【解説】東日本大震災の震源域のいまは? 7000メートルの海底の下を探る壮大プロジェクト開始 地球深部探査船「ちきゅう」船内公開
9月2日から8日までの期間、国内で震度1以上の地震は35回ありました。最大震度は2で、震度3以上の地震はありませんでした。
1か月前に日向灘で、マグニチュード7.1の地震がおこり、“相対的に巨大地震の可能性が高まっているという”として、初めての「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が出されました。
その後、震源の日向灘の周辺で地震は落ち着き、"平常時"の状態に戻ってきています。ただし、南海トラフ沿いでは"平常時"でも、30年以内に70~80パーセントの高い確率で巨大地震がおこるとされています。引き続き、地震への備えをすることが重要です。
6日、JAMSTEC=海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」が静岡の清水港を出発し、およそ3か月の調査に乗り出しました。「ちきゅう」は全長約210メートルの巨大な船で、世界トップレベルの掘削能力をもっています。
今回「ちきゅう」が調査に行くのは、2011年東日本大震災の震源域です。この類をみない巨大地震は、それまで地震がおこらないと考えられていた、プレート境界の浅い部分が大きくすべり発生しました。実は「ちきゅう」は、震災の翌年の2012年にもこの場所の調査をしています。その時には、プレート境界の浅い部分の断層が、摩擦の小さい、滑りやすい状態にあったことを解明しました。
それから12年たった今回の調査では、さらに詳しく地震のメカニズムを探るとともに、次の巨大地震にむけてエネルギーをため始めているか探ります。
■大規模な調査、どのように行うか
今回の調査では、パイプと掘削ドリルを海底7000メートルまで下ろします。そこからさらに、約1キロの深さを掘削し、直接プレート境界断層のサンプルを採取します。このドリル内には、様々な計測センサーがついていて、掘削作業と同時に地層の特性を知ることができます。
こうした調査により、断層がどの程度くっついているのか、次の地震にむけて、どの程度の力をためているのか、などを調べ、地震発生のメカニズムを探ります。
今回の掘削作業を、100分の1スケールで考えてみましょう。「長さ2メートルの船の模型を持って18階建てのビルの屋上まで持って行き、そこから直径1ミリのワイヤーをたらして、地面の直径4ミリの穴の中に入れる」ような作業だということです。
この緻密な作業を行うため、「ちきゅう」の船の機能として重要になるのは、実は海面を“進むこと”ではなく、“とどまること”だといいます。風の向きや強さなどを勘案し、船の底についている巨大な6つのプロペラを自動で稼働させることで、海上で一定の場所にとどまります。
さらに、「ちきゅう」の船内には研究施設もあり、採取した地層のサンプルを、船の中で直接研究できます。今回の調査では、世界10か国から、50人以上の地震や地質の研究者が参加します。
今回のプロジェクトに参加する、氏家恒太郎・共同首席研究者は、「時間の経過とともに、プレート境界の固着がどのように変わってくるかを実験で調べて"関係式"を作りたい。その関係式に時間を入れれば、どのくらいで地震がおこるかの目安になるかもしれない」と話しています。
また、東日本大震災のような巨大地震は、1000年に一度おこるかどうかの出来事だったと言われていますが、「本当に1000年に一度の出来事だったのか、次の地震にむけてまた固着を始めているか、ある一定の答えを出すことができると期待している」ということです。
地震のメカニズムのさらなる解明につながるのか、注目されます。