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男女の賃金格差 非正規女性が多い飲食業、正規で賃金低めの金融業など異なる対策【国際女性デー】

2024年3月6日 18:56
男女の賃金格差 非正規女性が多い飲食業、正規で賃金低めの金融業など異なる対策【国際女性デー】

日本では男女の賃金格差が根強くあります。専門家の分析では、産業によって格差が生じる背景や対策が違うことがわかってきました。

■労働分野での男女の格差(ジェンダー・ギャップ)とは?

日本総合研究所調査部の上席主任研究員藤波匠氏によると、日本の場合、女性は男性に比べて、なかなか正規の職員になれなかったり、正規職員になっても賃金が男性社員よりも少なかったり、出世しなかったりということで、賃金が低く抑えられている傾向が根強いと指摘します。

こうした男女間の格差をジェンダー・ギャップといい、昇進(どれだけの人が役職ある立場になれるか)や賃金、正規雇用の割合など、どれをみても、男性が優位で、女性が低いといいます。つまり、女性は昇進する割合が男性より少ない、平均賃金が男性より低い、正社員の割合が男性よりも低い(女性は非正規雇用である割合が高い)ということです。

このような項目のうち、特にジェンダー・ギャップが大きかったのは、役職者(注:主任やチームリーダーなど含む役職のある人のこと。そのうち権限を持つ場合、管理職という)の比率でした。女性で役職者になる割合は、男性で役職者になる割合と比べると6割少ないということです。そして、役職者の所得も男女で差があります。

ジェンダー・ギャップは業種によって違いが見られたということです。一番、業種によるばらつきがあるのは、正規雇用の割合です。女性の非正規雇用者に依存している産業がある一方で、ほとんど非正規雇用の女性がいないような産業もあるということです。

■企業の大小は関係ない。女性の採用の仕方による

藤波氏の研究では、企業規模による違いはあまりなかったということです。「中小企業だから」といったことは言えないということです。ジェンダー・ギャップが大きいかどうかは、女性をどういう形態で採用しているのかと関係していたということです。女性の非正規職員に依存しているような産業もあれば、ほとんど女性の非正規職員はいないが、同じ正規職員でも男女によって賃金や出世のスピードが違うために格差が生じている産業もあります。

藤波さんは、産業による特徴をもとにジェンダー・ギャップをなくすために行うべき対策がわかってきたといいます。

■飲食業は女性の非正規が多い 金融は女性の非正規少ないが…

産業別に調べてみると、宿泊業、飲食サービス業では、女性の非正規労働者が非常に多い。女性の正規職員は少ないが、正規職員になった場合には、男性と賃金や役職の差が少ないということです。藤波さんは、こうした産業で男女の格差をなくしていくには、今、非正規で働いている女性を正規職員に転換することが必要ではないかと提案しています。

一方、金融・保険業や鉱業では非正規雇用の女性は少なく、多くの女性を正規職員として雇ってはいるが、男女の賃金や役職につく割合に差があるということです。こうした産業では正規職員の女性の賃金を引き上げる、役職に登用することを積極的にしていくことが重要だとなります。今回の分析では、全産業で一番理想型に近いのは情報通信業でした。非正規で働く割合は男女であまり差がなく、正規職員の中の賃金や役職の男女格差も小さめでした。藤波さんは「おそらく、今、情報通信業は日本の成長産業の一つとして積極的に女性採用に力を入れている、待遇も男女平等という形で積極的に採用している結果かなと思う」と述べています。

都道府県によってもジェンダー・ギャップにはばらつきがあり、東京都は賃金水準も正規雇用比率もギャップが少ないことがわかり、藤波さんは「こういったことも女性が地方から流出して東京などに流入する一因ではないか。地方の企業も雇用慣行を見直さない限り、女性の地域定着が難しい状況にある」と分析しました。そして全体としては、「ジェンダー・ギャップが大きいままでは、家計の所得を最大化するために、賃金がより高い男性が主に働き、女性は家事育児を主に担うという形をとることが多くなりがち。子育て環境を整える制度も必要だが、賃金や昇進などの男女格差を改善することが必要だ」と述べました。さらに「男性が長時間働くことを前提とした職場環境を見直すことも必要で、そうしたことによって、男女がともに家事・育児を担い、ともに経済を支える社会、より成熟した社会になることが求められている」と提言しています。