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新たな脅威に備え“尖閣の領海警備強化”~中国の攻勢にどう向き合うか

2023年1月1日 18:00
新たな脅威に備え“尖閣の領海警備強化”~中国の攻勢にどう向き合うか
中国海警局の船と対峠する海上保安庁巡視船/提供:仲間均石垣市議 

政府は、安全保障関連3文書の改定にあわせ、尖閣領海警備体制の強化などを柱とする「海上保安能力強化に関する方針」を決定した。尖閣諸島を国有化して10年。年々エスカレートする中国の攻勢に、海上保安庁の“専従部隊”は、どう対峙するのか。
(社会部 佐々木恵美)

■予算は1.4倍に 海上保安庁の体制強化

12月16日、政府は「海上保安能力強化に関する方針」を新たに策定し、海上保安庁の当初予算を2027年度までに今年度の2231億円から1000億円程度、増額することを決定した。

強化すべき6つの能力の1つめにあげられたのが「尖閣領海警備能力」。巡視船などのハード面の整備と、自衛隊や外国海上保安機関などとの連携強化といったソフト面の強化にも取り組むとしている。

■国有化から10年 尖閣の今

沖縄本島から西に約410キロ離れた東シナ海に浮かぶ無人島群・尖閣諸島。日本政府は2012年9月11日に国有化した。

国有化以降、中国海警局に所属する船が領海侵入を繰り返す件数や、接続水域で確認された日数が大幅に増加している。

海上保安庁によると、2022年の1年間、中国海警局の船が接続水域でほぼ毎日確認され、領海では操業する日本漁船に近づこうとする動きを見せた事案も多発。12月には過去最長72時間45分にわたり領海に侵入し続けた。

海上保安庁の石井長官は2022年の最後の会見で、「中国海警局の船による活動は極めて深刻」とし、「あらゆる事態を想定した警備体制を構築し、引き続き緊張感を持って領海警備に万全を期す」と強調した。

■約550人の“尖閣専従部隊”が24時間体制で警備

緊迫した情勢にある尖閣諸島海域で警備にあたるのが、海上保安庁の“尖閣専従部隊”だ。

2016年までに専従船として石垣島に1000トン型の大型巡視船10隻、沖縄本島にヘリコプター搭載型の大型巡視船2隻を配備。「12隻で14隻相当」という使い方をしているという。どういうことなのか?

通常、海上保安庁では船ごとに乗組員が固定されている。しかし“尖閣専従部隊”は3隻の船に4つのチームの乗組員をあてがう「複数クルー制」をとり、1つのチームが休みのときも巡視船を休ませず、別のチームが使うことで、3隻を4隻相当として使っているのだ。

この複数クルー制が計2組配備され、これで“6隻が8隻相当”。通常の運用をおこなう固定クルー制の6隻と合わせて「14隻相当」となる。常に尖閣周辺海域に巡視船が航行する状態を維持するための手法だという。

専従の職員は約550人。24時間365日に及ぶ領海警備で、現場の負担は相当なものだが、課題は職員の緊張感を維持することだという。

海上保安庁幹部は「政治的には緊張していると言われるが、現場はパターン化し“慣れ”が出てきている。突然起きる事態に対応するため、職員が緩まずに緊張感を維持することが重要だ」と話す。

海上保安庁によると、2018年に中国政府は、海警局を軍の指揮下「武装警察」に編入させてから軍の影響力が増したという。

中国海警局の1000トン級以上の大型船が、10年前に比べ3倍以上に増え、中でも懸念されるのが船の武装化だ。砲を搭載した複数の船が確認されている。

2022年には76ミリ砲を搭載したとみられる船が初めて領海に侵入したが、複数の関係者は「想定内で、脅威ではない」と話す。

海上保安庁は常々、中国海警局の攻勢に「相手勢力を上回る勢力で対処する」としてきた。

前出の関係者は「手強い、勝てそうもないという体制をいかにつくるかが重要」「海保の船には、ほぼすべてに機関砲が搭載され武装している。尖閣周辺に現れる中国の船で武装しているのは、たかだか1隻。海保が圧倒的に有利だ」と強調する。

■海警局トップに海軍出身者でどう変わる?

12月に中国がベトナムと開いた事務方の会議に、海警局の局長として出席したのが海軍出身の郁忠少将だ。この出席をもって中国メディアが局長就任を報じた。これは何を意味するのか。

日本政府関係者は「海警は海軍との一体が一層進んでいる」と分析する。

「とりわけ、2022年8月に台湾周辺で大規模軍事演習を行ったことで、台湾を管轄する人民解放軍の『東部戦区』との連携が深まることに警戒しなければならない」「習近平指導部が近く台湾進攻に踏み切る可能性は少ないと思うが、東部戦区は8月の演習以降、軍事的な挑発を強めていて、その傾向は2023年も続く。こうした情勢を背景に尖閣周辺での挑発的な活動や海警の装備強化も一層進む可能性がある」と話す。

■なぜ海上保安庁が尖閣警備にあたるのか

なぜ尖閣諸島周辺海域の対応は、自衛隊ではなく海上保安庁が担うのか。それは海上保安庁が「軍事機関」ではなく「法執行機関」であること。法に従い、航行の安全と自由で開かれた海を守る警察として、軍事衝突や戦争に発展させないようにするのが役割なのだ。

「海上保安能力強化に関する方針」の中で、有事の際に防衛大臣が海上保安庁を指揮する手順をまとめた「統制要領」の策定や、共同訓練の充実を図るとしている。

海の“警察”の海上保安庁と“軍事”の自衛隊が連携・協力する意義は大きいが、自衛隊との結びつきを深めると、軍に近づいたとの見られ方も出てくるという意見もある。それぞれの役割の違いを明確にし、任務を分担することが求められる。

好転する気配がない尖閣諸島周辺の情勢。海上保安庁が新たな強化方針に基づき警備能力を構築し、法執行機関というカードでいかに実効性を高めていけるか、その真価が問われる。