームなどの「福祉施設」を挙げた割合が6割~7割を超えた。
一方、鉄道やタクシーなど移動手段に関わる施設、設備を挙げた割合は3割以下と、比較的低い傾向にある。また「製品」については、パソコンを含め「日用雑貨」「生活用品」なども、おおむね3割前後と低い傾向にある。
「日常生活や社会生活全体としては、どの程度バリアフリーが進んだと思いますか?」という問いに対して、「進んだ」という回答の割合が、2018年の調査では34.2%と、直近の3年で比較すると、年々、低下傾向にある。
そこで、栗野さんの意見を伺いたいと思います。フリップをお願いします。
『デザインとは問題解決である』と書きました。有名なプロダクトデザイナーの言葉らしいのですが、例えばみなさんご存じの火を付けるライターや、カーディガンというのがありますね。これは、例えばライターなら、第一次世界大戦などで、大きなケガをしたり、障害を持った人が、片手で火が付けられるようにということで生まれています。カーディガンも同様に、セーターのように上から脱ぎ着しなくて済むように、前が開いたものが生まれました。我々は洋服を売っていますが、いろんなプロダクトの中に社会の問題を解決する可能性というのはまだまだあると思います。
――今、栗野さんがやっている「041FASHION」というプロジェクトでは、どのように問題解決をすすめているのでしょう。
元々、「ALL FOR ONE(041)」のONEの方たちに、「どういうことで困っているか」と取材に行くわけです。例えばスカートをはくにあたって、座ったままであっても裾が乱れないとか、車いすで移動するときに、移動しやすいスカートやパーカーとか、あるいは、どうしても唾液が出てしまう状態の人が、それをもっといい場面に転換できないかなどがあります。
いろいろなヒアリングをした結果、モノにだんだん落とし込まれていって、今、画面に出ているユナイテッドアローズのスタッフがデザインしてくれたこのスカート――私はこれが一番傑作だと思うんですが、車いすで座っている方や、移動されている方には当然役に立つんですが、立って歩いたり、普通に着た場合にも、ひとつのデザインになっているんです。実は、このスカートは後ろに余裕を持たせるためにこういうデザインになっていますが、横向きに着てもらってもそこにヒダがあるデザインに見えるんです。
――こうやって話を伺うと、いわゆる障害のある方に向けたデザインというものが、一般の人たちにも広く使えるものと考えられるわけですね。
そういう風に考えていくことで、今まで解決できなかった社会のいろいろな問題が、もっと解決されていく、それこそバリアフリー問題というのも解決されていくと思うんです。我々は障害のある方を「チャレンジド」と呼んでいるんですが、究極的にはそれもひとつの個性だと。チャレンジドの方と、非チャレンジドの方は、そういう大きな違いはないのではないかと。もちろん困っていることはあるけど、大きな違いはないんじゃないかと思うわけです。
ひとつの例をもってきました。1974年にイギリスのミュージシャンであるロバート・ワイアットという人が、事故で大けがをして車いす生活になりました。彼とコンサートを一緒にやろうということになって、この時、出演者全員が車いすに乗って、写真を撮っているんです。わからない人は、だれがロバート・ワイアットかどうかわからないんです。みんな一緒じゃないかと。何かものをフラットに考えるということが、問題解決の突破口になるんじゃないかと思います。
――個性ではあるけど、それを一般化、普遍化していくと。
そうですね、結局、ファッションというのは人と違うことが良いことであって、みんなが同じ格好をしているほうがよっぽど気持ち悪いと、僕はそう思います。
■栗野宏文氏プロフィル
株式会社ユナイテッドアローズの上級顧問。ある一人のユーザーの課題解決を通して、これまでなかった服を開発、販売するプロジェクト「041FASHION」に携わる。大学では美学を専攻し、卒業後はファッションの世界へ。1989年セレクトショップ「ユナイテッドアローズ」の設立に参加した。ファッションには、音楽、アート、哲学の3要素が欠かせないという栗野氏。無類の音楽好きで、今も時折、DJとしてイベントに出演している。
【the SOCIAL opinionsより】